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氷中花  作者: 綴奏
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レッドアイ 其ノ三

「……強過ぎだろ」

「そうでもないわ。強い痛みを感じると、思うように力を発揮できないもの」

 触れた相手のすべてを倒せるのであれば、避雷針美咲が伊原に負けるはずがない。あの時、彼は蔓のようなもので彼女を縛っていた。つまり、美咲の強力な電流を出させない程の力を持っているということになる。

「……それにしても、あなたの戦い方は凄いのね」

 美咲の視線は赤月の左胸にある、五つの赤い染みに注がれていた。

 自分の身体を傷付けながら戦う異能者など、そうはいない。

「お兄ちゃん!」

 道路を挟んで反対側にあるデパートの入口には、夜宵と三日月の姿が見えた。二人の無事を確認した赤月はホッとして笑顔を浮かべる。

「お前らはまだそこから出るなよ」

「あら、いい笑顔ができるじゃない。私の前では笑ってくれないのに」

 最初に会った時に比べると、赤月に対する態度が雑になっている。これは好意とも取ることができるが、友達のいない赤月にはそんなことはわからないだろう。何とか作り笑いをするものの、やはり上手くできない。

「ほら、また引きつってる」

 そんな彼女の助けで、すべてが解決した――かに見えた。

 しかし、もっと厄介なものを吸血鬼の眼が捉える。見たくはなかったけれど、それを見逃せばとんでもないことになりかねない。――そこにあるのは、黒い悪魔だった。

「……どうしかしたの?」

「爆弾が……ひとつない」

 美咲がアタッシュケースに駆け寄り確認すると、確かに爆弾がはめ込まれている個所があった。その隣には同じような場所がひとつあるが、そこには何もない。

 美咲はそれに顔を近づけて言った。

「構造からして時限爆弾のように見えるわ。……起動はしていないみたい」

「美咲さんはESPが来るまでそいつを見張っていてくれ!」

 そのまま赤月が向かった先は少し前に入った喫茶店だった。銀行を襲撃した情報を知っていれば、まず始めにそこを疑うのが普通だろう。しかし、彼の聴力が店を出る前に捉えた、従業員同士の会話を思い出したのだ。店に着くと、テラスから様子を窺っている金髪の店員の姿があった。

「おい! さっきの忘れ物はどこだ! 黒い鞄!」

「え……いきなり……何?」

「いいから早くしろ! あれは時限爆弾かもしれねーんだよ!」

「え……え……!?」

 痺れを切らした赤月は目を点にしている店員と客の間を走り抜け、レジ裏に侵入した。慌てて駆け付けた店長を押し倒し、黒い鞄を引っ張り出してテラスに出る。

「やっぱり、音がする……!」

 鞄の中にはイレギュラーが手にしていたものと同じ爆弾が入っていた。

 ……起爆まであと十七秒しかない。

 悪態をついた赤月は左肩を爪で思い切り裂くと、喫茶店が入っている建物の壁に傷口を押し当てた。すると、壁から一定の間隔で赤い血柱が数本突き出していく。 

 それに飛び乗りながら屋上へと上がった赤月は、高い建物がない空間に飛び込み、全力で爆弾を上に放り投げる。

 耳鳴りがする程の爆音が駅前に響き渡る中、爆風に吹き飛ばされた吸血鬼が喫茶店のパラソルの上に落下した。赤月の身体が堪えられる高さを超えていたものの、そのおかげでほぼ怪我はない。

「ちょっと、大丈夫……きゃああああ!」

  誰も近づこうとしないなか、様子を見にきたのはあの金髪の店員だった。常識的に考えて生きているわけがないのだから、死体が急に起き上がったのを見れば悲鳴を上げてもおかしくはない。

「ああ……えっと。帰るわ」

 死体はそそくさと退散しようとしている。

「え……あ、ちょっと待って。救急車呼ぶから!」

「大丈夫だから。それより……離れた方がいいぜ?」

 赤月の視線の先には、命が助かったにもかかわらず恐怖で引きつった顔をしている店員と客の姿がある。しかし、金髪の女の子はそれに気づいても構わず続けた。

「助けてくれてありがとう。あたしは忍っていうの」

「俺は……赤月。悪いけど、もう行くから」

「赤月! ありがとう! ……頑張ろうね」

 左肩の傷を押さえながら赤月は去っていく――というよりも逃げ出した。

 多分、忍という少女は最後の言葉が彼に届くとは思っていなかったはずだ。赤月はその言葉を疑問に思いながらも、妹たちの元へと足を進める。

 あんな視線を向けられては、ここで立ち話をする気にもなれないのだから。


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