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氷中花  作者: 綴奏
134/165

月夜と美羽 其ノ四

 

 ◆


「いつもあんなことされているのか、お前」

 シャワーの音に混じる月夜の声が.風呂場のドアに背を預けている美羽に届く。

「あんなこと初めてだよ。あの生き物に追い掛け回されなければあそこに行くこともなかったし」

「火を扱える異能者でありながら、なぜ抵抗しない」

 彼女はそのことを明言していない。恐らくは美羽がその能力で月夜のためにお湯が出るようにしていることに気づいたのだろう。

「力が弱いからこうやって水とか食べ物を温めるくらいしかできないの。君は? 手が鋭いからカマキリだったりして」

 楽しそうに話す美羽。しかし、月夜のとある言葉が笑顔を奪う。

「この手刀は能力ではない。そもそも、俺は吸血鬼だ」

 恐らく、血の抜かれた死体が最近になって多く見つかっていたことを彼女は思い出したはずだ。

「そう……なんだ」

「俺が出るまでに一度ここを離れろ」

 月夜の声色がガラリと変わるが、美羽は頑なに動こうとはしなかった。シャワーの音が鳴り止み最後の猶予を与えられても、彼女はそこから動こうとしない。

「……私は、大丈夫だよ」

 浴室のドアが開き、髪も体も濡れたままの月夜に、美羽は肩を掴まれ壁に押し付けられる。月夜はそのまま俯きながら話し出す。

「何に巻き込まれるかわかったものではない」

 彼の様子は先程と違い、僅かに感じていた温かさが全く無い。

「血塗りの修羅。人はそいつを化け物だと恐れる。数えられない程の人間を殺してきたからだ」

 顔を上げた月夜の赤い瞳の色は先程よりも濃い色を帯びている。

「そいつが化け物だという考えは否定しない。だが、本当の化け物はそんな存在を生むやつらに他ならない」

 美羽はとても悲しい表情をした。何も口にすることなく、ただ、悲しい色を纏っていた。

「……ひとつ教えてやる。お前は俺の気まぐれで生かされていただけだ」

 月夜は美羽の部屋着を破き肩と首筋を露出させると、容赦なく咬み付く。それと同時に、儚い吐息が部屋の空気を揺らした。

「……約束……したよね。……遊んでくれるって」

 水色の髪をした吸血鬼は血を吸い続ける。

「誰かを殺しても……不幸になるだけ……」

 美羽の顔がみるみる青ざめていくものの、彼は止める様子もみせない。

「……ダメだよ……月夜」

 名前を呼ばれた。その瞬間、彼の瞳の色がじんわりと濃くなる。

「私が……一緒に……いてあげるか……ら」

 吸血鬼の眼からは、血の涙が流れていた。


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