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氷中花  作者: 綴奏
163/165

時の共犯者 其ノ三

 すると、身体をニコルの方へ向けると、時の異能者は優しい声で言った。

「頭を上げてください。あなたは何も悪くありません。……それに、辛いのはあなたも同じでしょう」

 ゆっくりと上げられたニコルの顔は、ひどく疲れて見えた。

「椿は……ワタシによく似ていた。力を持ち過ぎたが故に、そのやり場をなくして孤立していくあの子は放っておけなかった。だが、ワタシが駆け付けた時にはもう、双流と相打ちになり、助からない状態だった」

「最期にあなたに会えたことが唯一の救いだったと、私は思います」

 糸車椿のことを思い出すかのように、碧井涼氷は窓の外へ視線を移す。

「椿は最期の最期まで、君のことを心配していたよ。この状況で一番危険なのは碧井君と時雨君だと、必死にワタシに伝えてくれた」

「これはすべて、私の責任です」

 病室の時が失われたような沈黙が流れ、その時を取り戻したのは時の異能者の言葉だった。

「あなたはもう、気づいているのでしょう? ――この世界が巻き戻されたものだということを」

 青いメッシュの入った前髪を掻き上げたニコルは、ついに言葉を取り戻した。

「椿から聞かされたよ。双流は、木瀬伊織という異能者が計画していた時の巻き戻しも利用しようとしていたらしい。――そして、椿は言っていた。この世界は既に巻き戻されているかもしれないと。実は、彼女からその話を聞いてからワタシもそう思うようになった」

「糸車さんは……どうしてそう言ったのでしょう」

「ここからは推測だが、巻き戻される前の世界で自分の死に関わった人物と巻き戻された世界で接触すると記憶が一瞬戻るのかもしれない。恐らく、巻き戻し前はワタシも椿も月夜に殺されている。ワタシたちは既視感のあるその夢をお互いに見ていたよ」

 この世界は、この時が刻まれている現在は、繰り返された世界。木瀬伊織との戦いを終えた碧井涼氷には、それがはっきりとわかっている。赤月時雨以外の人間と初めて時の真実を共有した彼女は、いま何を思うのだろうか。変わらず窓の外を眺める時の異能者につられるように、ニコルも再び窓の外に視線を移した。

「木瀬伊織という異能者は何を目的に君を狙っていたのか、知っているのか?」


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