受胎の聖告 其ノ七
「……吸血鬼とは化け物ばかりだな。貴様はこの銃弾で苦しむ少女を見ただろう。特に吸血鬼には猛毒のはずなのだが、理解に苦しむ」
血走った眼をした赤月は、首無し死体から視線を外し背後から発砲してきた男を睨みつけた。
「化け物は……お前らみたいな人間だ」
首無し死体が液状化し始めると、怒りに顔を歪める吸血鬼は涼氷を庇うように彼女を背に隠した。眼の前にいる黒布は、真っ白だった顔をぐねぐねと変化させ始めている。この男は一体何の異能者なのかも検討がつかない。だがしかし、血塗りの修羅、つまりは月夜の記憶で聞いた声と同じ。それはこの男が時の異能者を狙う主犯格であり、赤月にとって許すことのできない人物だということに変わりはなかった。そう確信した吸血鬼は、再び血刀を左手から引き抜く。
「……血塗りの修羅の前で一緒にいた男は誰だ」
ただの黒布だった男は、顔の皮膚が波打つようにして一人の男性の姿になった。やはり、赤月が先ほど顔を確認した男と同一人物。しかし、この状況に驚きをみせたのは黒布の男の方だった。
「これは驚いた。…………吸血鬼は禁忌である血液共有を行うと記憶を共有できるのか?」
「やっぱりあいつの血を使ってんのか……」
それを改めて認識してしまったからか、赤月時雨はがくりと膝を着き呼吸を乱し始めた。先程の会話が血塗りの修羅の記憶だとすれば、彼に打ち込まれた銃弾には吸血鬼の血、それも最強の吸血鬼の血が仕込まれているはずだ。そうなれば、赤月の身体が猛毒に侵されいうことを聞かないのも納得がいく。――そして。
「こんなもんを……美咲さんに撃ちやがって!」
「正確には違うな。狙撃を妨害された時の弾丸は血塗りの修羅から作ったレッドアイであり、貴様にいま撃ち込んだものは血塗りの修羅の血液だ。流石に敵対者を目の前にしてレッドアイを与えるのはリスクが高いだろう。本当はあのまま撃たれて息絶えるのか、気が狂うのかどうかを検証したかったのだがな」
そう、着弾後に液体を体内に流し込む弾丸。あの時、避雷針美咲を瀕死に追い込んだものは、最悪なことに血塗りの修羅から作られたレッドアイだったのだ。
「お前は……絶対に殺す」
「正義のヒーロー気取りがそんな言葉を使うものではない。……ヒーローといえば、ピンチになったら必ず駆け付けてくれるものだ。だからこそ、貴様に問う。――紫煙乱舞を放っておいて、いいのか?」