第22話「古代の悪夢」
〜グランヴェール王国 港〜
渡り廊下の壁を縦横無尽に飛び回る黒髪の少女が剣を振るうと、一人また一人と男たちが血を流し床へ倒れ伏していく。
「–––––うらあぁぁぁ!!!」
「ぐあぁ!!」
「ガハッ!!」
パンドラの剣が屈強な男たちの体を次々と切り裂いていくが、男たちは下の階へと続く階段からワラワラと群がってくる。
「はぁ…はぁ……っ!きりがないわね!!」
「パンドラちゃん、もう少しの辛抱ですよぉ!エリノアちゃんが、必ず拐われた人たちを見つけて来てくれますからぁ!」
「わかってるわよ!!ったく!–––––それにしてもこいつら、いったい何人いるのよ!!
悪態をつきたくなるほどむさ苦しい男たちの襲撃に、次第に吐き気すら覚え始めてきた。
「ミシェル!付与魔法を!!!」
「はいですよぉ〜!–––––火よっ!かの刃に猛き炎の加護を与えよっ!『ファイアギフト』ぉ!!!」
ミシェルの魔法が、パンドラの剣に炎を纏わせる。
「さぁ!行くわよ!!!」
「援護は任せてくださいですよぉ〜!!」
雄叫びを上げながら迫り来る男たちに引けを取らないほどの声を張り上げながら、パンドラが再び猛攻撃を浴びせる。
そんな様子にミシェルは若干引き攣りながらも、この場にリュウが居なくてよかったと安堵していた–––––。
–––––
船から少し離れたところ。
マースは巨大な黒色の箱の前で、暗く卑劣な笑みを浮かべていた。
「くふふっ!この私のシナリオを邪魔した罪っ!代価はその命で支払ってもらいますよっ……!!」
–––––マースは箱に向かって叫ぶ。
「さぁ、起動せよ!《古代兵器 アトランタ》よ!!!」
【認証コード 成功 アトランタ 起動】
瞬間。
機械じみた声と共に黒色の箱は歪な機械音を発しながら変形していき、次第に巨大な機械の怪物が姿を現した。
「–––––行け!アトランタよ!!あのガキどもを蹴散らしてしまえ!!!」
アトランタと呼ばれた巨大な機械の怪物は、ゆっくりと前進を始めた。
200年前の悪夢が再び、現世へと息を吹き返してしまった–––––。
–––––
その頃リュウとエリノアは、拐われた獣人種の子供たちをさがしていた。
「くそ……!エリノア、そっちはどうだ?」
「ダメだ……。ここにはないみたいだ」
「まさか奥に進むのに、いかにも面倒な仕掛けがあるなんてな……時間稼ぎのつもりか?」
目的地一歩手前と言った所で、二人は奇妙な仕掛けに道を阻まれていた。
固く閉ざされた扉には鍵穴は無く、奇妙な魔法陣が刻まれているだけ。
ドアノブもないことから見て、何か仕掛けを動かせば開くのだろうと予想はできる–––––が。
もはや一刻の猶予もない状況下では、そんなものに付き合ってはいられない。
「いっそのこと、こんな壁ぶっ壊してやるか」
「いや、そんなことをして万が一壊したところに獣人種の子供たちや他の拐われた人たちがいたら……それに、かなりの音が出るはずだ。バレたら元も子もないぞ」
「どうせもうバレてるだろうぜ? だったら、一か八かやってみるしかないぞ」
リュウが扉に手をかけ、魔力を込めて破壊しようとした瞬間。
–––––ズゥ……ン!ズゥン!
突然、大きな地響きが聞こえてきた。
「な、なんだ!?なんの音だ!!?」
「落ち着けっ!エリノア、この音に乗じて扉を破壊すれば少しは誤魔化せるかもなっ!」
「–––––やむを得ない、こうなれば強行手段だ!!リュウ!壊して進むぞ!!」
「わかった、だがこの先は今までよりも危険だぞ?大丈夫なんだな?」
リュウがそう言うと、エリノアは微笑みながら言った。
「その時は、君が守ってくれ。頼りにしてるよ」
信頼に満ちたその表情を見て、リュウは少し照れくさそうにそっぽを向いた。
「……わかった!俺に任せろ!!」
「あぁ!それじゃあ、急いで先に進むぞ!!」
「パンドラたち、無事だといいけどな……」
「心配するな、彼女たちは強い。それに、一刻も早く加勢に行けるように、子どもたちを探すのが優先だろ?」
「そうだな……。よし、行くか!!!」
–––––
「ちょ、ちょっと!?アレなに!!?」
「お、大きいですねぇ〜……」
突如として崩落した渡り廊下から下の階へと落下したパンドラとミシェル。
パンドラたちの目線の先には、巨大な機械の怪物 アトランタの姿があった。
漆黒の機体には歴戦の傷を思わせるものが所々あるが、そんなものは全く問題無いとでも言うように20メートルはある重々しい巨体をゆっくりと動かす。
【クハハハハハハハハ!!!そこのガキどもぉ!!!】
突如、スピーカーのようなものからマースの声が響き渡った。
【よくも好き放題してくれたなぁ!だが、それもここまでだ!!】
「どこから聞こえてくるの!?」
「パンドラちゃん!あの巨大な機械から聞こえてきますよぉ〜……!」
崩壊した瓦礫を無理矢理押し退けて顔を覗き込むアトランタから、マースの気味の悪い笑い声が響き渡っている。
【この古代兵器 アトランタで、貴様らを踏みつぶしてくれる!】
マースがそう言っている間に、アトランタは瓦礫を跳ね除けながら更に前進を続けている。
「あーもう!!エリノアはまだなの!?リュウは何をしてるのよ!!!」
「あわわわ……!ど、どうしましょうかぁ〜……!!」
突如として現れた災厄を前にし、その圧倒的な存在に息を呑み歯噛みしてしまうほどの無力感に襲われる。
「パンドラ!ミシェル!!大丈夫か!!?」
そんな絶望的な状況の中、背後から聞こえてきた声にパンドラもミシェルも思わず安堵した。
「ギル!無事だったの!?よかったぁ〜……!」
「あぁ?当たり前だ、あんな雑魚に負けるわけないだろ」
キメ顔で胸を叩くギルが今ではとても頼もしく思える。
「さすがギルさんですぅ!でもぉ、アレにどうやって立ち向かうんですかぁ……?」
「ん?そうだな、距離を保ちつつ魔法で遠距離攻撃を狙うのがいいだろうな。とりあえずこの建物から出るぞ、まとめて瓦礫の下なんてのは御免だからな」
「わかりましたぁ!ではぁ〜、私の出番ですねぇ〜?張り切っちゃいますよぉ〜♪」
「わかった、私は周りの雑魚どもをやるわ!!」
「よし、パンドラ!!ミシェル!!!行くぞ!!!!」
掛け声一つ掲げ、三人は一斉に駆け出す。
アトランタを見て唖然としている敵にパンドラが容赦なく仕掛け、ミシェルは建物の壁を魔法で吹き飛ばし脱出経路を確保する。
ギルは二人のサポートに回り、注意深くアトランタを警戒している。
「うらぁぁぁぁぁぁ!!!」
「な!?うわぁぁぁ!!」
「ぎゃああああ!!」
脱出経路を確保したミシェルが、今度はアトランタへと攻撃を仕掛ける–––––が。
「氷よ、穿てっ!!『氷雪矢!!』
だがミシェルの中級魔法では、アトランタの頑丈な装甲の前に虚しく砕け散った。
それもそのはず、アトランタの装甲は以前リュウやエリノアが対峙した盗賊が着ていた【魔導鎧】よりもさらに強力な防御性能を誇っている。
200年前の大戦で多くの戦場を蹂躙して回った機体の一つなのだ、並大抵の攻撃では傷一つ付けられない。
「むぅ!なかなか手強いですねぇ〜!!」
「あの装甲を貫くには、もっと強力な魔法じゃなきゃダメだな」
「そんなこと言われてもぉ……。私にはこれが精一杯ですよぉ〜」
【クフフフフ!!そんな攻撃では、このアトランタを止めることはできませんよ!!】
どうやらマースは、あのアトランタに乗り込んでいるようだ。
耳障りな音と声が余計にパンドラの神経を逆撫でする。
「どうしましょうかぁ〜?このままでは、まずいですよぉ〜!」
「まぁ、焦るな。なにもアレと戦って、勝てってわけじゃない。エリノアとリュウが拐われた子供たちを連れて来れば、あとは脱出して逃げるだけ。それまで耐えればいい」
「なるほどぉ〜」
「それまで耐えられるかが、問題だけど……な!!」
ギルは迫り来る盗賊たちを押し退け、魔法を放つミシェルの護衛に徹底している。
そのおかげで、ミシェルも安心して魔法詠唱ができる。
「さぁてとぉ〜!ご主人様とエリノアちゃんのためにも、ここはなんとしてでも耐えますよぉ〜!!」
–––––
「くそ!あのガキどこに隠れやがった!!」
「まだそう遠くには行ってねぇはずだ!探し出せ!!」
「外は騒がしいし建物は揺れるし、一体なんだってんだい!!」
船内では、大勢の男たちが侵入者を捕まえるために駆け回っている。
「私が左をやる。リュウ、君は右のやつを頼んだ」
「あぁ、わかった。任せろ–––––」
–––––先ほどのアトランタによる渡り廊下の崩落の音に乗じて扉を破壊したものの、案の定周辺にいた盗賊たちから見つかってしまったリュウとエリノア。
その結果、現在進行形で大勢の見張りの盗賊たちに追いかけられている–––––。
「–––––ぐああぁぁぁ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なんだ!?どうした!!?」
「いたぞ!逃がすな!!」
これでも二人がかりで大勢の敵を葬ったはずなのだが、敵の数は一向に減る気配がない。
建物をこれ以上傷つけて崩壊させてしまうことも危惧し、大規模な魔法は使えないため地道に数を減らしてはいるが–––––この調子では終わりが見えない。
「エリノア!こいつら全員倒してっと時間の無駄だ!ここは俺に任せて、お前は先に行け!!」
「あぁ、それもそうだな……。わかった!任せたぞ!!」
エリノアはそう言うと階段を駆け上がってくる盗賊たちの上を飛び越え、さらに階下へと駆け下りていった–––––。
当然追いかけようと引き返す盗賊たちの前に、舌なめずりをしながら奇声を発する青髪の少年が立ち塞がった。
「ヒャッハー↑!!ここは通さねぇぜぇ??」
その奇妙な光景に思わず盗賊たちも後退りしてしまうが、すぐにハッとなって怒声を上げる。
「あぁ?ふざけてんじゃねぇぞガキが!そこを退きやがれ!!!」
「はぁ〜?だーかーらー、ここは通さねぇって言ってんだろ?耳クソ詰まってんのか」
「チッ!!もう我慢ならねぇ–––––かまわねぇ!!やっちまえ!!」
「うおおおおおお!!!」
「ハッ!やっとその気になったか。いいぜぇ?遊んでやるよ!!」
もはや世紀末VS世紀末な絵面となってしまったが、それにツッコミを入れられる者は残っていなかった–––––。
–––––
「はぁ……!はぁ……!!」
とうとう地下室へと進む階段を見つけ、エリノアはその広い空間を魔法により作り出した小さな光を頼りに駆け回る–––––。
扉を開けるたびに鉄格子が並ぶ廊下へと行き当たり、そのたびに顔色を青く染めていく。
まさか自分が暮らしていた–––––守ってきた国にこんな場所があったとは……。
グランヴェールでは奴隷制度は固く禁じられており、重い処罰もされてきた。
それにも関わらず、未だにこんな事が起こっていたことに何も気付けずにいた自分自身に心底腹が立つ。
「–––––なにが戦姫だ……くそっ!!」
血が滲むほど拳を硬く握り締めながら走り抜けるエリノアの耳に、微かにだが子どもの泣き声が聞こえてきた–––––。
–––うわぁ……ん
–––お姉ちゃ……けて
「この奥だっ!!」
再び足に魔力を込めて通路の奥まで一気に駆け抜けると、開けた場所に出た。
そこに、いたのだ!
布一枚で体を覆い、か細い声で泣きながら身を寄せ合う獣のような耳と尾を持った獣人が!
「お姉ちゃん、助けてよ……」
「大丈夫だよ。きっと助けが来るから」
6人くらいの子どもが身を寄せ合い、檻の中でただひたすらに助けを求めて泣いていた。
「–––––君たち!大丈夫か!?」
エリノアが声をかけると、獣人の子供たちは怯えた表情をした。
「……だ、誰にゃ!?」
エリノアの声に応えたのは、茶髪のショートボブの猫耳少女だった。
「よかった、言葉はわかるみたいだな!驚かせてすまない、私はエリノア・ファーレンガルド。この国の戦姫だ」
「戦……姫……?」
「そうだ、怖がらなくてもいい。私はカンナから、君たちを助けて欲しいと頼まれた」
「……にゃ!?カンナお姉ちゃんからにゃ!!?」
カンナの名前を出したら、警戒心が解けたみたいだな。
はやくここから助けださなくては!!!
「あ、あの!私の弟を見ませんでしたか!?私と同じ、犬型の獣人です!!」
紫色の長髪の少女が、必死な表情で聞いてきた。
「もしかして、カンナのところにいた紫色の髪をした、垂れ耳の少年のことか?」
「そ、そうです!弟の『キョウ』です!キョウは無事ですか!?ちゃんとご飯食べてましたか!?」
「お、落ち着け!君の弟は無事だ。ご飯もたくさん食べているし、とても元気だよ。お姉ちゃんのことを心配していたぞ?」
「よ、よかったぁ……」
「キョウくん、無事なんだね!よかったね、イザヨイお姉ちゃん!」
「うん……うん!」
いい姉弟だ、仲が良いんだろうな……。
私が無事にこの子たちを連れ出さなければ……!!
「この檻、魔法でしか壊せないのか……!任せろ!!」
エリノアは得意の風魔法で檻を破壊し、子供たちの手枷も外した。
「さぁ、はやくここを出よう!ここは危険だ!!」
と言ったが、どうやってここを出れば良いんだ……。
元の道へ戻れば、敵がいるし、壁を壊して脱出しようとしても、ここから海へ飛び込もうにも、高さがある……。
「どうしたのにゃ?はやく脱出するにゃ!!」
「すまない、脱出する良い方法が……」
「この壁ぶち破って、外に出れば良いにゃ!」
「この場所は高い位置にある。飛び降りれば、それこそ危険だ……」
「それなら大丈夫にゃ!私たち獣人は、へっちゃらにゃ!!」
「ウヅキ、小さい子は念のため背負って降りましょう」
「イザヨイ!とっとと降りて、あいつらをぶちのめすにゃ!!」
ウヅキはそう言うと、壁を思いっきり蹴飛ばした。
瞬間、分厚い鉄の壁は見事にぶち破られた。
「こ、これが獣人種の力か……!」
「へっへーんにゃ♫」
「だが、そんな力があるのにどうして捕まったりしたんだ?」
「それは話すと長くなるにゃ!まずは、脱出が先にゃ!!」
「そうだったな、すまない。では、君たちは先にここから脱出してくれ!私は、まだ船内にいる仲間の援護に向かう!!」
「わかったにゃあ!!」
「わかりました!ありがとうございます!」
ウヅキとイザヨイは、他の獣人の子どもたちを連れて、脱出した。
リュウ、今行くぞ!!
–––––
–––よぉ!良い子のみんな、元気にしてるか?!
俺か?俺は見ての通り元気だっ☆
なんて言ったって、こんなにむさ苦しいおっさんたちと元気に鬼ごっこをしてるんだからなっ!
見てみろよ!あんなに顔を真っ赤にして、まるでお猿さんみたいだな☆さすがの俺もちょっと怖いぜっ☆
おっと、こんなこと言ってる場合じゃ無かったな♪
–––とりあえず助けてくれっっっっっ!!!!!!!
「–––––待ちやがれクソガキィィィィィィ!!!!」
「うおおおおおお!!!どこまでついてくんだよクソジジイどもがぁぁぁぁぁぁ!!!」
–––––なんだってんだよ!!多すぎだろ!!!
魔法を使おうにも狭すぎるし、剣で戦おうにも相手が多すぎる!!
エリノアはもう見つけたのか!!?
「クソがああああ!!!!逃がさねぇぞぉぉぉぉおおお!!!」
「あーくそ!!しつっけーんだよ!!!」
いつまでも逃げてばかりじゃ、きりがねぇ!!!戦うしかねぇな!!!
「はぁ……はぁ、やっと観念したかクソガキ!もう逃がさねぇぞ!!」
「うるせぇジジイだなぁ〜……!そこまで言うなら、かかってこいよ!!」
「上等だ!!やっちまえ!!!」
『うおおおおおおおおおおお!!!!!』
剣士が8人 魔導士が5人ってとこか……。
こんな狭いとこでの戦いはやりづらいが、今はこの小さな体に感謝だなっ!!
「–––––おらあああ!!!」
–––––リュウが抜き放った魔閃剣 グリモアによる燃え盛る一太刀が、先頭に躍り出た男の体を横凪に焼き斬った。
聖級火魔法『炎龍』を纏った剣撃に盗賊たちが受け切れるはずもなく、次々と斬り伏せられていく。
「『雷雨』!!」
「うおおっ!?」
しかし間髪入れずに放たれる敵の魔導士の攻撃が、リュウの目の前に降り注ぐ。
「あっぶねぇー!!やりやがったなぁ!!『雷雨』!!!」
お返しと言わんばかりに放たれる無詠唱の雷雨が、後衛の魔導士三人を直撃する。
身構える隙すら与えられる事なく消し炭になった仲間の姿を見て、他の盗賊たちも思わず呻き声を上げた–––––。
くそ……!この世界に来てまだ戦闘に慣れてないのもあるけど、この数はキツイな!!
これ使うと疲れるけど、仕方ねぇ!!
「な、なんだ……!?あのガキの目、赤く光りやがったぞ!!」
「気をつけろ!何かの魔法かも知れん!!」
目の前の小さな悪魔の見たことも無い変貌に、盗賊たちは阿鼻叫喚の声を揃える–––––。
「やっぱ、『龍眼』のフルパワーは魔力をかなり消費するな……!!」
小さく苦しそうに呟いたリュウの声など聞く者は誰もいない。
ただただ我武者羅に目の前の悪夢を終わらせるために足掻く他無いのだ–––––。
「–––––うおおおおお!!!!」
残りの盗賊たちが一斉に攻撃を仕掛けるが、龍眼を使用しているリュウはその全てを見切る。
同時攻撃すら意図も容易く避けられ、気が付けば視界がずれ落ちていく。
『炎龍』を纏った刃に焼き斬られた者は、その熱により血飛沫すら上げることも出来ずに崩れ落ちる。
「ひ、ひいいいい!!」
「なんだこのガキ!?急に動きが変わりやがったぞ!!?」
薄暗い空間の中で、ただリュウの瞳が紅く輝く。
もはやどちらが狩られる側なのか、残された者たちは迫り来る悪夢に腰を抜かし許しを乞い続ける–––––。
「さぁてと、形勢逆転ってところか??」
さりとて、その小さな悪魔は気にも留めない。
“この世界に必要の無いものを取り除くだけなのだから”
–––––
「–––––リュウ!!?無事か!!!?」
エリノアは獣人種の子供たちを外へ逃がした後、一刻も早くこの場から去るように促した。
そして自分は凄まじい速度で来た道を戻り、階段を駆け上がった。
あの場を任せ置いてきてしまったリュウにもしものことがあったらと考えると気が気でしょうがなく、一刻も速く合流しようと考えた–––––。
「–––––おぉ〜!エリノア!!こっちはちょうど片付いたとこだ!!そっちはどうだ?見つかったか??」
だが、当の本人はエリノアの心配もどこ吹く風のようだ。
床に座り込み、エリノアに気が付くとヘラヘラと手を振っている。
「よかった、無事だったか……!こっちも、子供たちを外へ逃がした。すぐに他のみんなと合流しよう、外に出た時に見えた巨大な影が心配だ」
「エリノアも見たか。俺も逃げ回ってる時にチラッとだけ見えたが、この揺れはアレが原因だろうな」
「……二人が心配じゃ無いのか?」
見えていたのなら何故すぐに助けに行かないのかとリュウを訝しむ。
「なんだよ、お前を待ってたんじゃねぇか–––––これでも心配してたんだぞ?かと言って俺がお前を追いかけても辿り着けるか微妙だし、大人しく信じて待っとこうと思ってだな……」
だが、予想外の返答にエリノアは思わずキョトンと口を開けてしまう。
「なんだよその顔……ギルさんの魔力も感じるし、向こうは大丈夫だろ。けど、早く合流しようぜ?」
エリノアはバツの悪そうなリュウの横顔を見て、胸が締め付けられるような感覚に陥った。
だが、決して嫌な気持ちではなかった。
「私のことを心配するようなやつは、お前くらいだぞ……」
ポツリと呟いた声はリュウの耳には届かない。
照れくさそうに苦笑いを浮かべて立ち上がるリュウの手を引きながら、エリノアは思案する–––––。
–––––そうか……やはり私は、リュウが愛しくて仕方ないのだな……。
だからさっきもリュウのことを考えて、いてもたってもいられなくなったのだな–––––。
「–––––ん?どうした??はやく行こうぜ??」
「あ、あぁ……すまない」
リュウがこんなにも近い。
目があっただけなのに、こんなにも顔が熱を持つ。
「–––––??」
リュウはエリノアのそんな気持ちなど、わかるはずがなかった–––––。
『イチャついてないで早く行け☆』
リュートの呆れた声が、リュウの頭に響き渡っている–––––。
更新が長い間止まってしまい、すみませんでした!!
待ってくれた方も、そうでないかたも、これからも読んでくれたら嬉しいです!!
(待ってくれてる人いるかなぁ…?いてくれたらいいなぁ〜w)




