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龍刻の転生者  作者: 勇者 きのこ
少年期 第3章 冒険編
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第15話「決闘」






 決闘の場所は、蒼天の騎士団も利用する立派な訓練場だ。


 とても広く作られており、騎士団内での決闘の場としても使用されている。


 その中心に佇む、二人の男女の姿があった。


 一人は、幼いながらも素晴らしい剣の才能を持ち、数々の強敵を打ち倒してきた戦姫 エリノア。

 もう一人は、青く長い髪を後ろで束ねた紅い瞳の少年リュウ・ルーク。


「安心してくれ、この訓練場は安全な作りになっている。この足場に掘られた魔方陣の中にいる限り、さっき渡した腕輪が致命傷を避けるために身代わりになる」


 エリノアにそう言われ、リュウは先ほど受け取った腕輪に視線を落とす。


「それに、この防御の魔障壁が私たちの攻撃から外を守ってくれる。間違っても、周りの人に危害を加えることはない」


「–––––なるほど、これで心置きなく全力が出せるってわけか」


 リュウのその言葉に、エリノアはそれを肯定するかのように不敵に微笑む。


「けどよ、念には念を入れてだ。–––––俺はこの前見せたような魔法は使わない。お前も少しは周りに気を遣えよ?」


「–––––あぁ、わかった。貫通系の魔法は使わないでおこう」


 魔導鎧をいとも簡単に貫いた魔法を実際に目の当たりにしたエリノアだからこそ、リュウの言うことに納得できる。


「では、開始の合図は僕が行おう!」


 野次馬の貴族たちの間から出てきたエリノアの父、グリルが声を高々に言う。


「両者、用意は良いかな?決闘方式は騎士団の作法に則って行う!腕輪の破損、もしくは降参の宣言を敗北の条件とする!」


 グリルの言葉に、周囲の者が息を呑む。


 向き合う二人の押しつぶされそうなほどの気迫に皆が飲み込まれている。


「–––––では、始めっ!!」


 開始の合図と共に、両者が地を蹴った–––––。




 







 ー30分前ー





「もう!なんで勝負を受けちゃったのよ!!」


 館の中のとある一室では、リュウとパンドラ、ミシェルが集まっていた。

 冒険者服に着替え、これから始まる戦いに向けての準備をしていた。


「いいじゃねぇか。こんなチャンス、滅多にないんだぜ?戦姫と勝負ができるんだ。腕がなるぜ!」


 リュウは、エリノアとの勝負が楽しみで仕方がないようだ。


「でもぉ、相手は戦姫ですよぉ〜?どうやって勝つおつもりなんですかぁ?」


 戦姫一人で国家軍事力としては十分とまで言われているほどだ。


 生半可な覚悟で挑めば返り討ちに会うことは容易に想像できる。


「別に考えがないわけじゃねぇけどよ。俺だって、今の力がどれだけ通用するのか試したいんだ」


 リュウは不敵に微笑みながら言った。


「街で聞いたんだけど、エリノアは《精霊》を召喚して戦うらしいわ。具現化できるほどの精霊なら、かなり強力だと思った方が良いわね」


 一般的に知られている精霊は、この世界に具現化できるほどの力を持たない。


 それができるのは、少なくとも精霊王級だ。


「精霊ってのは、どっかで仲間にできたりするのか?」


「それについては、このミシェルちゃんにお任せなのですよぉ〜♪」


 ミシェルはえっへんと胸を張り、パンドラとリュウの間に割って入った。


「精霊の種類は様々ですが、多くの精霊は《守護精霊》と呼ばれるものですぅ! 守護精霊は産まれた瞬間に宿り、訓練を積んだりとなんらかのきっかけによって召喚が出来るようになるんですよぉ〜♪」


「ですからぁ、精霊は仲間にするのではなく最初から仲間、家族なんですよぉ〜♪ 精霊は姿形を自由に変えることができ、武器や盾になったり、鎧になったりと様々なのですぅ!」


 ミシェルの説明を聞き、リュウはまた考え出した。


 そして、何かに思い至ったように口を開いた。


「俺の中にも精霊っている?


「ご主人様からは精霊の力を感じませんねぇ〜。精霊が宿ってること自体が稀なのですよぉ」


 リュウはそれを聞いて、肩を落とした。

 少し落ち込んでいるようだ。


「なら、パンドラやミシェルはどうなんだ?精霊を召喚できるのか?」


「私はできませんが、パンドラちゃんならできますよぉ?」


「ホントか!?パンドラ、できるのか!?」


「え、えぇ、まぁ……」


「今っ!今、召喚できるか!?」


「できるわけないでしょっ?!場所を考えて言いなさいよ!!」


「落ち着いてください、ご主人様ぁ〜……」


「じゃあ今度っ!また今度見せてくれよなっ?!」






 –––––







 互いの剣がぶつかり合い、甲高い金属音が辺りに響き渡る。


 初撃はエリノアが優勢。

 剣ごとリュウの身体を宙へと薙ぎ飛ばし、再び追撃へと地を蹴り剣を滑らせる。


「–––––っ?! くそっ!!」


 しかし、眼前まで迫ったエリノアの前に岩壁が立ち塞がった。


「無詠唱魔法かっ!だがこんなものッ!!」


 そんな小細工など関係ないとばかりに岩壁ごと断ち斬るが、エリノアの目に映ったのはリュウの姿ではなく–––––っ。


「–––––多重魔法だとっ?!」


 何十にも浮かぶ魔方陣から現れた火球が、エリノアを焼き尽くさんと襲い掛かる。


「こんなものでは私は倒せんぞっ!–––––風よッ!我が剣となって敵を穿てッ!!『ウィンド・ブラスト』ッ!!!」


 エリノアの放った聖級風魔法が火球を全て吹き飛ばし、そのままギャラリーの目の前で爆散した。


「おいおい!少しは気を遣えって言っただろっ?!」


「だったら小細工なんてせずに、真正面からかかって来い!!」


 間髪入れずに再び斬りかかり、凄まじい剣撃がリュウを襲う。


 だが疾風の靴と龍眼をフル活用しているリュウには、擦りもしない。


 それを見たギャラリーたちが、どよめいた。


 リュウがエリノアの攻撃を躱しているのにも驚いている。

 だがそれ以上に、リュウの真紅に光る眼を見てだ。


「なんなんだ、アレは……」


「魔族か何かか……?」


 得体の知れないものを見た人間は、だいたい気味悪く感じる。

 それは、この世界においても同じことだった。


「リュウ、なかなかやるじゃないか!私の剣がここまで躱されたのは久しぶりだ!!」


 エリノアの余裕さを前に、リュウは苦笑いをした。

 

 剣の実力だけで見ればエリノアの方が圧倒的に上だ、さすがは最年少で戦姫になった少女だ。


「そろそろ、私も全力で行くぞっ!!見せてやろう、我が精霊を!!」


 エリノアが声を高らかに上げ、天に向かって剣を突き出した。


「我が命に宿りし、大いなる力を持つ精霊よ!!今その力を解き放ち、我が力となれ!!降臨せよ!!《精霊聖騎士 アドモスフィア》!!!!」


 エリノアが天に向かってそう叫ぶと、あたりを眩い光が覆い隠した。

 見上げると、天から巨大な白い鎧の塊が降ってきた。


「あれが精霊……か」


 リュウは苦笑いし、冷や汗を一つ流した。

 その鎧–––––いや、巨大な白騎士は圧倒的な存在感を放っている。


「これで終わりだと思うなよ?私はお前に、『本気を出す』と言ったんだ」


 エリノアは不敵に微笑みながら、リュウを見た。


「大いなる力を持つ風の竜よ!!我に従い、その力を解き放て!!来い!!《旋風竜 グリフィス》!!!」


 今度は決闘の場に暴風が吹き、深緑に鱗を持つ翼緑竜が出現した。

 これが戦姫、エリノアの本気。


「うそっ?! 精霊王級を二体も使役するなんて、そんなの聞いたことないわよっ!!」


「ご主人様ぁ〜っ!負けないでくださいよぉっ!!」


 勝利を確信したエリノアは、–––––凍りつくような感覚に襲われた。


 自分の全力を見て驚きを隠せない表情を浮かべているのを想像していたが、否。


 真紅に光る瞳を揺らし、少年は不敵に笑っていた。

 その狂気とも言える笑みを見て、一瞬だけ恐怖を覚えてしまった。


「な、何故笑っていられる!!この状況が理解できないのかっ?!」


「そんなわけないだろ? 確かに精霊ってのは凄ぇよ、驚いた。–––––だが、それだけだ」


 –––––リュウは考える。

 これくらいで負けていては、これからの戦いで自分は死ぬと。


 –––––だから思う。

 これくらいの相手に負けてはいけないと。

 負けるはずがないと。


「行けっ!グリフィスッ!」


 咆哮を上げ向かってくる旋風竜の攻撃をヒョイっと躱し、その勢いのまま鋭い一撃を放つ。


「–––––っく!アドモスフィア!!」


 エリノアの声と同時に、アドモスフィアの重い一撃が放たれた。


「–––––ガハッ!」


 アドモスフィアの鉄拳がリュウの横腹に突き刺さり、真横へと宙を吹っ飛んだ。

 だがリュウすぐに体勢を立て直し、嬉々とした表情でエリノアを見る。


(この状況でも、まだ笑っていられるか……。面白い奴め)


 エリノアもまた同じように、微笑んだ。

 こんなに楽しい戦いは、初めてだと。


「–––––ガッチェスさん、この龍極剣の力……試させてもらうぜ」


 リュウの構えた龍極剣 オルシオンの蒼い刀身に彫られたルーン文字が、激しい光りを放つ–––––。


「–––––『炎鱗』」


 蒼い刀身が紅蓮の炎に包み込まれ、龍鱗のような模様が浮かび上がる。


 これぞ、リュウが編み出した魔法剣士としての力。

 聖級火魔法『炎龍』を武器に付与したリュウ自身の力だ。


「–––––なるほど、それがリュウの本気か。だったら私も、それに相応しい力で挑まなければなるまい!!」


 そう言ったエリノアが剣を再び天へと掲げると、エリノアの召喚した二体の精霊が激しい暴風を纏いながら光を放つ–––––っ。


「これが精霊魔法だ、リュウっ!!–––––『精霊纏い(エレメント=アームド)ッッ!!!」


 エリノアの声に呼応するように、二体の精霊が暴風となってエリノアの体を包み込んでいくッ–––––。


「–––––くそっ、ミシェルが言ってた精霊の使い方ってやつか?! とんでもねぇ魔力だぞッ!!」


 暴風の中から現れたのは、二体の精霊を鎧のように纏った姿をしたエリノアだった。

 剣からも鎧からも、先ほどの精霊と同じ巨大な魔力を感じる。

 

「–––––行くぞッ!!」


 先程とは比べ物にならないほどの速さで迫り来るエリノアの攻撃をオルシオンで受け止めた瞬間、爆風と豪炎がせめぎ合うように衝撃となって周囲を襲うッ!!


 二撃三撃と繰り出される攻撃を弾くたびに、その衝撃は苛烈を極めていく。


「う、うわぁぁぁ!! 本当に大丈夫なんですよね、グリル公爵っ?!」


「なんという戦いだっ!目を開けてられんぞおっ!!」


 周囲で観戦していた貴族のギャラリーたちも、すっかり阿鼻叫喚になってしまっている。


「さ、さすがに凄いわねっ! 負けるんじゃないわよっ!!」


「ご主人様ぁ!ふぁいとなのですよぉ〜!!」


 冷や汗を流すグリルの横で応援するパンドラとミシェルの声は、あたりに響く轟音により掻き消されてしまう。


「–––––くそッ!お前も無詠唱で魔法が使えるんだな、エリノア!!」


 リュウは剣撃と共に無詠唱で魔法攻撃を繰り出しているにもかかわらず、それら全てがエリノアの魔法によって相殺されてしまっていた。


「バカを言うなっ!私は無詠唱は使えないっ!!この魔法は全て私の精霊が勝手に使っているものだっ!!」


「ご主人様ぁ〜!精霊は自我を持っているので、精霊も魔法で攻撃してくるのですよぉ〜!お気をつけてくださいねぇ〜!!」


「おうっ!もっと早く言ってくれやがれお願いしますッ!!」


 エリノアの剣撃一つ一つが『炎鱗』を纏った攻撃と同じくらいの威力なのにも関わらず、唯一のアドバンテージだった無詠唱魔法による同時攻撃も互角。


「–––––ったく、笑えるなぁッ!!」


 吐き捨てるようなセリフと共に、エリノアは剣撃を打ち返され押し戻された。


「笑いたくなるのはこっちの方だ、なんなんだその魔力量は……」


 エリノアは思わず苦笑いをしてしまう。

 先程から全力で撃ち合っているにも関わらず、リュウの魔力が減っている様子が無い。


 それに引き換え、エリノアにも精霊にもあまり余力が残されていなかった。


「–––––まいったな、まるで底が見えないぞ……」


 精霊を纏っているエリノアだからこそ、精霊たちの感情も直接伝わってくる。


「–––––怯えてる……」


 確かに今は互角だが、こんなことをいつまでも続けていてはエネルギー切れで負けてしまう。


「リュウ、私も精霊も魔力が尽きてきている。そろそろ決着を付けさせてもらうぞ」


 自分の弱点をそう言い放ったエリノアに対し、誰もが怪訝な表情を浮かべた。


 いつのまにか攻防は収まり、静寂と土煙が辺りを包み込んでいた。


「そうだな、俺もそんな勝ち方は望んじゃいない。–––––エリノア、剣を構えろ」


 リュウもエリノアも、同じ気持ちであった。

 こんな勝敗の付け方は好みでは無い、この戦いの幕引きはそんな程度の低い物であってはいけない。


 エリノアは剣を構え、次で決めると言わんばかりに全神経を集中させた。


 リュウもオルシオンを鞘に納め、深く腰を落とし大きく深呼吸をした。


「ねぇミシェル、あの構え……見たことある?」


「うーん……極東の国の型でしょうかぁ? ご主人様の剣の形が、獣人族の国の剣によく似てるのですよぉ〜?」


 リュウの構えに、誰もが息を呑む。


「…………」

「……」


 しばらく両者の間に、沈黙が続いた。


 静かに睨み合い、ただ、その瞬間が訪れるのを待った。


 決着の瞬間を–––––っ。









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