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氷中花  作者: 綴奏
33/165

碧い月明り 其ノ二

 

 ◆


 翌日、遊園地の入り口付近では、エリアガイドを押し付けられた赤月があれこれ悩んでいる姿があった。涼氷、忍、三日月、夜宵、椿の五人は、それぞれが好き勝手にその辺りを散策している。

 最初に乗るアトラクションに変なものを選んでしまえば、袋叩きにされかねないため赤月は必死だ。幸い、その様子を見かねた椿が彼に耳打ちした結果、ジェットコースターに乗ることになった。

 実は椿はかなりの絶叫系アトラクション好きらしい。誘っても来るわけがないと思っていた赤月としては、来てくれただけでも嬉しかった。それに加え、彼女が乗りたい物があると言ってくれたので即決である。

 三日月はジェットコースターが初めてだったらしく、並んでいる間も赤月の手を放さないでいた。涼氷たちは赤月の隣に座りたがってはいたものの、今回は三日月にそのポジションを譲っている。

 そんな三日月ではあったが、発進する時にスタッフに手を振られると、怯えながらも手を振り返していた。――ただし手招きであったため、スタッフの顔が引きつったことは言うまでもない。

 その一方で、こけし幽霊にとっての手招きの意味を知る赤月や、彼らの後ろに乗り込んだ彼女たちはどこか心が癒されたことだろう。しかし、頂上まで上がった時には、三日月だけでなく、忍も半泣きであった。頂上に近づくにつれて、何故か赤月を罵り始めた夜宵と涼氷は平然を装ってはいたものの、二人とも青い顔をしている。

 ――それから数秒の間、純粋に楽しんでいたのは椿だけだった。吸血鬼の隣にいたこけしは、やっと手に入れた魂をどこかに置き忘れて抜け殻に。もっと酷いことに、絶叫系が好きな赤月に限っては後方の複数人から浴びせられた罵声にブチキレていたのだ。

「純粋に楽しめなかったじゃねえかよ。鼻水時雨って言ったの誰だよ、ちくしょう」

 鼻水時雨の復活に文句を垂れている吸血鬼の後ろには、青い顔をした少女たちの姿がある。そんななか、機嫌の良さそうな少女が一人だけいた。

「時雨君、次はあれが良いな」

 椿の声を聞いた三人の少女が一斉に身構える一方、涼氷は抜け駆けして赤月の腕にしがみついた。

「あれって海賊船ですよね。私は乗ったことありませんが、赤月くんは?」

「俺もないな。ただ揺れてるだけで微妙そうだし」

 青髪少女とは反対側から赤月と腕を組んだ蜘蛛は言う。

「何を言う。あれはあれで面白いものだよ。ジェットコースターほどのスピードはないから、彼女たちも平気だろう」

 しかし、それは糸車椿の罠でしかなかった。というのも、このアトラクションは一回の搭乗時間が長い上に、体が浮くような感覚を何回も味わうことになるのだ。例えるなら終わりのない拷問そのものと言える。

 その結果、生き残ったのは糸車椿のみで、絶叫好きの赤月でさえ青い顔をしていた。涼氷は強がってはいたものの、全く持って真っ直ぐ歩けず、赤月と手を繋いでいる。忍と三日月、夜宵の三人は一塊になって、紫色の蜘蛛を警戒し出していた。

 ――休憩を兼ねて昼食を済ませた後、まずは三日月に好きな場所を選ばせてあげることとなる。一番回復に時間が掛かったものだから、みんなが気を遣ったのだ。

 そして、影野三日月が大はしゃぎで駆け寄った建物を見た瞬間、黒崎学園のファーストバレット『紫煙乱舞』が異変をみせた。だがしかし、物凄い速度で引き返そうとした彼女は、連携プレーによって忍と夜宵に捕獲されている。

「糸車先輩、アタシここがいい!」

「椿先輩、お兄ちゃんもここがいいみたいです」

 この状況から推測するに、どうやら椿は三人から海賊船で恨みを買ってしまったらしい。

「し、時雨君……」

 小さな吸血鬼と蛇に睨まれた赤月は、情けないことに、そっと視線を逸らした。そんな彼を見た糸車椿は涙を浮かべ、仕舞にはそれを溢れさせている。

「糸車さんも、泣くんですね」

 二人きりになったところで、涼氷は赤月の肩に頬擦りをし出した。そんな彼女を愛でるどころか、吸血鬼は怖がるように見つめている。

「お前、椿さんが逃げる時間奪ったろ」

「さあ、私は何も知りませんよ?」


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