表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍刻の転生者  作者: 勇者 きのこ
少年期 第3章 冒険編
14/51

第13話「シロの決意」

 








「–––––ほら、左手に力が入ってないわよ!それとも諦めたの?」


「はぁ……はぁ……。まだ……まだ、やれます! お願いします!」


 先日、クヌ村に竜の襲撃があった。


 村は一瞬にして壊滅。

 だが、村人たちは協力し合い、復興作業を開始していた。


 そんな村のとある家の庭に2人の人影。

 シルヴァレン・ヴァナディールとアインス・ルークだ。


「やぁぁぁぁ!!」


「フンッ!」


 シロの攻撃をアインスは軽々と受け流し、シロはその勢いで地面に突っ伏した。


 シロは今にも泣き出しそうなのを堪え、再度アインスへ攻撃を仕掛ける。

 だがシロの剣はアインスを捉えることなく、空を斬る。


「シロ、考えてちゃダメ。感覚を研ぎ澄まして」


「うぅ……。よく、わかりません……」


 アインスはこれまで、剣を人に教えることなんてなかった。

 よって、説明は全て感覚頼りの意味不明なものであった。


 リュウの稽古は全てルシフェルが行っていたので、アインスはシロへの特訓のやり方に不甲斐なく感じていた。



 –––––ルシフェルがいれば。

 そう考えてしまう自分が情けなくなり、周りには気付かれないようにため息を吐く。


「あらら。シロ、大丈夫かしら……」


「心配いらないわ、サティファ。あの子は強い子よ」


 シロならきっと、大丈夫。






 –––––






 昨日の夜のことだった。


 リュウが旅立ち、私たちは村へと戻った。

 村は壊滅状態で、とても住める状態ではなかった。


「落ち込んでてもしょうがないわ!みんな!すぐに復興作業に取り掛かるわよ!」


 メイアはすぐに指示をして、村の修復へ取り掛かった。

 アインスたちは一度家に戻った。


「シロ、どうしたの?」


 家に着くと、シロの様子が変だった。


 唇を噛み締め、泣き出しそうなのを堪えていた。

 その瞳は、何かを決心したように力強かった。


 まだ小さな女の子だと思っていたが、いつの間にこんなに大きく–––––。


 アインスはどこかその姿を、昔の自分と重ねていた。


「アインスさん……。()、強くなりたいです……」


「強くなって、今度こそ–––––リュウを守りたい、力になりたいんです!!」


「お願いです!私に強くなる方法を教えてください!!」


 アインスは黙っていた。

 じっと黙って、なにか深く考え込んでいるようだ。


 しばらくして厳しい顔をした後、静かに口を開いた。


「–––––わかったわ。でも、私はあなたを甘やかそうとは思わない。厳しくいくわよ」


「はい!お願いします!!」


 シロは決意した。

 強くなって、リュウを守れる存在になると。





 –––––






「–––––うぐぅっ!」


「立て!強くなりたいなら、私に一撃でも当ててみろ!」


 シロの攻撃は、ことごとく弾かれ、(かわ)され、アインスにはかすりもしない。

 剣術初心者なら当たり前のことだ。


 だがそれでも諦めずに剣を振るい続ける、強くなるために。


「シロ、考えることはただ一つ、私に剣を当てること!それ以外は考えちゃダメ!感情に任せてはいけない!」


 シロは、リュウを守りたいと言った。

 なら、アインスがすべきことは何か。


 シロを最強の剣士にするために、アインスが持てる技術を全て伝えきる。


 方法はデタラメだが、幼き日の自分はただただ必死で剣を振るい続けた。

 かつて師匠が自分にしたように、その教えを一から思い出すように、なぞるように。


 シルヴァレン・ヴァナディールに剣を教える。


「シロ、今日はもうここまでにしておきましょう。休むことも、最強への道の大事な一歩よ」


「………はい。ありがとう、ございました」


 シロは深く落ち込んでいる。

 結局、ただの一撃も当てることができなかった。


 最初はそんなもんだ、とアインスは慰める。


「シロ、焦るな。何事もまずは一歩から。今日がシロにとって、その一歩の日だったんだよ」


 アインスは井戸の水でシロと自分の頭を軽く洗い流し、シロの髪を優しく拭う。


 そんな二人を家の窓越しに心配そうに見つめる、白髪のメイドの姿があった。


 シロと同じ水色の瞳をうるうるさせながら、外の様子を何度も伺っていた。


「……サティファ、気持ちはわかるわ。でも、自分の子供を信じるのも、親の務めだと思うわよ」


「め、メイア……。そうね、そうよね! 私ったら、つい……」


 先ほどから落ち着かない様子のサティファを見かねて、机に向かって資料の山に目を通していたメイアが口を開いた。


 かく言うメイアも、母親として子を心配する気持ちは痛いほどにわかる。


 こうして仕事をしている間でもずっと、ろくに別れの挨拶もできずに旅立ってしまった息子のことをずっと考えてしまっているからだ。


 リュウは今、どうしているだろうか……。


 ご飯はちゃんと食べただろうか、お風呂には入っただろうか……。

 メイアもまた、リュウのことで頭がいっぱいだった。


「それじゃあ、シロ!一緒にお風呂に入りましょうか!」


「え? で、でもまだお昼前だし–––––わっ!」


 アインスは人が変わったように微笑み、シロの手を引いて風呂場へと向かった。

 これもアインスなりの愛情なのだろう。


「わ、私も入ろうかな!」


 我が子の帰りをいち早く玄関で迎えたサティファが声を上げる。


「サティファが入るなら、私も入るわ!みんなで入りましょうよ!」


 その声を書斎から聞いていたメイアが大きな声と共に階段を駆け下りてくる。

 書類の山から現実逃避したいのだろう。


「そうね!うちのお風呂、無駄にデカイし」


「どうせルシフェルの変態な考えの結果でしょ」


 アインスとメイアは目を見合わせて、ルシフェルが企んでいた–––––とういうかよく実行していた事を思い出す。


「メイシェル!エレナ!みんなでお風呂に入るわよ!」


 アインスはリビングで遊んでいた二人の娘を抱き上げて風呂場へと直行する。


「え〜、お風呂〜?」


 メイシェルはあまりお風呂が好きでは無いらしく、昼前のまだ明るい時間に湯船に浸けられるという行為に戦慄する。


「入る〜!」


 エレナは大勢でいることと楽しいことが大好きなので、勢いよく廊下に駆け出して行った。





 –––






「んん〜〜!気持ちいいわね〜〜!」


 湯気がもんもんと立つ大きな湯船に浸かり、アインスは伸びをした。

 ルシフェルがいたら、間違いなく興奮している頃だろう。


「あら?アインス、また大きくなったんじゃない?今こそ、収穫のとき!!」


「あ、ちょ、メイア!胸を揉むな!!」


「私も収穫!!」


「なんでサティファまで!?くすぐったいからやめてってば〜!」


 アインス、メイア、サティファは、まるで女子高生のようにはしゃいでいる。


「ううぅぅ〜〜……。お風呂いや〜……」


「ダメだよメイシェルちゃん。ちゃんと綺麗に洗わないと」


「んにゃー!!目に入ったよ〜!!痛いぃぃ!!!!」


 シロはミシェルの頭を洗ってあげている。

 隣で頭を洗っていたエレナは、目に泡が入ったようで痛みに悶えている。


 この賑やかで騒がしく幸せな空間も、シロには孤独に感じた。


 いつも一緒だった人がいない。

  いつも笑顔で語りかけてきてくれた人がいない。


 つらい時、いつも黙って寄り添ってくれた人は……もういない。


「ねぇ、シロ。リュウに会いたいよね。なら、会いに行っちゃえば?」


 悲しそうにしているシロを見かねて、メイアが優しく言った。


「ダメだよ……。今リュウと一緒にいても、邪魔になるだけだもん……」


 シロは悲しそうに笑った。

 メイアはその顔に、ひどく胸を締め付けられた。


「そうね……今はそうかも知れないわ。でも、これからうんと強くなれば良いのよ!」


 悲しい表情で俯くシロの頭を優しく撫でながら、アインスは力強くそう言った。


「うん、私もそう思うな。それに、リュウだって本当は寂しがってるかも」


 その言葉にメイアもクスッと微笑む。


「アハハ、違いないわ」


 そこは父親にそっくりね、とアインスとメイアは居なくなったルシフェルのことを思い出す。


 強がりなところはルシフェルに似たのだろう。


「–––––ねぇ〜、おかーさん!おとーさんとおにぃちゃんは、いつ帰ってくるの?もうすぐかなぁ〜」


 メイシェルのその言葉に、誰もが胸を締め付けられた。

 無垢な少女の、その問いかけに。


「あ、あのね、メイシェルちゃん。ルシフェルさんはもう、帰ってこれないんだよ……」


「えー?なんで〜?」


「そ、それは……」


 シロはどう答えるべきか、深く悩んだ。


 ありのままを伝えるべきか……。

 それとも、上手く誤魔化すか……。


 でもどうやって?

 わからない……。


「–––––お父さんはもう帰ってこないわ。メイシェル、お父さんと最後のお別れ、したでしょ?お父さんになんて言われた?」


 メイアは、ありのままを受け入れていた。


 そして母親として、メイシェルにもありのままを伝える。


「えーとね、エレナと喧嘩しちゃダメ!って言われたよ!でも、良い子にしてたらおとーさん帰ってくるんでしょ?」


「残念だけど、お父さんとはもう二度と会うことはないわ。お父さんは、死んじゃったの……」


 メイシェルの隣でうなだれているエレナは、どうやら理解したらしい。

 目の端に涙が溜まっていて、今にも泣き出しそうだ。


「なん、で?だって……おとーさん–––––う、うわぁぁぁん!」


 メイシェルは大声で泣き出してしまった。

 それにつられるように、エレナも泣き出してしまう。


「………っ!」


「あ!シロ!」


 シロも耐えられなくなり、風呂場を飛び出した。

 あとには、静寂だけが残った。




 –––





「リュウ………」


 シロはベッドの中で、一人泣いていた。


 感情を抑え込むことは、できなかった。

 自分を騙せなかった。


「なん、で?なんでなの?約束したじゃん……。ずっとそばにいてくれるって!約束したじゃん!!なんでいなくなるの!!!!」


「リュウの、ばかぁ〜!うわぁぁん!!」


「約束、したのに……。守って、くれるって……」


「ばか!ばかばかばかばか!!ばかー!!!」


「リュウの、ばかぁ………」


 –––––ひとしきり泣いたあと、特訓の疲れもあり静かに寝入ってしまった。


 彼女に小さな手には、綺麗な髪飾りが大事そうに握りしめられていた。




 –––




「………」


 扉の向こうでは、心配して様子を見に来たサティファがいた。


 偶然聞いてしまった娘の本音。


 母親なのに、どうすることもできない。

 助けてあげることなど、出来はしない。


 そんな自分に、苛立ちさえ覚える。


 皆、この状況に困惑していた。

 一気に色々とありすぎたせいか、頭も心もついていけないでいた。


 まだこんなにも幼い娘が、何かを決意し頑張っているというのに、母親である私は何も出来ないのか……。


 サティファは、そんな思いを抱いていた。


 扉を開けてみると、ベッドでは泣き疲れて眠っているシロがいた。


「シロ………」


 サティファはシロの頭を撫でながら、自問自答を繰り返す。


 今、自分にできることを。






 –––






「–––––クソ、野郎がぁぁぁぁ!!!!」


 同時刻。


 目標の魔物を討伐し終えたものの、辺りはすっかり日が沈み暗くなっていた。


 夜の森での移動は危険だからと野宿をしていたのだ。


「自分に言い聞かせて、ヘラヘラ笑って、何も変らねぇのか!!俺は!!!!」


 人気の無い森の中で誰に語りかけるでもなく、ただ大木に怒りの拳をぶつけ続ける。


 拳からは血が滴り落ち、抉れた木の皮や破片で傷だらけになってしまっていた。


「–––––ミラがいなくなって!ルシフェルもいなくなって!!それで今度は何を失くすんだ!!もう……嫌だ。シロたちを……失いたくないんだ………」


 大切な人を一度に2人も失ったことで、リュウの心はすっかり壊れていた。


「何の意味があったんだよ、何のための時間だったんだ……っ!!」


 少しづつではあったが、この7年である程度の強さを手に入れたと思っていた。


 無詠唱もできて魔法も多種多様、その練度にも自信はあった。

 だがそれでも、バハムートには自分一人の力では全く歯が立たなかった。


「俺は弱い……弱すぎる。これっぽっちの力じゃ、全然ダメなんだ–––––ッ!!」


 人を何人殺そうが、魔物を何体殺そうが、理不尽な力への恐怖は拭えない。


 それ程までに、バハムートとの力の差に絶望してしまっていたのだ。


「–––––せめて。せめてミラが残してくれたものは守らねぇとな」


 リュウはそう言い残すと、また暗闇の森を歩き出した。





 –––







 戻ってくると、ギルが焚き火の前で木を椅子代わりにして、それに腰掛けていた。


 ギルは騎士団を送り届けたあと、また俺たちの所へ戻ってきた。

 子供だけで野宿させるわけには行かないだろ、と言われた。


 ギルが見張りをしてくれてる間に、俺はトイレに行くと言って抜け出していた。


「おぉ、戻ってきたか。かなり長かったなぁ」


「えぇ、少し遠くの方で、ね。近くだと、ミシェルが来るかも知れませんからね」


「ハハ!そりゃ納得だ!」


 俺はギルの隣に腰掛けた。

 焚き火の音が、辺りに響く。


「そういえば、2人はどこに?」


「ん?あぁ、だいぶ疲れたみたいだな。テントの中で、ぐっすりと眠っているよ」


 そうか、もう寝てしまったか。


「今日はもう遅い。明日に備えて、お前も寝るといい。見張りは俺に任せろ」


「いや、それは悪いですよ。俺も交代します」


「なーに言ってんだよ。変に気を使わなくてもいい。俺は慣れてるからな。ほら、はやく寝ろ」


 そうか、ならお言葉に甘えるとしよう。


「わかりました。それじゃ、おやすみなさい」


「あぁ、おやすみ」


 俺は焚き火を離れ、テントに入った。


 ミシェルとパンドラが、スヤスヤと寝息を立てていた。

 2人の寝顔は、天使のようだ。


「大人しくしてりゃ可愛いんだけどなぁ」


 そっと布団に入り、眠りについた。

 疲れていたのか、すぐに眠気がきた。




 –––––




 気がつくと、青い空間にいた。


 いや、少し違うな。

 湖のような、海のような、どこまでも広がる水の上。


 見上げれば、原色のインクをこぼしたような真っ青な空が広がっている。


 そんな場所に、そいつはいた。

 見覚えのある顔、見覚えのある髪、見覚えのある姿。


「やぁ、初めまして『もう一人のボク』」


『俺』が、俺の目の前にいた。

 動いてる……。

 喋ってる……。


「–––––あぁ、そうか。これ、夢か……」


 はは、もうダメだな。

 こんな意味不明な夢を守るほど、俺は狂っちまったのか……。


「えー!酷いなー!今は確かに夢の中だけど、ボクは実在してるんだよ?ボクは君、君はボクさ☆」


 そいつは俺に、はにかみながら言った。


 自分のはにかんだ笑顔を初めて見たが、ちょっとドキッとするな……。

 いや、違う違う。


「俺はそんな喋り方しないし、そんな笑顔はしない」


「そりゃ〜そうさ。ボクと君は別の存在だからねぇ☆」


 何言ってんだ、こいつ……。


「いきなり変なのが目の前にいて、こうして会話しているのが不思議だろ?」


「当たり前だ。俺は二重人格者じゃないぞ、どうせただの夢だ」


「うんうん、そうだね。でも、現にボクはこうして君の目の前にいる。理由を説明するよ! 黙って聞いてね☆」


「–––––わかった、頼む」


 訳が分からんが、今はどうでも良い。

 さっさとこの悪夢から目覚めなければ–––––。


「そうだね〜。口で言うのは難しいから、ザックリな説明をするよ!」


「改めて、初めまして☆ボクはバハムートの魂と君の魂の一部が混ざり合ってできた存在ですっ!どうぞよろしく–––––うわっ?! なんで急に殴りかかってくるのさっ!!?」


「当たり前だッ!! 俺の前によく姿を現せたな、てめぇッ!!」


 あのクソ野郎が俺の体の中にいて俺の顔で喋ってるだとッ?!冗談じゃねぇッッ!!!!


「わわわっ! 誤解、誤解だよっ!! 元バハムートであって、今は君にめちゃくちゃ近い存在なんだ! だからバハムートって訳じゃ無いから落ち着いてよ〜っ!」


「黙れッ! 良いからさっさと俺の体から出て行けッ!!」


 何回でもぶっ殺してやるから覚悟しやがれ–––––ッ!!


「何も聞いて無いのは分かったから、一回ボクの話を聞いてよ!! 先代の光の龍神と約束してたんだってば!!」


 –––––ミラと……? 嘘だったら殺してやる。


「–––––わかった、話せ」


「ふぅ、やっと聞いてくれる気になったかい? –––––だいたい200年くらい前に、彼女はボクと君が戦うことを予知してた。それがいつになるかは、分からなかったみたいだけどね」


「そんで、ボクが……というかバハムートが負けたら、君に協力するようにって言われてたんだよ! だからなんとか自我を持ったまま君と共存する必要があったんだけど–––––」


「君の魂の一部と混ざっちゃった、それでボクが生まれた。バハムートの記憶と君の記憶の両方を持ったボクが–––––」


 目の前にいるやつが、とりあえずバハムートでは無いと仮定しよう。

 だがそれでも、バハムートの力も記憶も持ってるっていうのなら気に入らない。


「–––––そんな顔するなよ〜! ボクのほとんどは君と変わらないんだぞ〜? 君の人格の一部、もう一人のボクって思ってもらった方がこっちも楽だしさ〜☆」


 どうにかして追い出したいが、それもできなさそうだ–––––。


 ミラはなんでこんなやつと協力させるつもりだったんだ。


「–––––わかった、けど勝手な真似はするなよ?これは俺の体だ」


「ちぇっ〜……。–––––わかった、分かりましたよっ!だったら今度は、ボクの名前を決めてよ!二人とも同じ名前よりも、別々の名前のほうがいいでしょ?」


「勝手に決めんなッ!–––––くそっ」


 なんなんだ、こいつッ!!


 敵意は無いみたいだが、本当に謎だ……。

 喋ってる時の感覚も、自問自答してる時みたいな感じだし–––––。


 しかし名前か、確かにこんなやつに俺の名前を名乗って欲しく無い……。


「–––––だったら、『リュウ』と『バハムート』からとって、《リュート》なんてのはどうだ?」


「リュート……。うん!いい名前だね!!それじゃあ、ボクはリュート!!リュウ、これからよろしくね!!」


「いや、別によろしくするつもりなんて無いぞ!!」


 こいつと喋ってるだけで調子が狂う。

 ウザいし、喋り方も俺と全然違うし、あのクソったれバハムートと混ざった存在ってのも気に食わねぇ。


「まだ朝までは時間があるね〜!–––––そうだ!さっきも言ったけどボクにはね、バハムートの記憶もあるんだよ☆ 結構この世界のことも最近まで調べてたしさ、教えてあげるよっ☆」


「良いか?俺はまだお前を受け入れたわけじゃねぇ。勘違いすんな–––––」


「–––––教えてほしく無いの〜?」


「–––––さっさと話せ……」


 –––––リュート、そう名付けた俺にそっくりなコイツは、200年前の闇の龍神との戦争の後の世界のことを話し始めた。


 ミラが知らないこの世界の歴史は、俺としても知りたかったものではあるが……。


「今日君が殺した盗賊達が来てた魔導鎧ってのがあるだろ? あれを作ったのはリュウと同じ異世界人なんだ。この200年の間で、異世界人の数は増えてきてる」


「–––––いきなり驚いたが、それだとこの世界の技術力にも納得が行く……。所々って感じではあったが、この世界の文明力とは明らかに似つかわしく無い物も見た」


 例えばギルドで見たあのiP○dみたいな機械、あれはどう見ても–––––。


「異世界人は神によって召喚されることもあれば、人の手で召喚されることもある。【勇者召喚】って言葉、前世でも聞いたことあるだろ? この200年の間で異世界人がこの世界にもたらした技術はかなり多い。世界の文明力の水準も飛躍的に上がったけど問題はそこじゃなくて–––––」


「–––––異世界人そのもの、か?」


 俺がそう答えると、リュートは静かに頷いた。


「異世界人はこの世界に渡る際、特別な力を宿すんだ。この世界の魂の形に合わせるように、歪な物となってね……。それは、この世界の住人よりもとんでもなく強い力になる。それが国家に属しそのまま軍事力になってるのが、今のこの世界の状況だ」


 要するに、異世界人の存在がこの世界を狂わせてるってことだろうな。


 俺としては飯が上手くなったり、日常生活が快適に暮らせるようになるのは有り難いが。


 だがメリットばかりでは無いのは分かった。

 もしも異世界人が俺の想像通りの力を持ったチートみたいな存在なら、この世界のパワーバランスも簡単に崩れ去る。


 それを国が保有してしまってる状態なら、なおさら危険だな。


「一部の国では銃なんてのも軍が保有してる! もしそれが一般市民の手にまで届くようになって、力のない人たちがそれを手に入れたらどうなると思う?–––––たちまち銃社会の完成だ」


 俺は思わず喉を鳴らしてしまう、それ程までに恐ろしい光景を想像してしまったからだ。


「–––––ったく、言っとくけど俺の目的はあくまでも闇の龍神だからな?」


「もちろん分かってるさ! ただリュウが転生者だってことは、あまり知られない方が身のためだよってこと☆」


 わざわざご忠告どうも、お前に言われたく無いな。


 だがリュートの言う通り、この世界そのものをもっとよく知る必要がある。

 もしかすると、敵はもっと巨大な物なのかも知れない。


「200年前と同じで、闇の龍神だけが脅威じゃ無い。リュウ、あまり光の龍神の力ばかりに頼っちゃダメだよ?」


「–––––お前に言われなくても分かってる。俺がまだ弱いこともな」


 そんなことは俺が一番よく知ってる。


 俺一人の力ではバハムートには勝てなかった、それが何よりの証拠じゃ無いか。


「うーん……。もう少し話したかったけど、それはまたの機会にしよう。リュウ、少し休んだ方がいいよ」


「なんで俺がてめぇに心配されなきゃならねぇんだ、余計なお世話だ」


「はいはい、分かったから! それじゃ、おやすみ〜☆」


 あ、おい!

 まだ話は終わってねぇ––––––––––!


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ