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氷中花  作者: 綴奏
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眠らない夜 其ノ三

 大股を開いていた赤月時雨の足元には、糸車椿の短刀が突き刺さった。

「こらこら、慌てるな紫煙乱舞の糸車椿。――お前の相手はワタシじゃないでしょうが」

 恐らく、この会場にいるほとんどの人間は、何が起きたのか、正確に把握してはいない。ただし、眼の前で、しかも吸血鬼の眼をもってして目撃した赤月は別だ。

 彼の頭上を通り過ぎるように投げ飛ばされた短刀。それは真っ直ぐESP5のニコル・クリスタラに向かっていったものの、嫌な高音と共に弾き飛ばされた。この時、吸血鬼は自分の眼を疑った。――なんと、白髪の女性が素手で刃物を防いだのである。まるで虫を払うようにして刃物を叩いたのだから、開いた口が塞がらないのも無理はない。

「時雨君、刀を引き抜いてくれないか」

 そうはいったものの、数メートル離れた場所にいる紫煙乱舞は吸血鬼になど目を向けてはいなかった。青い目を光らせ不敵な笑みを浮かべる椿の視線は、白髪の女性に注がれている。同じく青い目をした副大佐は、お面を被ったような無表情をして見つめ返す。

「――――っ!」

 短刀を引き抜いた瞬間、後方に思いきり引きつけられた吸血鬼は、半泣きで宙を舞っている。そんな彼を抱き止めたのは、武器と友人を雑に回収した蜘蛛の少女だ。背中の糸を引き千切った赤月は、恨めしそうな表情を浮かべて振り返った。

「どうだ、時雨君。私と一戦交えようか?」

「勘弁してください……」

 どうして自分は上級異能者の女性とやたら関わりがあるのか――と、赤月は溜め息をつく。今はいつも通りの雰囲気に戻ってはいるものの、彼女は黒崎学園のファーストバレット。つまりは、そこらのESP隊員では全く歯が立たない女子高生なのだ。

 赤月弄りが最上級レベルの時の異能者。黒崎学園のサードバレットと、その姉。ESP5の副大佐に続いて、黒崎学園のファーストバレット。そして――

「邪魔だ、糸車。お前のエリアは向こうだろ」

 女性だけではない。男性の上級異能者、それも喧嘩っ早い危険人物がそこにはいた。

「なんで、あいつはやる気満々なんだよ……」

 今にも殴り掛かってきそうな少年を、赤月は嫌そうに見ている。黒崎学園のセカンドバレットは指の骨まで鳴らして準備万端だ。

「何、気にすることはない。危険だと感じたら私が蹴り飛ばしてやるさ」

 赤月の肩に腕を回して囁いた椿は、それだけ言うとさっさと行ってしまった。残された彼が青い顔をしているのは、伊原のせいだけではない。眼の前の上級異能者を全くもって脅威とみなしていない『紫煙乱舞』の恐ろしさに、頭が痛くなってきているのだ。

 自分より格上ばかりに囲まれているうちに、彼の判断基準も壊れかけてしまっていた。ついさっきまで碧井涼氷にサポートを要求していたというのに、今となっては面倒臭そうに、というよりも、半ば投げやりに位置についている。

 夏休み前に壮絶な戦いを繰り広げ、お互いに良くない関係になっているというのに、再戦とは――本当についていない。恐らくはESP側が裏で操作しているのだろうが、その真相は不明だ。

「手を抜いてみろ――その時は殺す」

 拳を握っては開いてを繰り返してる茶髪の少年の目は本気だ。

「どっちにしろ、そのつもりだろーが、お前は……」


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