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氷中花  作者: 綴奏
128/165

赤眼の赤月 其ノ四

 

 ◆


 火薬の匂いが混じった、どこか吐き気を催すような生々しい血の匂い。まだ、手足が身体から吹き飛んでいない感覚。鼓膜が吹っ飛んだのではないかと思う程の耳鳴りと、金属で殴られ続けているような頭痛。全てがぐちゃぐちゃな感覚のなかで、赤月時雨は地面に這いつくばっていた。

 自分が何故ここにいるのかも、何故こんな酷い状況に陥っているのかも曖昧にしか思い出せない。血塗れになっている彼は、自分が煙に囲まれている理由を探すように眼を凝らし始める。

 ――ドックン。

「やめろ……」

 ――ドックン。

 心臓の音が脳を揺らすように、大きく鼓動し始める。その間隔が短くなっていくにつれ、赤月時雨は徐々に吹き飛んだ記憶の一部を取り戻していく。

 ――ドックン、ドックン、ドックン。

 彼の視線の先には今にも意識を失いそうな、紫煙乱舞の顔が映り込んでいた。座り込む彼女に覆い被さっている血塗りの修羅の肩越しに、生気を失いかけている少女と目が合ってしまったのだ。

 夜宵の死体、椿の死体、そして彼の腕の中で眠る涼氷の死体。それらが赤月の頭の中を覆って逃がしてはくれなかった。この世で最も見たくない悪夢が赤月時雨を真っ赤な世界へと引きずり込んだ。

 終劇を実感させる段幕が降りるかの如く。

 赤い世界が、赤い涙が、孤独な吸血鬼の世界を塗り替えていく。

 ――赤く、赤く、赤く、赤く。


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