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氷中花  作者: 綴奏
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花裂く夕刻 其ノ二

 異変に気づいたユリアが暗くなり始めた道を駆け出すと、先の暗闇から二人組が向かってきた。彼らは頭から黒い布を足元まで被っており、その顔は隠されている。

 忍の怯えた悲鳴が響くなか、ユリアは黒布たちの拳を巧みに交わし二人の首に布の上から手を掛ける。小さな呻き声が聞こえたかと思うと、黒布たちはバチバチと大きな音を立てて青い光に包まれた。

 眩しそうに目を細めた蛇の少女は、そのあまりの光景に恐怖と驚きの入り混じった表情で固まっている。黒崎学園の教員とはいっても、どう見てもか弱いユリア先生が、二人の襲撃者をいとも簡単に打ちのめしたのだ。

 ――中級異能者の教員、避雷針ユリア。彼女が電気を操る異能者であることは、黒崎学園の生徒なら知っている者も多い。その一方で、全国の教員の中でも上位の実力を持っていることまでは、あまり知られていない。おまけに正常者の公立高校に通う忍には、それを知る機会などほぼないのである。だがしかし、電気の異能者の実力に驚いている場合ではなかった。

「何よこれ……」

 ユリアの足元に崩れ落ちた黒布たちは、突然、液状化したのだ。理解することのできない現象を目の当たりにし、一瞬怯んだユリアではあったが、すぐさま涼氷がいるであろう暗闇を睨み付ける。そして、ベルトに仕込んであった小型避雷針に手を掛けた――その時だった。

「先生、上っ!」

 走り出そうとしたユリアの頭上から、鋭利な何かが複数降り注ぐ。忍の声を頼りに横に飛んだユリアは、転がるようにギリギリのところで避ける。砂埃が舞う小道で、ゆっくりと身体を起こした人物。それは先程と同じ――いや、より危険な雰囲気を漂わせる黒布の姿であった。

 黒布を突き破るようにして飛び出している複数の白い触手。それらの動きはまるでユリアの体温だけを頼りに狙いを定めているかのようだった。そして、体勢を立て直すことのできていない彼女の目前に迫ってきている。

 得体の知れない能力に直に触れるのは極めてリスクが高い。しかし、感電させざるを得なくなった女教師は、それらに手をかざそうとした。全ての時が遅くなったかのように感じるなか、ユリア自身はもちろん、忍もその危険性に緊張を走らせる。異能者の能力は千差万別で、中には忍の毒とは比にならないようなそれを持つ者もいるのだ。

 それを承知で、ユリアの手が触手に触れる――はずだった。しかし、それらは彼女の前から突如消え去っている。突然の出来事に何が起こったのか彼女たちは全く理解できておらず、硬直していた。その一方で、砂利を踏み鳴らしながら悠々と歩いてくる人物。


 蛇のような動きをみせる深緑色の蔓を操るセカンドバレット。

 ――『荊棘迷宮』の伊原ヒロが、そこにはいた。


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