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氷中花  作者: 綴奏
109/165

物語の交錯 其ノ四

 

 ◆


「あ~~~~~~~~~」

 耳を塞ぐようにして雪の上を転がっていく少年は、思い切り恨みの込もった眼で青髪の少女を見上げた。吸血鬼の耳を扇風機の羽と勘違いした子供のような行為をされたのだから、当然と言えば当然かもしれない。

「何してんだよっ!」

「やっと見つけたと思ったら、心ここにあらずだからいけないのですよ」

 数分前、副大佐から解放され、リフトで山を登った赤月時雨は、雪山をひとりで彷徨う少女を見つけた。上は水色、下は白。実に女の子らしいウェアを身にまとった碧井涼氷。彼女曰く、発見されたのは吸血鬼側らしい。が、ボードも持たずに上級者コースの外れをひとりで歩いている彼女の方こそが迷子に思えて仕方がなかった。

「そういや、なんでこんなとこにいたんだよ」

「それは私と顔を合わせてすぐに訊くべきです。ですから、もう答えません」

 何も言い返せなくなった赤月は、ばつが悪そうな顔をして髪を掻き毟った。彼は迷子になっていた涼氷を見つけても、滑れもしない上級者コースに彼女がいた理由を問いはしなかったのだ。それどころか、ほとんど声も掛けずに、難しい顔をしたまま手を引いていくだけ。青髪の少女が機嫌を損ねるのも仕方がないだろう。

 ただ、吸血鬼には吸血鬼なりの理由があったらしい。だがしかし、彼は自分の感覚的な推測を口にすることは極力避けている。余計なことを口にしたくはないという気持ちももちろんあるが、彼の勘が当たることで変なレッテルを貼られたくないからだ。勘が当たったからといって、超能力者だとか預言者だなんて言われるわけがないのだから、一般的に考えれば「気にし過ぎ」と言われてしまうだろう。だが、それは一般的に、なのだ。彼は、一般的な扱いをされない血の悪魔と呼ばれた赤時雨。それ故に、彼が誰かと同じことをしても、誰かと同じ言葉を発しても、同じような解釈をされるとは限らない。今、吸血鬼が何に意識を奪われていたのかを口にするか否か悩んでいるのは、そういった事情からである。とはいうものの。

「赤月くん、何か言いたいことがあるなら言ってください」

 自分の心境を読み取られたことにギクリとした表情をした吸血鬼は、ゆっくりと彼女の方を振り返る。すると、青髪の少女は彼の逃げ場を完全に塞ぐ。

「そして、口にすべきか悩んでいることも、話してください」

「じゃあ訊くけど、なんでお前はボードを持っていないんだ?」

「真面目に答えないと怒りますよ」

 そんな彼女の言葉を気にもしない赤月は、無言でスノーボードにブーツを括り付けた。

「……けっこう真面目に言ってんだよ!」

 可愛らしい悲鳴を上げた……わけではないが、碧井涼氷は急な出来事に声を漏らした。それもそのはず、彼女はいきなり抱き上げられたのだ。しかも、そのまま上級者コースを吸血鬼に攫われるように滑り始めている。

「え……あ、赤月くん。何を考えて」

「そのセリフは後ろのやつに言えっ!」

 その言葉にハッとした青髪の少女は、彼の肩越しに真っ白なコースへと視線を送る。白銀の世界で目立つ、水色の何かが。人のようにも見える、水色の何かが。かなりの速度で滑るようにこちらへと向かって来ている。碧井涼氷を襲った黒布の仲間かと思ったが、どこかが違っていた。それどころか、もっと厄介な何かである気がしてならない。


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