受胎の聖告 其ノ一
静まり返った校舎。そこに自分たちの足音を置き去りにするように、夜宵、ユリア、美咲が駆け抜けて行く。一階から屋上まで、息を切らすことすら忘れた彼女たちが転がり込むように扉に手を掛けた。
生温い春の風に乗った血生臭い匂いが、彼女たちの髪を舐めるように巻き上げていく。彼女たちから言葉がでないのは、純粋な息苦しさだけではないだろう。
そこには血塗れの少女の姿があった。虚ろに開けられた目と、微かに空いている口から、彼女の状況が見て取れる。時の異能者の腹部に泣き崩れるように跪いている吸血鬼の姿は、目を当てられるものではなかった。
誰しもが言葉を掛けられない状況。だがしかし、時の異能者を愛して止まなかった吸血鬼の心を知っているからこそ。誰よりもそんな彼のことが好きだと思っているからこそ。避雷針美咲は言葉を発しようとした。
だが、そんな美咲の気持ちすら飲み込んでしまう音が響いていることに、彼女は気づいてしまったのだろう。そんなはずはない、そんなことがあってはならない。だけれど、それは紛れも無い現実だった。
何かを啜る音が、確かに聞こえてくる。
時の異能者の腹部から、荒い呼吸に紛れて鳴り響いている。
「赤月君……、何を……しているの」