忍ぶドク牙 其ノ二
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翌日の昼休み、赤月は三日月と一緒に屋上で昼食を取っていた。彼女は夜宵に作ってもらっている弁当を一生懸命食べているところだ。
――それにしても、食べるのが遅い。わざとかというくらい遅い。赤月家ならまだしも、学校の昼休みは時間が限られている。これは影野三日月にとって「食い物を食うか、食い物に食われるか」というくらいに大きな問題だ。
三日月によれば、学食を一度だけ利用したことがあるものの、大混雑する食堂は彼女には向かなかったらしい。彼女が食べ終わる頃には午後の授業が始まっており、新学期早々叱られてしまったそうだ。ちなみに、その日の放課後まで落ち込んでいた三日月に声を掛けてくれたことがきっかけで、夜宵と仲良くなったのだとか。
卵焼きをゆっくり食べている三日月に、忍のことをもう一度訊いてみたものの、やはり忍が元気のない理由は不明らしい。忍は元々自分のことをあまり話そうとしないらしく、詳しいことは何もわからないのだそうだ。
そこで忍の通う学校に行ってみるという案を赤月が提案したものの、三日月は渋っていた。それもそのはず、あそこは正常者ばかりが通う学校なのだ。
――異能者のみが通う学校は私立にしかない。
三日月は異能者だけが通う学校に叩きこまれる形になったわけだが、逆に忍の場合はその学費すら出してもらえなかった。それを気にしていることは口にしなくても忍からは伝わってきたし、その学校と無関係な異能者が下手に行って良い場所でもない。
それでもしつこくお願いされた三日月は、こっそり様子を見るだけなら……と、一緒に来てくれることになった。
どうも火曜日は店が混まないためアルバイトを休めるし、忍も今日はオフなのだとか。ちなみに、あそこの店長は三日月に甘いくせに、一般受けしそうな忍の方をこき使っている。多分、三日月が休むと言っても、あの店長は機嫌を損ねはしないだろう。家庭環境に恵まれなかっただけでなく、何かと運のない金髪の少女。それでもあの少女は、いつだって笑顔を忘れなかった。
にもかかわらず――ここに来て上羽巳忍から笑顔と明るさが消えた原因は、一体何なのだろう。嫌な胸騒ぎがした吸血鬼は、それを誤魔化すかのように、足早に教室へと戻って行った。