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氷中花  作者: 綴奏
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血鬼の接吻 其ノ四

 ――レッドアイ。異能者の能力を向上させる代償として様々な副作用をもたらす薬物。

 使用者の多くは凶暴化し理性を失う。あれが世間で騒がれ始めたのは、赤月が小学生から中学生になる頃。それはつまり。

「血の雨を降らせたガキが現れてから半年以内のことだ」

 赤月は血刀を出すために切り裂いた左手の甲を見つめている。

「そんなわけ……あるかよ」

「お前はあの日、化け物としてこの世に存在を知らしめた。そして、レッドアイというイカれた薬物を生み出すきっかけとなった」

 赤月時雨は眼を見開いたまま、左手を見つめたまま、全く動かない。それでも、彼の心は叫ばずにはいられなかった。

「あんな薬物、俺には関係ねえっ!」

「これはお前の血の結晶で作ったサンプルだ」

 蔓が伊原のポケットから取り出したのは、赤い液体の入った注射器だった。震える蔓が注射器を握り締めるかのように、それに撒き付いていく。

「その目で確かめろてみろよ。そして俺に傷を負わせたことを……地獄で後悔しろ」

 赤月の眼には見えていた。真っ赤な液体がゆっくりと伊原の血管の中に注がれていく。腹の底すら越え、地の底から聞こえるような呻き声が空間を揺らす。――即効性。それもレッドアイの特徴の一つである。そして、伊原にもたらされた副作用は……凶暴化。どこからどう見ても、赤月が二度も眼にした、あの薬物の症状に酷似している。

 既に刺の生えた蔓を伸ばしてきていた伊原は、赤月時雨を捕えた。蔓の速度も格段に上がり、彼の袖から向かってくる蔓は倍の数になっている。有刺鉄線のような悪魔に身体を縛り上げられるだけでは済まされない。気の狂った伊原ヒロは残酷にも吸血鬼の首や頭まで絞めつけ始めたのだ。さすがの吸血鬼もついに力尽きたのか、その動きは完全に停止した。

 教師陣が血相を変えて、ESPを呼べ、と騒ぎ始めている。彼らは死にかけている、いや、既に死んでいるであろう赤時雨のことなど考えてはいない。このままセカンドバレットが正気を取り戻さなければ、自分たちが巻き込まれてしまう。ただ、そのことだけを恐れていたはずだ。レッドアイを服用したのだから尚更である。

 生徒だけでなく、教師まで逃げ惑う第一グラウンドの周りは混沌に包まれていた。しかし、その恐怖は始まりに過ぎない。なぜなら、周囲の人間の逃げ道が瞬く間に断たれることとなったからだ。

「なるほどな……流石は生物系異能者だ」

 花壇に腰掛けて全く動こうとしない椿は、周囲に視線を走らせている。伊原がレッドアイと呼んだ薬物は彼の力を確実に上げていたのだ。元々その性質から、彼は地の理を得る特性を兼ね揃えていた。ただ、本来は広範囲を取り囲む程の「いばら」を張り巡らす能力の代償を考えると、通常であれば大きく体力を消耗する。しかし、今の彼にはその様子が見られなかった。

 ――広範囲に放たれた刺の種。糸車椿はそれに気づいていたのだろう。植物に寄生するようにして「いばら」を生み出していく荊棘の種。個体識別名『荊棘迷宮』がまさに具現化した地獄と化している。

「……や……よい」


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