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氷中花  作者: 綴奏
164/165

時の共犯者 其ノ四

 指をピクリと動かしたものの、碧井涼氷は躊躇いなく答えた。動揺を無理矢理にみせまいとするように。

「あの場所で時の力が共鳴し合ったために、彼と彼が救おうとしていた少女の記憶が私の中に入ってきました。まさか守りたかった子の名前まで知らないとは思いませんでしたが」

 それを聞いたニコルは、というよりも、聞いた振りをしているように見える彼女は、深く息を吸っては吐き出した。そして、呼吸を整えた彼女は、時の異能者に問う。

「君は、この時が戻された世界をどう思う」

 長い沈黙の後、時の異能者は感情のない声で答えた。

「何を、言いたいんですか」

 窓の外に視線を送ったまま、ニコル・クリスタラは続けた。

「この世界の時を戻したのは……彼なんだろう?」

「はい。私を救うために時を戻しました」

 碧井涼氷からそれ以上の言葉を聞けないと感じ取ったのか、再び訪れた沈黙をニコルが破った。

「確かにこうして君は生き残った。だが、意地悪な言い方をすれば、赤月時雨は自分の望みのために世界を巻き込んだ」

 それは、とても厳しい言葉だった。特に、救われた側の碧井涼氷にとっては。

「そして、ワタシたちが過ごした一年は無かったことになり、今に至る一年が新しい時として刻み始めた。それによって人々の行動にも変化があった。人の生死までもが良い方にも悪い方にも変わってしまっただろう」

 今やもう時の異能者は、ニコル・クリスタラの横顔を真っ直ぐ見つめている。

「どんなに悲しいことがあっても、生まれたという事実だけで、その人は意味を持つ。もちろん悲しい死にも意味がある。だからこそ、赤月時雨は自分がしたことが正しかったのかと、人の人生を変えてしまったのではないかと苦悩し続けることになる」

 ――ニコル・クリスタラは真顔で碧井涼氷と視線を合わせる。

「もしワタシたち以外がこの事実を知ったとすれば責める人がいるかもしれない。それでも……世界が君たちを責めようとも、ワタシは君たちを許してあげたい。君たちだけが抱えることはない。この事実を共有した時点で、ワタシも時を越えた共犯者なのだから」

 すると碧井涼氷は、時の異能者は、目の前の女性を睨みつけた。

「赤月くんはもういません。――もう、私にはあなたと話すこともありません」

 恐らく、ニコル・クリスタラは気づいていたはずだ。碧井涼氷が今までの会話の中で一度も、彼女が愛した吸血鬼の名を口にしなかったことを。それ故に、ニコルもそれを避けていたように思える。しかし、ついに彼の名を口にしてしまったことで、時の異能者はやり場のない感情を抑えられなくなってしまったのだろう。現実から目を逸らすように席を立つと、碧井涼氷は背を向けて歩き始めた。


「――月夜、待っていたよ」


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