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氷中花  作者: 綴奏
152/165

受胎の聖告 其ノ二

 

 ハッとして顔を上げた吸血鬼の口からは、時の異能者の血液が止めどなく滴っていた。


 あの赤月時雨が。

 誰よりも優しくて強い心を持つ吸血鬼が。

 彼が愛した少女から。

 碧井涼氷の死体から。

 その血を飲んでいたのである。


 言葉を奪い、立っている気力までもを奪うには、その事実だけで十分過ぎた。力無く腰を抜かした避雷針美咲は、後退ることすらできずに茫然としている。妹の夜宵や家族同然のユリアでさえ言葉を失い、動くことができずにいた。自分を恐怖の対象として認識した彼女たちを眼にし、眼を赤く染めた少年は、口から血を流したまま悲しげな雄叫びを上げる。それを待っていたかのように、駆け付けたESPたちが彼女らの後方から吸血鬼に迫っていく。そう、少女の血液を摂取していた吸血鬼は、赤時雨として、討伐対象とみなされた瞬間だった。

 大きな風穴を腹に開けた少女を抱え、吸血鬼は走り出す。水色の液体が槍のように彼の身体を貫き動きを奪い、黒い何かが通り過ぎるといとも簡単に片脚を奪っていく。赤時雨は歯を食い縛り傷口から大量の血を噴き出し、水色の槍を押し返すように脱出すると、残された脚で屋上から思い切り飛び降りた。

 重傷を負った赤時雨。ESPのサードバレット、フォースバレットが逃すはずもなく、残りの脚を吹き飛ばされた。そんな彼を地上から伸びるようにして、トドメを刺そうとする水人間が見える。


 冷たくなった少女を強く抱き締める腕だけが残された赤月時雨。

 彼の眼からは、確かに赤い涙が溢れていた。


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