表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷中花  作者: 綴奏
147/165

絡み合う糸 其ノ二

 ――その時、二本の血柱が地面から突き出すと、元結の攻撃を何とか止めてみせた。が、逆に隙が生じた吸血鬼は、背後から迫っていた水人間の無数の腕に捕らわれ、そのまま身体の中に引きずり込まれていく。ガボガボと声にならない悲鳴を水中で上げた吸血鬼は、必死に四肢を暴れさせ脱出を図るが、水圧のせいで思うように動くことができない。さらに悪いことに、包丁のような形状になった水人間の腕が水の牢屋の外に見えている。それは、水人間が自害をするかの如く、真っ直ぐに赤月の胸を目掛けて突き刺された。水の中に入ろうとも、その刃は形状を維持したまま吸血鬼の身体へと突き刺さっていく。咄嗟に左胸に傷口を作った赤月は、そこから血液を噴出させながら結晶化させている。その作戦は無駄ではなく、心臓を避けて左肩に刃物が突き刺さっただけで済んだ。

 息も持たなくなってきた赤月の水でぼやけた視界には、ESP5に怖気づくことなく凄まじい戦闘を繰り広げている紫煙乱舞の姿が見えた。しかし、戦闘経験の違いなのだろう。いくら黒崎学園のファーストバレットといえども、ESP5のサードバレットが相手では分が悪過ぎた。戦闘センスではカバーしきれないレベルを見せつけられるように、徐々に蜘蛛の異能者は押され始めているのだから。

 そして、窒息寸前の吸血鬼の眼の前には、刃物でダメならその首を絞めるだけで十分というかのように、水の手が彼の首を覆い始めた。意識が薄れていくなかで、吸血鬼は一瞬だけ眼が赤く染まったかと思うと、再び水中の中で自身を傷付け始める。それは、先程とは比べ物にならないレベルでの自傷行為だ。水人間が徐々に血の色で塗り替わっていくと、赤月時雨は破裂した。

 正確にいうならば、自らの血液を大放出したことで水人間が弾け飛んだのである。馬鹿でかい水風船が破裂するような音と共に、水人間の身体がありとあらゆるところに吹き飛んでいく。ただの雫から、千切れた腕の部分、頭部などが、バタバタと音を立てながら。その瞬間、僅かに動きが止まった元結の腹部へ、強烈な蹴りを入れた糸車椿が飛び退くように赤月の横へ降り立った。

「時雨君、相手が悪過ぎる。――ここは退くぞ」

 腹部を抱えることもなく、あの蹴りを受けた人間とは思えない動作で起き上がる元結玲。そして、その横で新たな水人間を口から吐き出すように生成する水瀬潤一。その一方で、致命傷は受けてはいないものの、傷だらけになり体力を消耗した黒崎学園のファーストバレットとランク十二の吸血鬼。恐らく、椿も赤月と同じで逃げる手段すら思いつく状況ではないのだろう。信じられないことではあるが、あの紫煙乱舞からは焦りが感じられるのだから。

 しかし、絶望的な状況は瞬く間に終わりを迎えることとなった。ESP5の二人が撤退するでもなく、赤月たちを誰かが助けに来てくれるでもなく。――ESPのバレットを名乗る二名が、自らの首を切り自害したのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ