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氷中花  作者: 綴奏
34/165

碧い月明り 其ノ三

 

 ◆


 ――怖くて有名なここのお化け屋敷は、一度大人数で説明を受けた後、グループ毎に写真撮影がある。気味の悪いゾンビの呻き声が聞こえる部屋で、怯える表情を撮るのが目的だ。

 後列には、泣きながら赤月の右腕にしがみつく糸車椿。目を瞑って兄の左腕にしがみつく夜宵。前列には自分の影と楽しげに手を繋ぐ三日月。あまりの恐怖に手を繋ぐ、碧井涼氷と上羽巳忍。ちなみに、赤月時雨は若干面倒臭そうな表情を浮かべていた。そんな、思い出に残りそうな様子が写し出されている。

 写真撮影の後は、二人ずつ時間を空けて入ることになったため、くじ引きで組み合わせを決めた。一組目は忍と涼氷。二組目は赤月と椿。三組目は夜宵と三日月だ。

 涼氷と忍は口喧嘩をしながらも手を繋いで進んでいき、その数分後、赤月は泣きつく椿を連れて入った。今頃は、夜宵と三日月も入ってきているところだろう。

 しがみつく椿の胸の感触を楽しみたかった吸血鬼であったが、彼自身もお化け屋敷が大の苦手だったため、それどころではない。

 幼い頃、小さなお化け屋敷で夜宵を置いて逃げ出した時には、泣き喚く妹に殺されかけたこともあった。そんなことを思い出していると、突然、呻き声と共にゾンビが背後から現れる。

 いやはや、情けない。あのホラー映画の題材にもなった吸血鬼は、情けないことに走り出していたのだ。もう一度言う。あの吸血鬼がゾンビに怯えて逃げ出したのだ。おまけに、糸車椿という美少女を置いて。

 しかし、号泣した椿が糸で彼を引き戻すものだから、完全にパニックになった赤月は彼女を首にぶら下げたまま暴走し始めた。そして、手を繋ぎながら先を歩いている涼氷と忍に追いつき始める。

「え!? あれって赤月じゃない!?」

「首に紫色の何かをぶら下げた吸血鬼が……お化け屋敷で悲鳴を上げていますね」

 冷たい視線を感じ取った吸血鬼は少し冷静になったため、このまま椿を引きずって出口に向かう決心をして二人を追い抜いた。が、その判断が大きな間違いであったことを、彼は数十秒後に思い知る。

「え……さすがにあれは無理です」

「やだ――――! 変なもん連れてこないでよ!」

 追い抜かしたはずの涼氷たちの元へ赤月が戻ってくると、彼女たちも血相を変えて引き返していく。

「ねえ! あのゾンビたち何か怒ってんだけど!?」

「知らねえよ! 可愛い子ばっか連れているとか知らねえよっ!」

 そう、涼氷や椿たちと一緒にいた赤月はハーレムか何かと勘違いされていたのだ。待ち時間の間、従業員たちの間で話題になっていたらしく、バイトゾンビたちの怒りを買ってしまったらしい。

「そういうことであれば、赤月くんが犠牲になれば良いのではないでしょうか」

「涼氷てめえっ、何てこと言うんだ!」

 その直後、赤月にしがみついていた椿の腕が首に回された。

「そ、そうか……君さえ殺してしまえば」

 恐怖の色を浮かべて振り返った赤月が見たもの。それは、正気を失った椿だった。

「じのぶだずげでええええ――――!」

 吸血鬼は追い掛けてくるゾンビに負けない不気味さを醸し出し、蛇の少女に助けを求める。

「いやああああ! 触んないで! 一人で食われろ!」

 もはやゾンビの餌としか認識されなくなった吸血鬼は、蛇の少女に蹴り飛ばされることとなる。――この瞬間、赤月時雨はもう誰も信じられないかもしれないと、本気で思ったのだった。


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