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氷中花  作者: 綴奏
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物語の交錯 其ノ六

 ビクともしない水色の化け物に引きつけられた赤月は、鎌で切りつけられる前に火事場の馬鹿力を発揮。風を切るように、掴んでいたスノーボードを振り回し、液状の化け物の胴体を切り裂いたのだ。それにより脚に絡みついた触手は緩んでいる。が、ボトリと斜面に落ちた水色の上半身は起き上がろうと動き始めている。液体の塊にボードの底を叩きつけて弾き飛ばそうと、それを振り上げた赤月。しかし、すぐにボードを自分の足元に突き刺したかと思うと、その陰に隠れた。

「今度は何だよっ……!」

 恐る恐るボードの裏側を覗いた赤月時雨は、さらに顔色を悪くした。そこには複数本の黒いナイフが刺さっていたのだ。攻撃してきたと思われる方角にある林には、襲撃者らしき者を確認することはできない。それどころか、何か黒い繊維のようなものがうねりながらじっとしていた。赤月の視力を持ってしても、それが何であるのか正体を掴むことはできなかった上に、それがナイフを飛ばしてきたというのも信じられなかった。

 ――と、赤月は恐怖に凍りついたように硬直する。背後に気配を感じた彼は、本能で裏拳を放った。それは、既に再生していた液状の化け物の頭に直撃する。――が、化け物の頭から腕を引き抜けなくなったらしく、彼は顔を引きつらせた。

 液体の化け物に首を絞められた吸血鬼の脚は宙へ浮く。それだけでなく、無防備になった赤月の背中には再び放たれたナイフが複数本突き刺さる。首を絞められながらも呻き声を上げる吸血鬼は、必死に液状の化け物に蹴りを入れたものの、脚まで胴体に取り込まれてしまう。

 何者かに乱暴にナイフを引き抜かれた吸血鬼は、首を絞められたまま雪山を滑り降りることとなった。液状の化け物は、彼に息をすることも許さず、コースを流れるようにして高速で下っていく。スノーボードで滑り降りるよりも速く、幾数人ものボーダーを追い越し向かった先。それは、気を失った赤月時雨が眼を覚ました喫茶店の側だった。

 ログハウスのような喫茶店の入り口近くにある雪の塊に、物凄い勢いで叩きつけられた吸血鬼。たかが液体の塊とは思えないその力に、白眼を剥いた赤月は最期の抵抗を試みるも、四肢を雪に抑えつけられて傷口を作ることさえできない。

 しかし、ここから脱出しないわけにはいかなかった。またしてもあのナイフが、捕らえられた赤月の方へ向かって来ているのが見えたからだ。今度は一本だけだが、彼の頭を狙っているところからして、トドメを刺すのにはそれで十分だと考えているのだろう。

 それを認識した次の瞬間、吸血鬼が押し付けられている雪壁から六本の血柱が突き出す。それらは容赦なく液状の化け物の頭や身体を貫いた。――そう、血走らせた眼をしてナイフの接近に焦りながらも、彼はこの状況での唯一の攻撃手段を取ったのである。背中に受けたナイフの傷口から、血液を雪に流し込み一気に攻撃を仕掛けたのだ。

 が、最期の抵抗も虚しく、液状の化け物に痛覚はないらしい。どこを貫こうとも、その化け物は依然、吸血鬼の首を絞め付けている。そしてついに、ナイフが赤月の顔に辿り着く。


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