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氷中花  作者: 綴奏
153/165

受胎の聖告 其ノ三

 

 ◆


 黒崎学園の第一グラウンドの中央。つまりは、かつて赤月と椿が模擬戦を行なった辺りに、学園中の生徒が集められている。教師陣が中心になり、腕に自信のある生徒たちも必死になって戦っていた。力の弱い学生を囲むようにして、次々と迫ってくるヒルのような化け物たちに苦戦している。どういうわけか傀儡と黒布の姿はなく、ただ黒い化け物が集まってきていた。

 三日月の巨大化した影ががむしゃらに腕を振り回しては化け物を潰し、小型避雷針を全身に浴びたそれが、強烈な電気をユリアに流されては液状化していく。個々の能力を駆使していくうちに、一度は優勢に立ったかと思えた。が、中央で怯えている生徒たちの悲鳴から、別の脅威が押し寄せていることが戦闘中の者たちにも伝わる。

 他の化け物に比べて図体がデカいものが現れたのである。ただ大きいだけではない。というよりもむしろ、それが大きくなった理由が目の前で起こっていた。液状化し切っていない死骸から生きている化け物までもを丸ごと飲み込み、ぶくぶくと身体を肥大化させているのだ。

 危機感を覚えたであろうユリアが電撃を食らわせるものの、その分厚い肉の塊に守られているのか効果があまり見られない。その他の生徒の攻撃も、あまりの肥大化速度に追い付けず意味を成さなかった。

 ヒルともあろう化け物が、今やグロテスクな蛇に進化した姿が黒崎学園のグラウンドを覆っていく。全長にして五階建ての校舎をも優に超え、馬鹿みたいにデカい大口を開けた化け物は、生徒たちが集まる中央にその頭を落とした。地響きが悲鳴すら覆い隠す地獄のような風景。そんななかで、場違いな会話をしている二人組の声が、確かに聞こえた。

「あれはお前の仲間かなんかか?」

「いいから早くなんとかしなさいよ!」

 力無く地面に座り込んでしまった避雷針ユリア。彼女は目を潤ませて。

 ――大切な、大切な生徒の名を口にする。

「……伊原君」

 化け物の口が生徒たちを頭から飲み込むギリギリの位置で、木の幹のように太い蔓が蜘蛛の巣のように広がっている。

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