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氷中花  作者: 綴奏
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落ちる花火 其ノ四

 次の瞬間、その声の方から複数の何かが飛ばされたものの、赤月時雨は振り向きも、避けもしなかった。ピンク色の髪をした少女は二ヤついたものの、その直後に未知の能力を目の当たりにして動揺をみせる。

「しのぶは任せて」

 赤月を守った影野三日月の黒い影は、飛ばされてきた石を全て受け止めていた。便利屋GMCのひとり、麻彩アイスナはすぐさまダガ―ナイフに手を伸ばしたが、背後から飛んできた石にそれを弾かれている。その石に白い糸が付いていたことに気づいたのか、麻彩は怯えた表情をみせた。

 それもそのはず、以前彼女を壁に叩きつけたのは他でもない、蜘蛛の異能者だったのだ。しかし、白い糸が吸血鬼の手から伸びていることに気づいた時にはもう、怒りに顔を歪めた赤月の拳が目の前に迫っていた。いくら人を殺し慣れているとはいっても、殴られること自体に慣れてはいないのだろう。それ以前に、麻彩アイスナはひとりの少女であり、中学生くらいの年齢でもある。そんな光景を見れば目を瞑って動けなくなってしまっても、おかしくはない。

「……ちいっ!」

 涼氷と夜宵を攫っただけでなく、ユリアの命まで奪おうとした便利屋を許すことはできない。それは、怒れる吸血鬼の顔を見ればわかる。しかし、赤月時雨はその怒りを抑え込もうとするように歯を食い縛り、麻彩の顔の寸前で拳を止めていた。

「あかつきっ、後ろ!」

 忍の叫び声が届く前から動き出していた吸血鬼は、振り下ろされた大きな拳を避けると、包帯男の背後に回り込み思い切り蹴りをかました。カール・ガストは仲間の少女を抱き締めるようにして受け身を取るが、その動きは不自然極まりない。やはり、いくら人間離れした力を持っていたとしても、赤月に二ヶ所を貫かれた腕は完治していないのだろう。怪我を負っていることもあり、背中を向けて倒れている便利屋たちは隙だらけではあったが、追い打ちは掛けていない。それどころか吸血鬼の意識は既に別の場所に移っていた。

「二人とも、戻るぞ! 涼氷に何かあったらしい!」

 木から飛び降りた忍は全く状況が飲み込めていないらしい。実のところ、彼女は赤月の血液感知の性質を知らないのだから無理もないだろう。

「え? 何でそんなことわかんの? てゆーか、こいつら何?」

「いいから早く……っ!?」

 涼氷たちの元へ向かおうとした吸血鬼を逃がすまいと、うつ伏せで這ってきた包帯男が唸り声を上げて彼の足を掴んでいる。どういうわけか、かなり怒っている雰囲気が感じられたが、それは赤月も同じだった。

 三日月の手を取った忍が思わずビクリとする程に、恐ろしい雰囲気に変わった吸血鬼。無言で、それでいて本気で、包帯男の顔を蹴り飛ばす。弱っているとはいえ、あの大男を吹き飛ばすレベルだ。今までにない程に強烈な蹴りであることは一目瞭然だった。

 涼氷の身に危険が迫っているというのだから、必死になるのは当然だ。けれど、あの赤月時雨がここまで容赦の無い攻撃をしたのを見たことがなかった忍の表情からは、恐怖の色が見てとれた――


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