表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷中花  作者: 綴奏
113/165

赤い月明り 其ノ一

 

 時は少し遡り、肌寒い日が続く十一月の上旬。カーディガンスタイルに拘る生徒は、意地でもブレザーを着ようとはしない。私立黒崎高等学園のブレザーは中々のデザインだというのに、それに慣れてしまった彼らからすると、あまり魅力的ではないのだろう。しかし、そんな生徒は極一部であり、待ってましたとばかりにブレザーを自分なりに着崩す生徒が多いのが事実だ。特に女子の魅力が映える色使いになっているため、他校の生徒からの人気も高い。裏では黒崎学園の制服が高値で取引されている程だ。そんな憧れの黒崎学園の敷地内に入れる機会など滅多にないが、今日は違う。

 ――そう、この時期のイベントといえば、学園祭である。

「み―た――――ん! 美咲ちゃ――――ん!」

 喜びと興奮に満ち溢れた大声を上げながら、中庭に駆け込んできた少女。金色の髪を蝶の羽のように舞わせ、二人の少女に抱きついたのは上羽巳忍だ。意外なことに、プライベートでも顔を合せているらしく、美咲も楽しそうにしている。赤月夜宵も彼女たちと一緒にいることが多いが、今日は不在のようだ。

 三日月と夜宵のクラスの出し物は喫茶店。そうとなれば、お菓子作りに赤髪の吸血鬼が忙しくしているのも当然だ。彼女が持ってくるお弁当箱には、いつも凝りに凝ったおかずが敷き詰められている。そのため、夜宵の料理の腕はクラス内で噂になっていたらしい。ちなみに同じ物を持参していようとも、赤月時雨が誰かに弁当箱の中身を見られることなどなかった。ただしそれは、碧井涼氷と出会うまでの話だ。

「やっぱ……涼氷のお母さんだったのか」

 青春を謳歌する生徒たちの活気が、自分にとって毒だとでも言いたげな顔をしている吸血鬼。屋上の手摺りに寄り掛かりながら、今を輝く時から外れた吸血鬼。そんな彼でも思わず身を乗り出して見つめる先には、青髪の親子の姿があった。赤月と文化祭を回ることを楽しみにしていた涼氷であったが、昨夜、彼女から一本の電話が入っている。


『こんばんは、赤月くん』

『どうしたんだよ、こんな時間に』

『あの、誘っておいて申し訳ないのですけれど……』

『もしかしてお母さんが来れることになったのか?』

『はい。だけれど赤月くんと――』

『気にすんなよ。忙しい母親が休みを取ってくれたんだから、ちゃんと案内するべきだ』

『きっとそう言ってくれるとわかっていましたが、流石に私でも申し訳ない気持ちになります』

『俺は元々ああいうの苦手だからいいって。――それに、俺たちには来年がある』

『……今のは、赤月くんから私を誘ってくれたと解釈していいのですね?』

『え……まあ、いいけどさ』

『それって、とても素敵なことだと思いませんか?』

『そうかもな。――俺が誰かを誘うなんて考えられなかったことだし』

『そんなことありませんよ』

『え?』

『――そう思ったんです。もう既に誘い出してくれている――と』

『なんかお前って、電話だと雰囲気違うよな』

『きっと、会えないのに声を聞けるだけで幸せだからです』

『――おい、からかうなよ』

『からかってなどいません』


『たとい息を引きっとっていようとも、私にはあなたの声が聞こえる』


『そう思えるほどに、私はあなたを――――』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ