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氷中花  作者: 綴奏
143/165

呪われた血 其ノ二

 

 ◆


「ホラホラ! 海だよ、みーたん!」

 窓にへばり付いていた上羽巳忍は、三日月にも見えるように身体を引きながらはしゃいでいる。喜んでいるのかいないのかわからない表情をして、窓から望める海を見つめ始めた影の異能者。彼女の腕を保護していたギプスは上半分が切り取られているものの、まだ完治はしていなかった。そんな彼女が不自由なく景色に集中できるよう、糸車椿が反対側の座席から支えてあげている。少しだけ荒い運転が気になるミニバンを運転しているのは、避雷針ユリアだ。

「ユリア、ホントに大丈夫だったの? その……部活とかもあったでしょ」

 助手席に夜宵を乗せたユリアは鼻歌を歌いながら運転している。

「大丈夫よー。土曜だし、部活も休みにしてきたから!」

「……そう」

 七人を乗せた車の目的地は、伊豆にある糸車家の別荘である。一番後ろに押し込まれた怪我人の吸血鬼は、座っているだけでも神経が圧迫されるらしく何度も座り直していた。その隣に座る碧井涼氷は、出発時から景色を眺めたまま一言も言葉を発していない。

「避雷針先生、車まで出して頂き申し訳ない。私の我儘に付き合わせてしまった」

 椿とユリアがプライベートで関わるのは今日が初めてだ。にもかかわらず、この温泉旅行の企画は彼女たち二人が中心となっている。実のところ、妹の美咲のこともあり、誰もその話に触れようとはしなかった。この企画の話になった時も、進んで計画を立てているユリアに対して、余計な発言はしないようにしていたのである。裏で口合わせをしたわけでもなく、無理矢理に元気な姿をみせようとしている姉の姿に、誰も妹の話を出すことなどできなかったのだ。

「たまには気分転換しないとね。――しーくん、もう一回休憩しとこうか?」

「いや……今は痛み止めが効いてるから、大丈夫そうだ」

 ――あの一件以来、赤月はユリアと会わせる顔がないため、当然ぎこちない。

「そう? キツくなったら言ってね」

 ――それから車内の会話は特別無く、景色が変わる度にわざとらしく忍が反応するだけだった。そんな時間が一時間ほど続いたものの、湖の近くにある糸車家の別荘に無事到着している。そこはログハウスのようにお洒落なだけでなく、手入れが行き届いており内装もとても綺麗だった。別荘は同じ造りをしたものが二つ並んでおり、東側は赤月、椿、涼氷の三人で、西側は残りの四人といった具合だ。

 近くにある温泉に浸かってから食事を取る予定ではあったが、思ったよりも早く到着したため、しばらくは自由に過ごす時間となった。七人での小旅行にもかかわらず、この時間は実に奇妙なそれになっている。というのも、誰かと一緒に過ごしているのが忍と三日月、夜宵しかいなかったのだ。別荘に来るまでの道に花畑があったとスタスタ歩いていってしまう涼氷。襲撃の話を聞いていたためか、彼女のことを気に掛けるようにそっとそれを追う椿。湖を見たいと言いながらも、静かな場所を求めて遠くの方へと足を進めているユリア。そんななか取り残され、どうすべきか悩んでいる怪我人の吸血鬼。彼が進んで行った方向からして、それは正しい選択をしたと言えるだろう。いつ襲われるかわからない涼氷のことは当然心配ではある。ただ、今回ばかりはあの紫煙乱舞が気に掛けてくれているのだ。だからこそ、赤月時雨はこうして湖に沿って足を進めるだけで良かった。そうすれば、いずれは避雷針ユリアの元へ辿り着くのだから。


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