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氷中花  作者: 綴奏
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物語の交錯 其ノ五

「赤月くん……っ」

「変な奴が近づいてきてる! 嫌な予感しかしねーから、とりあえず下に向かうぞ!」

「つい先程、上に向かって何かを飛ばしましたよ、あの水色人間」

「それを先に言えっ!」

 女の子を抱いて雪山を滑り降りるという異常事態のため、赤月には後ろを振り返る余裕はない。が、涼氷からの情報提供により、彼の神経は聴覚に集中させることができた。自らの身体で風を切る音。そこに雑音が混ざるように微かに聞こえ始めた接近音。そして、それは彼の耳に聞こえたと思った瞬間に一気に速度を増したようにも思えた。しかし、赤月はそれを避ける素振りをみせはしない。というよりもむしろ、避けられるものではなかったのだ。

「くそっ! 何を狙ってやがるんだ!」

 彼の不安を仰ぐように、放たれた何かは吸血鬼たちを取り囲むかたちで雪の斜面に降り注ぐ。その時、吸血鬼の聴力が捉えたものは、水が弾けるような音。さらに、視力が捉えたのは、やはり水のようなものが弾け飛ぶ光景だった。

「涼氷っ! 後で迎えにくるから木の陰に隠れろ!」

 そういった赤月の身体は宙へ浮いており、涼氷を抱えるようにして雪山に背中を打ち付ける。たった数秒前、水のようなものが彼らの回りを取り囲んでいた。そして、弾けたかに思えた水の塊たちはその姿を変え、一瞬で輪の如くそれらが繋がり、赤月の足元を捕らえていたのだ。

 彼の判断は、正しかった。青髪の少女が何も言わずに従ったかと思った瞬間。

「なんなんだよ、クソっ!」

 吸血鬼が言いたいことはよくわかる。一体どこからどうやって俺の身体を引きずり回しているんだ――である。スノーボードごと雪山を逆走するように引きずられていく吸血鬼は必死に雪に指を食い込ませる。その努力も虚しく一方的に引きずられる赤月が自分の左脚に視線を送ると、水色の触手のようなものがそこに絡まっていた。十メートル程先に待ち構えている者は、やはり水色の人型。

「異能者か!?」

 近づけば近づくほど、それは異能者だとは思えない容姿をしていることがわかる。水色をしている時点でおかしい上に、本体自体も液体のようなものの塊に見えて仕方がないのだ。さらに悪いことに、触手と化している左腕とは反対側、つまりは、右腕に当たる部分が鎌のような形状に変化した。液体に見えるとはいえ、少なくとも形状を保つ能力があるだけでなく、実際に赤月の足首を硬く絞めつけることができている。恐らくはその形状の通り、あの鎌だって物体を切断することが可能なはずだ。

 引きずられながらもボードを回すようにして仰向けになった吸血鬼は、身体を丸めて素早くボードを取り外す。一応は血牙を飛ばしはしたものの、やはり液体相手では何の効果もなかった。

「いい加減にしやがれ!」


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