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氷中花  作者: 綴奏
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誰がために 其ノ六

 突然、赤月の手を弾き返したかと思うと、自分の首を隠すように手を当てた。彼から目を逸らした美咲は唇を噛み締めている。

 その時、床の辺りから小さな光が暗闇を揺らしながら光り出す。どうやら赤月をベッドに押し倒した際、美咲の鞄から中身が飛び出していたらしい。ファンデーション等の化粧道具に紛れ、光を放っているのはスマートフォンだ。サイレントモードに切り替えておいたらしく、無言でメールの受信を知らせている。

「やっぱり、まずいって……家で待ってるみ」

「誰もいないわよっ!」

 美咲の叫び声と共に、青い光が赤月家の一角を走り抜けた。さすがにこれ程の威力の電気を吸血鬼に浴びせなかったものの、彼女の精神が不安定になっていることが窺える。彼の視力にメールの文面を捉えられた今、もはや手遅れだというのに。

 ――床に転がっていた化粧品と一緒に焼かれたスマホは煙を上げている。

「彼氏なんていないわ! 私は赤月君のことが――」

 身体を起こした赤月は、訴えかけるように彼女の肩を掴む。

「じゃあ、あれは誰なんだよ! 遊園地で手繋いで歩いてただろーが!」

「知らないわ! あんな人知らないわよっ!」

 赤月の手から、彼の言葉から、逃げるように、避雷針美咲はもがき始める。しかし、吸血鬼は、そんな彼女を逃しはしなかった。

「人の話聞けって! 俺のことを信じて本当のこと話せよ!」


『赤月くんを信じることができないから、自分から距離を取ってしまう上に、その想いを告げることもできないのではないですか?』


 再び目に涙を浮かべ始めた美咲は、彼のシャツに掴みかかる。

「赤月君だって碧井さんのことが好きなら、そう言えばいいじゃない!」

「涼氷は関係ないだろっ! 俺は今お前のことを――」


 美咲は年上でもないのに、彼女に対しては何かと遠慮がちな言葉遣いが多かった赤月時雨。サードバレットの風紀委員という、自分とは対照的な避雷針美咲。そんな彼女には、涼氷や忍たちに向ける言葉は殆ど使われないでいた。二人でいる時も、みんなと一緒にいる時も、当然、吸血鬼の少年は優しかった。

 それでも、他の人間といる時は、どうしても距離を感じてしまったことだろう。特別な存在として扱われがちな避雷針美咲は、そんな自分を嫌っていたに違いない。いつも当たり障りのない言葉ばかり並べているうちに、心の交わし方がわからなくなってしまった少女。

 そんな彼女は、好きな人の前でも、思うように想いを告げられなかったはずだ。そして仕舞には、望まない形で、自暴自棄になった状態で、その想いを投げつけてしまった。

「ありがとう――」

 様々な色の感情。その渦に心を乱されていたであろう避雷針美咲は、微笑みながら吸血鬼と唇を重ね合わせた。闇に飲まれたように暗い赤月家に、青い閃光を走らせながら――


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