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氷中花  作者: 綴奏
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碧い月明り 其ノ一

 

 今宵、赤月家のリビングはいつもより賑わっている。週末になると現れるこけし幽霊の三日月と、チアガール部顧問の仕事を終えたユリアの姿があるからだ。

 彼女たちは今、遊園地の話で盛り上がっていた。というのも、ユリアが知り合いから複数枚のチケットを無理やり渡されており、せっかくだからと赤月に譲ってくれたのだ。

 生憎、ユリアは土日も顧問をしていて時間が取れない。また、彼女の妹の美咲も予備校に通い始めたらしく行けないのだという。

 ちなみに避雷針ユリアは妹と対照的な性格ではあるが、彼女も同じくエリートだ。学生時の成績もトップクラスであったらしく、戦闘の面で見ても中級異能者である。多忙な生活を送っている彼女だが、こうしてたまに赤月家で一緒に食事をするのを楽しみにしているというわけだ。

 そんなわけでご機嫌だったユリアであったが、一緒に遊園地に行く面子が赤月以外すべてが女子だとわかると彼を睨み付けた。「しーくん」が最近冷たいだとか、学校で美咲と話していることがあるだとか、そんなことをぶつぶつと呟き始める。仕舞には怒りの矛先は彼のオムライスにまで向き、大きく「バカ」とケチャップで書かれていた。

 そんな生徒と教師とは思えない、仲の良過ぎる姉と弟のやり取りを見ていた夜宵は呆れた顔をしている。そんな兄を持ったことを恥ずかしく思ったらしく顔を背けると、今度は一転して不思議そうな表情になった。

「みーちゃん、食べないの?」

 よく見ると、三日月はケチャップのかかっていない両サイドだけを食べて、中央に手をつけていない。特に嫌いな物もない三日月がケチャップ嫌いだとは思えない上に、それを口にしているところも実際に見たことがある。

「……ねこ消えちゃう」

 そう、三日月のオムライスには、ユリアがケチャップで描いた猫がいた。お腹は空いているが、その可愛い猫を崩すのに抵抗があったらしい。

「この子、うちに連れて帰りたい!」

 誘拐されたばかりの少女にその発言はどうかと思うが、急に機嫌を良くしたユリアは隣に座る三日月を抱き上げて頬ずりをし始めた。その一方で、巨乳茶髪ボブ女に興味がない三日月は、ケチャップ猫に視線を注いでいる。その二人のあまりの温度差に、赤月は思わずオムライスを噴きそうになっている。

「ほら、ユリアはさっさとみーちゃんを放して、お兄ちゃんもいじけてないで食べなさいよ」

 人のことを笑っている赤月ではあったが、彼もまた三日月と同じような食べ方をしていたのだ。食べたからといって馬鹿になるどころか、栄養が頭に回ってむしろ良くなるかもしれないのに、彼は「バカ」の部分を避けているのである。

「いや、昔はお前のハートマークだったなーって」

 小学生の時、初めて夜宵が作った料理はオムライスだった。そして、大好きなお兄ちゃんのために一生懸命描いたケチャップのハートマーク。それを素直に喜んでくれたのが嬉しかった彼女は、赤月が小学六年生のある時期までずっとそうしてきたのだ。

 しかし、悲しいことにあの時の面影をほぼ失くした赤髪の妹は、今や椅子から立ち上がって兄の顔にケチャップを浴びせていた。

「いつの話してんのよ! バカ!」

「こんのチビ吸血鬼……俺の顔がオムライスにでも見えんのか!?」

「卵で包み忘れたできそこないにしか見えないわよっ!」

 ――どうやら、兄の顔はチキンライスらしい。


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