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龍刻の転生者  作者: 勇者 きのこ
少年期 第3章 冒険編
22/51

第21話「潜入」

更新が1ヶ月も遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした!

これからも全力で頑張っていきますので、何卒、温かい目で、気長に待っていてください!!本当にすいません!!!






 〜グランヴェール王国 港〜





 昼間は賑やかなこの街も、夜になれば人の気配は少なくなり、昼と夜では違う街のように思える。


 そんな街の港では、夜になってから動き出す者たちもいる。

 奴隷商人たちも、その中の一つだ。





 –––






 –––––コンコンッ!


 今日も、奴隷を買い求め、貴族たちがやってくる。

 港にある大きな建物には、今日も誰かの影があった。


【グリフォンの尾】


 扉の前では1人の男が、ノックをして合図する。

 それに呼応するように、中から別の男が問いかける。


【獅子の威】


【よし、入れ】


 合言葉を確認し、中から扉が開かれる。


「ん?見ない顔だな……新入りか?」


「えぇ、つい先日ここに入ったばかりなんですよ。今日は、上の人からここにお客さんを連れてくるように言われましてね」


 厳つい男の問いかけに、入ってきたボロフードの男はヘラヘラした口調で答える。


「そうか、ご苦労だったな。それで、その客はどこに?」


「何言ってるんですか?もうすでに、『あなたの後ろにいるじゃないですか』」


「んな–––––!?……ガハッ!」


 フードの男が後ろを指さすと同時に、厳つい男は頭部に強い衝撃を加えられ、地面に突っ伏した。


「ふぅ…!ナイスだぞ〜パンドラ!」


「あんたこそ、なかなかの演技だったわね–––––ギル♪」


 フードをとったギルは、パンドラに向かって親指を立てた。

 パンドラもスカッとしたのか、いい表情をしている。怖い。


「パンドラ怖え〜……」


「あらあら、ご主人様ぁ?そんなこと言ったら、パンドラちゃんが傷つきますよぉ〜?」


「リュウ!なんか言った!!?」


「い、いや、何も言ってないぞ!」


「こら騒ぐなっ!他の奴らに気付かれちまうだろ?」


 リュウとパンドラはハッとしてすぐさま声を押し殺す。


「–––––よし、まだばれてないみたいだな……?」


「ありがとうございます、ギルさん。協力してもらって」


「何言ってんだよ。これくらい当たり前だろ?いや〜、それにしてもびっくりしたよ。帰ってきたらいきなり頭下げられるし、一緒に戦って欲しいとか言われるしな」


 リュウはカンナたちと別れた後、一度宿に戻ってギルの帰りを待つことにした。

 安全に侵入するには、彼に協力してもらうのが一番だからだ。


 そして、次の朝にギルとパンドラとミシェルを貧民区のカンナたちに合わせ、事情を知ってもらった。


「エリノア、その子供たちはどこにいるかわかるの?」


「あぁ、カンナから奴隷たちの場所は聞いた。だが、すぐに船に乗せられるかもしれない。急がなくてはなっ!」


 エリノアとパンドラは、ちょっと性格が似てるかもしれないな……。

 いいコンビだ。


 リュウがそんなことを考えている間に、他の四人は迅速に作戦の実行へと移る。


「それじゃあ、作戦遂行に移るとしよう。みんな、作戦通りに動くのも大事だが逃げることも大切だぞ。無理はしないように」


「わかってるわよ!私とエリノアとミシェルが、子供たちを見つけ出して安全な場所へ連れていけばいいのよね!

「あぁ、そうだ。俺とリュウは敵の注意を引きつけておくから、その間に子供たちを見つけ出してくれ」


 リュウの首根っこを猫のように掴むと、ニカッと親指を立てる。


「この奥に、拐われた人たちが……」


「そこに獣人種の子供たちもいるはずだ、行こう」


 中は普通の部屋だが、奥に下へ続く階段が見える。


(他の部屋の様子も、一応調べたほうがいいか?)


『そうだね、何か手がかりが見つかるかも』


「奴隷たちは、この地下にいるようだ。おそらく、警備も厳重になってくるはずだ。気を引き締めていこう」


「まったく–––––こんなに勇敢な子供は、見たことないぜ……」


 そう言ったエリノアや頷き返すパンドラたちを見て、ギルは頭を掻きながらため息をついた。


「よし、そんなに時間はないはずだ。急ごう!」


 エリノアはそう言って、部屋の奥の階段へと進んで行った。

 リュウたちも辺りを警戒しながら、それに続いた。





 –––





「うんうん、いい顔をしてますね〜!獣人種は、高値で売れますからね!粗末に扱わないようにしてくださいよ?大事な『商品』なんですからね〜!」


「わかってますって。あなたも、なかなかの趣味をお持ちだ」


 地下では、2人の男が怪しげな笑みを浮かべながら会話をしていた。

 内容は、拐ってきた獣人種の値段についてだ。


「他の奴隷たちも、なかなか良い顔をしている!これなら高く売れそうだ!」


「マースさん、あなたは本当に奴隷たちの絶望した顔がお好きだ」


「褒めていただき、ありがとうございます!私は金と奴隷たちのこの顔が大好きでねぇ!あぁ…!見ているだけでゾクゾクしてきますねぇ!」


 マースと呼ばれた貴族の男は、体をグネグネと気味悪く動かしながら言った。


「このクソヤロー!お前らなんか、ねーちゃんたちがギッタギタにしてやるにゃ!後で泣いて詫びるがいいにゃ!」


「ほほう、まだ威勢の良い奴がいましたか」


 檻の中から1人の獣人の少女が、牙をむき出しながらマースに挑発していた。


「や、やめなよウヅキ!またいじめられちゃうよ!」


「イザヨイ!お前は悔しくにゃいんか!?お前の弟だって、こいつらにひどい目に合わされたにゃんよ!?」


「そ、そうだけど……」


「にゃーにゃーピーピーうるせぇっ!!静かにしねーか!クソガキどもが!!!」


 巨漢の男が檻を蹴飛ばすと、ウヅキはその男を鋭い目で睨みつけた。


「まぁまぁ、ゴーグさん。放っておきましょう。あなたにはこれから、この奴隷たちを船に乗せる時の警備、もとい護衛をしてもらわなくてわなりませんからね。準備が整うまで、上で休んでいてください」


 今にも殴りかかろうとするゴーグと呼ばれた巨漢を宥め、マースは指示を出す。


 明日の朝にはこの国を出て、他の国の貴族を相手に商売をするのだ。


「……ッチ!そうだ旦那、あんたが外で野放しにしてるあのクソガキどもは、いってぇどうするおつもりで?」


「あぁ、あの子たちですか?もちろん、後で回収しますよ♪それに、もうすぐ時間切れですからね〜♪そろそろ、泣きながらお願いしにくるんじゃないですかね〜♪『家族を助けて!』って♪』


「あんたって人は……どこまでも悪人だよ」


「褒め言葉ですよ♪」





 –––





「–––––っくそ、広いな!」


 大きな建物の中は、港の貨物置き場のような場所だ。


 建物の中央は海と面しており、巨大な船が停泊している。


 その横には大勢の乗組員たちが作業をしておりました地下からエレベーターのようなもので荷を運び出しているようだった。


 ここのどこかに、地下へと続く階段があるはずなんだが……。


「ギルさん……ここは他にも、どれくらいの拐われた人がいるんでしょうか」


「それは、俺にはわからん。だが、そんなに多くはないはずだ。ここの広さを考えても、本命は船が向かう先だろうな。そこに、奴隷市場(・・・・)があるんだろう」


 くそ……胸糞悪りぃ……ッ!

 人を人として扱わないってのが気に食わねぇ!


「……リュウ、敵よ」


 パンドラが指差す方向を覗き込むと、腰に剣を携えた男が2人いた。

 おそらく、見張りだろう。


「よし、1人は無力化して、1人は捉えよう。情報を引き出すんだ」


「わかったわ。私が殺すから、ギル、あんたはもう一人をお願い」


 ギルの提案にパンドラが乗った。


「よし、同時に行くぞ!1,2,3!」


 合図と同時に、二人が荷の裏から飛び出した。

 

 パンドラはすぐさま片割れの男の首を掻き切り、喉を潰す。


 それに気を取られたもう片割れをギルが押さえ込み、間髪入れず口の中に布を押し込んだ。


 男たちは悲鳴すらあげる間も無く、一瞬で無力化されてしまった。





 –––





「う、うぅ……」


「よぉ、目が覚めたみたいだなぁ。さぁてと、お前に考える時間をやろう。おっと!大きな声を出すんじゃないぞ?その瞬間に、お前の首と胴体は離れちまうからなぁ」


「ひ、ひぃぃ!わ、わかった!なんでも言う通りにするから、それだけはやめてくれぇ!」


 薄暗い部屋の中では、ロウソク1本の光だけが、周りを照らしている。

 そこにはフードを被った複数の小さな人間と、一人だけ背の高い男。

 その前には、縛られたまま椅子に座らされた男が一人だけ。


「は!なんでもするだとよ!!こりゃ頼もしい情報源だぜ!!!」


 フードを被った怪しい男が、手に持った短刀を片手に高笑いした。

 その異様な姿が、さらに恐怖を掻き立てる。


「さ〜てと。じゃあ、まずはお前らが拐ってきた奴らがどこにいるか教えてもらおうか?ん?」


「あ、あぁ。奴隷のことだろ?それなら、もうとっくに船に乗って–––––ぐあぁぁぁ!!」


 話の途中で、背の高い男が椅子に座らされた男の太股に短剣を突き刺した。


「悪りぃな〜、つい手が滑っちまった♪ こちとら、あんたが嘘をついてるかどうか、見分けることができるんだよ。正直に話した方が、お互いの利益になると思わねぇか?ん?」


 背の高い男が猫のように首根っこを掴んでいるフードの影から怪しく光る紅い閃光がギラつき、何でもお見通しだとでも言わんばかりにこちらを真っ直ぐ見つめている。


「–––––わ、わかった……!正直に答えるから!!」


「だったら、さっさと答えてくれよ?時間がもったいねぇ」


「ど、奴隷たちは地下だ!道は–––––」





 –––





「ふぅ〜。リュウ、情報に嘘はなかったんだよな?」


「脈拍、発汗、視線の動き、筋肉の硬直具合を見て嘘はついてはいませんでした」


「しっかし、便利な魔法だなぁ〜!ルシフェルに教わったのか?あいつも、そんな魔法があるなら俺にも教えてくれればいいのになぁ!」


「いや……魔法っていうか、パンドラとミシェルを見てて学んだっていうか……」


「どういう意味よっ!!」


「まるで嘘つきの常習犯みたいな言い方なのですよぉ〜!」


 リュウたちは情報を得て、獣人種の子供たちがいる地下へと向かっていた。


 途中、何度か戦闘はあったが気づかれない内に排除することができたはずだ。

 もう少しで、目的の場所にたどり着くことができる。


「–––––っ!!全員、そこの部屋に飛び込め!!」


 ギルの咄嗟の掛け声に驚いたが、全員は言われた部屋に急いで飛び込んだ。


 瞬間、弾丸のような速さの岩の塊が飛んできて、先ほどリュウたちがいた場所をゴゥッと音を立てて通り過ぎた。


「流石だなぁ!ここまでたどり着いただけはあるってか?クソガキどもぉ!!」


「–––––リュウ、あいつは確か!」


「あぁ、カンナたちのところにいた二人組の片割れだな」


「金が集まらなかったら無理矢理にでも奪い返しに来るかとここで見張ってたんだけどなぁ〜?まさか協力者を連れてくるとはなっ!」


 –––––見つかってしまったッ!


 リュウたちの表情に焦りが見て取れた。


 この男がここにいる理由。

 そして見つかってしまった以上、奴隷を人質に取られるのだけは何としても回避しなければならない。


「はは!惜しかったなぁ!もうとっくに出航の準備はできてんだよ!!俺はそれまでの時間稼ぎとしてここにいるわけだが、殺してもいいって話だ。存分に楽しませてくれよ!クソガキどもぉ!!」


 もう一つの不安が的中した–––––っ!!


 最初からカンナたちを捕まえて即座に出港するつもりだったのだ。


「おいお前ら!こいつは俺が相手する!だから、お前らはさっさと獣人のガキどもを取り返して来い!!ミシェル、俺の剣をよこせ!!」


「はいなのですぅ!」


 ミシェルはは召喚魔法でギルの大剣を取り出した。


 ギルはそれを受け取ると、凄まじい殺気を放ち両手で剣を構える。


 巨漢の男が身に纏っている鎧やアクセサリーのようないくつもの魔導具を見て、パンドラやミシェルでは勝ち目はないとギルは判断した。


「は!なかなかいい面構えじゃねぇか!気に入ったぜ!!」


「リュウ。はやく行かねぇと、船が出ちまうぜ?ここは俺に任せて、お前らはさっさと船に乗り込め」


「わかりました!頼りにしてます!!」


 リュウはそう言うと、パンドラたちと共に走っていった。


「さぁ……始めようぜ?」


「ふんッ!!舐めるなッッ!!」





 –––





「さぁさぁ!急いでくださいよ!!奴らが来てしまうじゃないですか!!」


 船内では、着々と出航の準備が進められていた。


「旦那!大変です!!奴らが来ました!!」


「なんですと!?ゴーグさんは、いったい何をやってるんですか!!全員、私の商品を全力で守りなさい!!報酬もアップさせます!!」


「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


「来たぞ!あいつらだ!!」


「なんだ、ただのガキじゃねぇか!さっさと片付けちまうぞ!!」




 –––




 現れたのは、パンドラとミシェルの2人だった。

 2人とも、嫌そうな顔をしている。


「あ〜ぁ。むさ苦しい奴らが、いっぱい来たわよ?」


「臭そうだから、近寄らないで欲しいですねぇ〜♪」


「はぁ……。それじゃ、思いっきり!」


「やっちゃいましょうかぁ♪」


 だが、その顔は次第に新しいおもちゃを手に入れた子供のような、無邪気な表情に変わっていった。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


「邪魔よ!はぁぁっ!!」


 パンドラの剣が、男たちの体を切り裂いていく!


「このガキ–––––ぐあぁぁぁ!!」


「なんだこいつ!本当に子供か!?」


「こんな姿だからって、なめるんじゃないわよ!!うらぁぁ!!!」


 一人また一人とパンドラは、次々と男たちを葬り去っていく。


「あらあらぁ、パンドラちゃんったらぁ。血気盛んですねぇ〜」


「こっちの子供は、向こうに比べて弱そうだな。手柄は俺のもんだぁぁぁぁ!!」


「うるさい羽虫さんですねぇ♪私に近づいていいと、誰が許可したんですかぁ?–––––氷よ、穿て『氷矢(ブリザードアロー)』♪」


「うぐああぁぁ!!」


 ミシェルの放った魔法が、男たちを貫いていく!


「な、なんなんだこいつら!!本当にガキかよ!!」


「うろたえるな!!数は圧倒的にこちらが有利だ!怯まずに戦え!!」


 だがいくら倒したところで、雇われた男たちは五百人を越える。

 このまま戦い続ければ、パンドラとミシェルは次第にジリ貧となって押し負けてしまう。


(だが、こちらとしても安心はできませんね……。そうだ!《あの商品》を試してみるいい機会じゃないですか!!これで、奴らも終わりですね〜♪)


 –––––不敵な笑みを浮かべたマースは、船の中へと入って行った。


 200年前、かつて《兵器》と呼ばれた物を呼び起こすために–––––。













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