魔王様と少女
「私が怖いか」 魔王様は時々そう尋ねる。
両目に当てた目隠しに触れ、私の様子を窺いながら酷くおびえた様子で問うのだ。
「そんな事ありませんよ」 私はいつもそうやって笑い、彼の両手を取る。
「この肌も……」 彼の肌は霊銀石のように白く、薄っすらと青みがかっている。
「この牙も」 口元からは、鋭い牙が交互に噛み合わさっている。
「この角も」 眉あたりから生えた触覚のような角は幾重にも鱗が重ねられている。
「この――瞳も」 分かっています。
目隠しを取ろうとした手をこちら側に引いた。 震えた掌を優しく握ると、彼は困ったように笑った。
手を触られる事が慣れていないのか、毎回触れるたびに彼の肩が小さく揺れる。 それがなんだがおかしくて、いつも笑ってしまう。
「そんな事、ありませんよ」 そうして彼は、何千何万回と繰り返される私の返答に満足をする。
これが初めて出会った時から変わらない、私と彼とのやり取りだ。
「目隠しは外さないのですか?」 いつもと違う事を尋ねてみた。
「……お前が怯えないようにしている」 やや間があって、そっぽを向かれる。
でもね、
本当は知っているの。
目隠しの奥には、人間に有るべき筈の瞳が無い事を。
本当は知っているの。
代わりに、掌に二対の瞳がある事を。
そして彼は知らない。
そんな貴方の事を、心から愛している事を。