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氷中花  作者: 綴奏
150/165

絡み合う糸 其ノ五

 

 ◆


 天変地異でも起きたかと思うほど豹変した笹原町。どこから悲鳴が聞こえてきているのかも判別しようがないこの場所が、赤月たちが高校生活を送ってきた街だとはとても思えなかった。白い触手を伸ばす黒布と刃物を身体に仕込んでいる傀儡たちが、どこから湧いてきたのかと思う数で人々を襲っている。さらには血生臭さだけでなく、あちこちで起こり始めた火事が焦げ臭い煙を充満させていた。

 そんな中、目を涙で真っ赤にしている夜宵を背負い、赤月は椿と共に黒崎学園へと向かっている。ユリアの家で匿ってもらってはいたものの、卒業式の日に指名手配犯の妹を学校に連れていることはできなかった。それ故にひとりで恐怖に堪えていた夜宵を間一髪のところで兄が救出したのだ。もはや、指名手配犯とされている二人が街を疾走しようとも、誰も気に留めることはない。統率が取れているのかも定かではないESPに至っては、それぞれの判断で一般人を必死に助けようと奮闘しているのだ。しかし、個々の力が弱くとも黒布、そして傀儡の数は計り知れない。それ故に、ESP隊員の中には逃げ出していく者、既に死体と化している者も多くみられた。彼らは自分たちが何に巻き込まれているのかわかるはずもないだろう。それは赤月時雨たちも一緒だ。ただひとつ、今この状況下で最も危険に晒されているであろう少女のことだけを除けば、である。黒崎学園には異能者しかいないため、きっと涼氷たちは無事だと赤月は心の中で自分に言い聞かせていた。しかし、それを感じ取ったのか、椿は容赦なく彼の希望を砕く。

「今回はどれほどの者が動いているかわからないよ、時雨君。何を目にしても、救える者を守るんだ」

 小さな希望に縋り付くような状態では誰かを助けるどころか自身の命を失いかねない。それが彼女にはわかっていたのだろう。

 ここで、その言葉が決してただの憶測ではないと証明されることとなる。突然、手のひらから刃物を生やした傀儡が飛び出してきたのである。椿の短刀がそれを捉えるものの、さらに追い打ちを掛けるように両袖から各二本も刃物を覗かせた男が傀儡ごと椿を斬りつけた。傀儡を上手く盾にしたはずが、不規則な動きをした四本の刃物に両腕を斬り刻まれる。その痛みに顔を歪めながらも椿は叫ぶ。

「ここは引き受ける! 碧井君を頼む!」

 それを聞いた赤月は迷わず涼氷のいる黒崎学園へと走り出す。

「椿! 生きて必ず俺たちの元へ帰ってこい!」

 血塗りの修羅との戦いを覚悟した時のように、赤月時雨は椿の名を叫んだ。両腕から血を流す蜘蛛の異能者は、赤月の後ろ姿を悲しげに見つめると、突如現れた敵に向き直る。

 ――黒布と同じ黒い衣を身に着けているその男は、不気味な仮面を着けていた。異様な雰囲気を漂わせるその敵を前にしても。両腕から血を流していようとも。紫煙乱舞と呼ばれ、恐れられた椿は、一歩も引く様子をみせはしなかった。


「私は誰にも負けない。大切な仲間を守るためなら、絶対に」


 そして、胸に蜘蛛の紋章を浮かび上げる蜘蛛の異能者は。

 黒崎学園のファーストバレットを背負った紫煙乱舞は。

 大切な仲間を持つことができた糸車椿は。


 共に戦い続けた吸血鬼を想ってこう言った。


「――そうだったよな、時雨君」


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