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氷中花  作者: 綴奏
148/165

絡み合う糸 其ノ三

 

 ◆


 自分たちの服が擦れる音と足音以外なにも聞こえない。この世とは思えない部屋で、赤月時雨は部屋に戻ってきた椿から水の入ったグラスを受け取る。

「妹君が心配だろう。ただ、今はしっかり身体を休めるんだ」

「……あの廃工場に行く前に、ユリアの家に泊まるよう言っておいて正解でした」

 深い溜め息をついた上裸の吸血鬼は、包帯でグルグル巻きだった。蜘蛛の異能者に至っては下着と包帯だけの格好をしている。ここは糸車家が隠している地下通路と繋がっている隠し部屋である。何故そんなものがあるのかと普通は考えるものだが、糸車家というだけでそれの説明がつくようなものだ。だからこそ、愚問ではなく、今の状況に即した疑問を椿にぶつけた。

「それで、何かわかりましたか」

 椿も乾いた喉を水で潤してから答えた。

「どうやら、私たちが襲われたのは指名手配犯という扱いになっているためらしい」

「指名手配……俺と椿さんが?」

 赤月が呆れたように頭を掻き毟るのも無理はない。どう考えても状況がおかしいのだ。

「それだけではない。元結と水瀬の二人も、私たちより少し前に指名手配されていたみたいでね。……父上に調べて頂いているが、裏で何が起こっているのか不明点が多過ぎて迂闊に動けないそうだよ。なにせ、娘が指名手配犯とされているのだからな」

 流石の糸車椿も、もはや何が何だかわからないとばかりに乾いた笑いをみせた。

「……涼氷とは無関係だと思いますか?」

 椿はグラスからそっと口を離す。

「例の黒布が動きをみせているなら関係があるだろう。しかし、仮にそうだとしても元結たちが襲ってきた理由を説明できない。そもそも、彼らがなぜ指名手配され、目撃されるリスクを冒してまで私たちを襲ったのか。ましてや自害するなど、どれもおかしなことばかりで繋がりが見えない」

「……あの二人とまではわからなくとも、俺と椿さんがつけられているのはいつ頃から気づいていたんですか?」

「糸車家の道場で修業したあとだ。糸車家の警備が行き届いていないエリアに入った途端それを感じたものだから、相手も馬鹿ではないとわかったが――まさか彼らだとはね」

 赤月は自分たちが狙われた事が腑に落ちない様子で再び頭を掻き毟る。椿も心身共に疲労困憊という表情をしている。

「とにかく今日はもう寝よう。肝心な時に動けなくては困る」


 ――それから数時間経ち、深夜に目を覚ましたのは糸車椿であった。布団を抜け小さな冷蔵庫を開けて水に手を伸ばす彼女は、隣に男子高校生が寝ているというのにまだ下着姿のままだ。

 冷蔵庫の明かりが吸血鬼の寝顔を暗闇の中に浮び上がらせた。傷が浅いとはいえ、無理な戦い方をした彼の上半身を包む白い布は痛々しく映る。すると、何を思ったのか水を飲み終えた蜘蛛の異能者は、赤月の布団に入り込んだ。


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