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氷中花  作者: 綴奏
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青眼の蜘蛛 其ノ一

 

 赤月家は現在、兄と妹の二人暮らし。同じ会社に勤める両親は、夜宵が高校に進学すると同時に念願の長期海外出張に出ている。長男と違ってアクティブな両親は、夜宵の義務教育が終わるまで夢の海外出張を我慢し続けていたというわけだ。

 今日は珍しく三人での食事となるため、夜宵は気合を入れて料理を作っている。一昨日の約束通り、赤月家には影野三日月という、こけしに魂を吹き込んだような女の子が来ていた。

 赤月が気まずそうにテレビに視線を向けているのは、彼女がずっと見つめてくるからだ。気に入っているのか、憑依しようとしているのか、その判断は難しい。

「ねえ、明日の能力測定って何するの?」

「普通に身体測定やってから、運動神経とか能力の強さとかを測るだけだ」

 妹の問い掛けに対し、兄はこけしなどいないかのように自然に答えた。

「ふーん。……それで、去年の結果はどうだったのよ?」

「中級。固有能力はEだったけど」

「すごいじゃない。――でもEって何?」

「測定不能。お前は血液検査で治癒能力を測定できるけど、俺の場合は誰かの血を飲まないとダメだし、そもそも測れるようなものでもないしな。血液操作もあるけど、貧血になるから使えないって嘘ついてサボった」


 ――生物系異能者で、その性質は『吸血鬼』。


 赤月家の人間は全員がその性質だが、個々の能力は当然違う。夜宵が治癒の力を持つ一方、兄の能力は戦闘向きである。とはいうものの、諸事情で彼の能力は十分に発揮されたことはない。

「それでもESPからオファーあったのよね? 上級ならまだしも中級で学生のうちからオファーがあったのはあまりないことだし、もう少し自信持っていいと思うけど」

 ESP、つまりは、特殊な能力を駆使して異能犯罪者を取り締まる警察組織。力の強い異能者のほぼ全員がそこに就職する。そこからオファーがあったと聞いて驚いたのか、三日月は赤月の真横に移動して見つめ始めた。それでも彼は顔を引きつらせたまま懸命にテレビだけを見つめている。

「……あの事件のせいで色々と勘違いされてるからな。あの時のことよく覚えてないし、適当に誤魔化したけどさ」

「私は今もこうして元気だし、お兄ちゃんには感謝してるけどね。今回もまた声掛けられるんじゃない?」

「断ると変人扱いされるからはっきり言い辛いんだよな。これ以上変な目で見られるのは御免だ」

 『赤時雨』という通り名もそうだが、赤月が言っているのは彼の不運で起きるアクシデントのことだろう。最近の出来事で例えるなら、ものすごい形相をした吸血鬼が自動販売機を殴り付けていただとか、血に飢えた赤時雨が新入生の女子生徒を追い掛け回しただとかだ。

「あーあ、明日から私の高校生活はどうなるんだろ。……お願いだから、お兄ちゃんが追い掛け回した人たちには会いたくないわ。絶対に」

 ここで、カチンときた兄吸血鬼は言った。

「――お前、その件については昨日事情を話しただろうが」

「なーにが、誰だその変質者は。許せねえな……よ。妹にまでそんな嘘ついて恥ずかしくないの!?」

「……お前の友達がいるから気を遣ったんだよ! こんな状況で蒸し返すから台無しじゃねえか!」

「知ってる」

 兄妹喧嘩が始まるかと思いきや、赤月家の空気が一瞬凍りついた。

 その一言を発したのは、兄の横にいるこけしの少女だった。

「三日月、お前あそこにいたか? ……あ、食堂に向かってるところを見たのか」

「ずっとしぐれの後ろにいた」

 本当かどうか確かめてくるような妹の視線。しかし、兄吸血鬼は視線を合わせながら、必死に首を振った。それが本当なら、あの女子生徒たちも何かしらの反応を示していたに違いないのだ。

「なあ、三日月。じゃあ、俺が無実なのはわかってくれてるんだな?」

 少しどぎまぎしながら赤月が尋ねる。すると、こけしの少女は冷たい漆黒の目で彼を見つめたまま、口元だけをニヤリとさせて言った。

「ずっと見てた」

 恐怖を感じた兄吸血鬼はその視線から逃げるように妹吸血鬼の耳元で静かに騒いだ。

「(おいっ! 何なんだよ、あの呪い殺してやるみたいな笑い方は!)」

「え、みーちゃんはいつもこうだけど」

「あ……そうなんだ。もう……なんでもいいや」

 どうやら彼はあの時からもう、こけしの幽霊に取り憑かれていたらしい。


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