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氷中花  作者: 綴奏
158/165

受胎の聖告 其ノ八

 燃えるような熱さの血液。それが全身に流れる痛みに堪えながら、吸血鬼は眼の前の宿敵を睨みつける。が、赤月時雨にはわかっていた。糸車椿にはヒーローなど必要ない。いつだって駆け付けてくれるのは彼女の方だったということに。

「椿さんを一番信じているのは俺だ。……お前なんかに心配される筋合いはねえ」

「そうか。冥途の土産に教えてやるが、紫煙乱舞といえどもESPのフィフスバレットには歯が立たないだろうな」

 ――信じられなかった。信じたくはなかった。

 だがしかし、この男が口にしたことを事実と捉えるのなら、あの仮面の男は双流薫。あの仮面の男が口にしたことが事実なのであれば、双流薫自身が、あの戦場の中でウルフ大佐を殺害し、この混乱に紛れて糸車椿の命を狙っていることになる。そうなれば、いくら黒崎学園で最強と言われる椿であっても、全ESPの第五位に勝てるはずもない。事実、サードバレットの元結玲、フォースバレットの水瀬潤一には歯が立たなかったのだから。

「どうして……ESPが。そんなもん信じられるか!」

「信じる信じないは貴様の勝手だ。だが、おかしいとは思わなかったのか。突然バレット二名が指名手配されたかと思えば、貴様と紫煙乱舞が彼らに襲撃され、生き延びたかと思えば今度は自分たちが指名手配されていた。――ESPのフィフスバレットが失踪したという今朝のニュースは」

 一歩一歩ゆっくりと距離を縮めてくる黒布の男が最後まで語ることはなかった。それそのはず、赤月時雨が放った血刀が彼の心臓を貫いたからだ。もはや何が起きているかもわからないこの状況で、黒髪の吸血鬼にできること。それは、眼の前の敵を倒し、すぐに糸車椿の元へ駆け付けることであった。たとい、その相手が誰であろうと。

 だがしかし、碧井涼氷の一言で赤月時雨は血の気が引いた。

「赤月くん、液状化していない死体が」

 無数の死体が液状化し血の海と化したこの場所で、確かに消えていないそれがある。さらに恐ろしいことに、その死体はむくりと起き上がると再び赤月が刺殺した男に姿を変えたのである。首を鳴らしながら身体の具合を確かめている男は言った。

「量産型に時間を取られてしまったからな。機能停止後に爆発するタイプはそれで最後だったか」

 それを聞いた赤月時雨の選択肢はひとつしか残されていなかった。涼氷を逃がす時間もなければ、彼女を爆発から守るすべもない。そうなれば、眼の前にいる爆弾人間の威力を食い潰すようにして涼氷からそれを遠ざける他なかったのである。血刀を胸に突き刺さったまま棒立ちになっている死体を抱えると、吸血鬼は床を蹴るようにして距離を取ろうとした。――その瞬間だった。爆発というよりもむしろ、破裂に近い音が響き渡り、宙を舞った血刀が屋上に突き刺さる。それとほぼ同時にパタパタと血が降り注ぎ、吸血鬼は何の受け身も無しに転がっていく。身に着けていたワイシャツは跡形もなく消し飛び、その身体は表皮が吹き飛ばされたかと思う程に血で真っ赤になっていた。血塗れのまま必死に起き上がろうとする吸血鬼に駆け寄ってきた時の異能者が手を貸した時、背後から声がする。

「弱くはないが決して強くはない。いずれにせよ、トドメを刺しておかなければ面倒だ」

 その声に振り返った二人が見たものは、白い触手を黒布から伸ばしている男の姿だった。

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