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氷中花  作者: 綴奏
154/165

受胎の聖告 其ノ四

 化け物の重みに悲鳴を上げるように軋む蔓と相反して、伊原ヒロは腰を抜かしている担任教師に言った。

「なあ、避雷針。学園中の木がなくなっても文句ねえよなー」

 格好良く駆け付けたものの、彼と違って顔を引きつらせている上羽巳忍はもう一度叫んだ。

「だから早くやっつけてってば!」

 それを無視して避雷針ユリアと目を合わせる彼は、答えを待っていた。それに応えるように、彼女はコクリと頷き、震える声で言う。

「はい……許可します」

 それを待っていたとばかりに、伊原が蜘蛛の巣のように張り巡らした蔓に触れると、大型の化け物を押し返し始める。さらには絡まり合うように、蔓があちこちから木々を巻き寄せ形を成していく。ついに化け物の頭を弾き飛ばした黒崎学園のセカンドバレットは言った。

「俺が研究室から出てきたからといって期待するなよ。お前の妹が目を覚ますまで、まだ時間がいるからな」

 それを聞いたユリアは大泣きしたいのを我慢するように、歯を食い縛り顔を涙でぐしゃぐしゃにしている。

「ありがとう……伊原君」

 むくりと、そしてゆっくりと起き上がった大型の化け物が学園中に響き渡る雄叫びを上げた。それは何人もの人間の声が、幾十にも重なった悲鳴に聞こえる。その音に思わず目を閉じた蛇の少女は、乱暴に投げ飛ばされると、さすがにその目を開けた。

「蛇女、赤時雨の血液はもう必要ない。が、お前は引き続き俺の助手として働け。……サードバレットを助けたいんだろ」

「……ここまで来たら協力するに決まってんでしょ。もしまたみーたんに何かしたら咬み殺すからね」

「契約成立だな」

 蔓の塊に横たわる忍の横に降り立った伊原が腕を振り上げると、彼女の悲鳴と共に蔓の塊は上空へと登っていく。グラウンドにいた生徒たちが怯えながらも、希望の象徴を目にするような眼差しで見上げている。大型の化け物に飲み込まれかけた黒崎学園には、伊原ヒロが創り出した緑龍の姿があった。


 かつて、赤時雨を血祭りに上げただけでなく。

 他の生徒すら無差別に巻き込んだ荊棘迷宮。

 そんな彼が、学園の生徒を、赤時雨の妹を。

 そして、避雷針ユリアを守るために。

 黒崎学園のセカンドバレットとして、牙を剥く。


「落ちんじゃねーぞ、蛇女」


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