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氷中花  作者: 綴奏
78/165

落ちる花火 其ノ九

 

 ◆


「ねー、赤月って碧井のこと好きなの?」

 突拍子もない質問に精神を乱された吸血鬼の線香花火は消え落ちる。辺りはすっかり夜の闇に包まれ、赤月一行は最後に花火を楽しんでいるところだった。ちなみに火点け係はカール・ガストで、彼のリーダーは浴びるようにビールを飲んでいる。

 赤月は線香花火の持久対決をしたいという忍に連れられて、皆とは少し離れた場所にいた。恐らくはこの話をすることが一番の目的だったのだろう。

「だってさー、あんなに離れてるのにどうして碧井に何かあったとかって言ってたの? テレパシーとかあんの?」

 いつから吸血鬼がテレパシーを使えるようになったのだろうか。もしかすると、赤月が気づかないうちに映画界の吸血鬼たちは進化しているのかもしれない。

「そういや俺が自分の血をある程度なら感知できるってのを言ってなかったな。美咲さんが危険だと判断した涼氷は、俺の血を吸ったハンカチを川に流して異変を知らせたんだよ。スマホも置いてってたしな」

「ふーん、あの時の鼻血ブ―も無意味じゃなかったんだ」

 鼻血の代わりに鼻水を噴き出しながら鼻水時雨は抗議する。

「悪意の込もった言い方すんな!」

 赤月の腕が忍に触れたため彼女の線香花火も落下してしまい、残すところはあと二本となる。これが最後の勝負になりそうだ。二人はぶら下げるようにして花火を摘まむと、赤月がそっとライターで火を点した。

 弱々しくも美しい、人の心を形にしたような花火が二人を照らす。それを黙って見つめていた忍が呟くように言った。

「碧井と何かあったの?」

「……何かってなんだよ?」

 友達を作ることでさえ一杯一杯だった赤月に遠回しな言い方をしても無意味なのは、忍だってわかっている。ただし、それは恋愛に関して、だ。どうやら蛇の少女が言っているのは、それとは違うものらしい。

「よくわかんないんだけど、碧井のことになると必死だから」

「そりゃそうだろ。忍の身にも何かあってもああなるって」

 膨らんだり縮んだりを繰り返している火の玉は、まるで感情の起伏を表しているようにも見えた。そんな灯を見つめる上羽巳忍の横顔からは、いつもの活発な様子は消え去り、とても大人っぽい表情が窺える。

「うん、それはわかってる。赤月はそういうやつだから。――ただ」

「……ただ、なんだよ?」

 忍は自分の線香花火が終わりを迎えると、隣にいる吸血鬼の眼を覗き込んだ。

「碧井のことを心配する赤月はすごく怯えているように見えるの。本当に、どうしようもないくらいに――」

 赤月時雨の線香花火もついに消え落ち、二人の周りからは光が失われた。そんな中では、忍には気づくことができなかっただろう。

 目の前にいる吸血鬼の眼には、赤い涙が滲んでいたことを――


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