7話
「さ、さて、そろそろ迷宮探索に向かうか!!」
ちょっと気恥ずかしくなりながら言い放つ。扉の方に向かうとネクは後ろを付いてくる。
階段を降りながら、ネクに話しかける。
「俺たちは2人とも前衛だから迷宮では後ろではなく横へ来てくれ。
あと、敵への攻撃を仕掛ける合図は全て出すが、それ以外は臨機応変に頼む」
ネクが頷く。骨なのに解かっているのだろうか。思ったより知能があるのかも知れない。
階段を降りきり、抜刀する。ネクもそれに続き抜刀。
「進むぞ」
俺が先頭を歩き、ネクは若干左後ろにつく。
少し進むと、骨が1体立っていた。
「ネクの実力が見たい。まずは1人で戦ってみてくれ」
ネクが頷き、走り出す。動きの遅い敵とは段違いの速さだ。下手したら俺よりも早い。
走りながら距離を詰め、そのまま銅の剣で斬りかかる。袈裟斬りの後すぐさま返す刀で斬り上げる。
仰け反った相手の骨を正面から蹴り転倒させる。銅の剣を逆手に持ち両手で倒れた骨に突き刺す。
(え?何これ凄い)
流れるような動作だった。攻撃力自体は低いのか手数は多かったが、どう見ても骨の動きではない。
生前は名のある剣士だったのだろうか。その割にスキルレベルは低かったが。
(使い魔補正とかそんなものあるのかね。後で先行している人たちに聞いてみよう)
仲間が強い事に越した事は無い。そのままネクと共に進む。
鉄の剣になったことで大抵の敵は一撃だったし、複数来てもネクと分散すれば難なく狩れた。
戦闘にかかる時間が大幅に短縮され、そのまま順調に2階へと降りて行った。
「2階に来ても見た目は全く変わらないな」
確か1階層は5階で区切られているんだったか。階段を降りきりそんな事を考える。
ネクと共に通路を進んでいく。2階は複数前提なのか、2~3体程の集団が多かった。
代わり映えのしない骨と犬を斬り殺しながら進む。もう戦闘に対する恐怖心は消えていた。
しばらく進むと、光の玉が前方に見える。
(ん?あれは……掲示板に書いてあったウィスプってやつか?)
西洋の文献なんかの話では死者の魂とも言われている。和風に言えば人魂だ。
(特に物理攻撃が効かないとか書いて無かったよな……)
飛んでいる高さは1m~2mの間程度。剣が届かない位置ではない。
目視出来る数は2体。1体ずつ受け持てば難しい相手ではないと判断し戦う事を決める。
「よし、挑むぞ。1体は頼む」
ネクに伝え、ゆっくり近づく。やっぱり初めての相手は怖いもの。
すると、前方から火を纏った棒が2本飛んでくる。かわせない程早くは無いので難なくかわす。
(これは魔法か?)
時速40kmくらいの速さだった。正面から直線で来るのであればかわす事は問題ない。
次の魔法を撃たれる前に距離を詰める。どうやら詠唱中は動き回らずに居るようだ。
こうなると格好の的である。剣を振り下ろし真ん中から斬る。一撃では倒れないようだ。
詠唱中は中断出来ないのか、中断されてまた詠唱を開始したのか知らないが、未だ動かない。
そのまま斬りつけると粒子になって消えた。
もう1体のネクの方を見ると丁度倒される所だった。粒子に変わっていく玉を周囲に警戒しながら眺める。
(装備もレベルも俺より下なのに強いな、ネク)
なにせこっちが2回斬っている間にそれ以上攻撃しなければならないはずの相手を同時間で倒している。
小心者の俺からしてみれば嫉妬を覚えるよりも心強いと思う気持ちが強いようだ。
そう考えている内に宝箱が出現する。
今まで罠は一度も出現した事は無い。その油断だろうか。何も気にせず箱を開けた。開けてしまった。
箱を開けた瞬間に石が飛んでくる。その石は俺の額を打った。
「いってぇぇぇぇぇ」
兜なんてない。そのまま軽く額が切れたようで血が出てくる。
ネクが隣で慌てている。そんな感情あったのか、ネク。と相手よりも冷静に考えてしまう。
怪我をした人よりも周りが慌てると本人は冷静になるというアレである。
とは言え、ズキズキ痛む。かなり痛い。そういえば回復薬があったな、とアイテムボックスから出す。
瓶に液体が入っている。飲めば良いのだろうか。
得体の知れない液体を飲むのには抵抗があったが、鑑定結果を信じ飲み干す。
すると瞬時に痛みが消え、血が止まる。
(何だこれ、回復薬凄いな)
流れた血はどうしようもないらしく、それを自分の服で拭う。
(そういえば着替えていないな。洗濯とかどうなるんだろうか)
ネクはこちらをチラチラ見ながらも周囲の警戒を止めない。優秀である。
箱に入っていた装備を取り出し、アイテムボックスに放り込む。
(罠に関して考えないとな。罠解除とか確かあったはず)
戻ったら罠関係のスキルを取ろうと思った。
(てか、罠があるなら箱開けられないじゃないか)
毎回この痛みを味わいながら箱を開けたいとは思わない。回復薬も残り4つしかないから無駄には出来ない。
「ネク、もう大丈夫だ。罠も出てきたからそろそろ一旦戻ろう」
ネクが頷く。130cm程度の身長の子供であれば頭も撫でたくなるが、骨なので遠慮したい。
階段まで戻り、転移の楔をそこに設置する。これで次に来た時はここから進められるはずだ。
(ただ、戻ってきた時は周囲に気をつけないとな)
戻ってきて奇襲をかけられるのは御免だ。どこが安全か使う内に見極めた方がいいだろう。
階段周辺で敵と戦った経験はないが、万が一と言う事もある。
「ネク、羽を使うぞ」
ネクが近寄ってくる。その動作は可愛らしく……はない。だって骨だし。
転移の羽を使い、瞬時に拠点へと戻る。
すぐ戻るのに回復薬を使ったのはもったいないのではないか?と思うかも知れない。
確かに戦闘はもうないし、時間が経てば血は止まる。多少の痛みに耐えればベッドで回復する事も出来るだろう。
だが、勘違いしないで欲しい。ベッドの治療は”瞬時に回復”ではなく”徐々に回復”である。
つまり痛みが長引くのだ。ゲームだとすぐに回復するし、現実ならベッドだけでは回復しないから意外と忘れがちな欠点である。
痛みが続くと逆に寝にくくなるし。
怪我は回復薬で治療したし、多少血を失った程度である。痛みはもはや全く無い。
「さて、鑑定するか」
大量の装備とアイテムをボックスから全て出す。1つ1つ出しても良いんだが、やっぱり気分的にはどさーと出したい。
1つ1つ鑑定し、銅製の物は処分。鉄製の物は残した。装備以外は全て保留とする。
戦利品
鉄のロングソードX3
鉄のスピアX2
鉄のロッドX2
鉄のナイフX2
鉄のアクスX1
鉄のハンマーX2
鉄のカイトシールドX1
鉄のバックラーX2
鉄の鎧X3
鉄のグリーヴX2
鉄の兜X2
回復薬X10
毒薬X2
解毒薬X4
毒薬あったよ……色による違いが全く解からない。間違えて飲んでしまう危険性はあった。
(毒と言えば、短剣や矢に付けて撃ったりするよな。残しておくか)
とは言えすぐに使うものでもない。アイテムボックスには入れずに部屋の片隅に置いておく。
ひんやりする石の部屋だし、そこまで温度が上がることもないだろう。
「ネク、お前は剣とハンマーどっちがいい?」
ネクに問い掛ける。すると、ハンマーの方を手に取った。剣よりも鎚の方が得意らしい。
カイトシールドは俺が使い、バックラーはネクに回す。
幸い防具は分けられたので一式ずつ装備する。
残りの装備はいつ使うか解からないので、部屋の片隅に置く。
(増えてきたら整頓とか大変そうだな)
掃除は余り得意ではない。困った時の使い魔頼りで良いかと考えを放棄する。
今回獲得できたDPは約700程度である。銅製の装備は、はした金にしかならないらしい。
大量に出るし仕方ない。
(さて、ネクのことを掲示板で聞いてみるか)
掲示板のスレッド一覧を見る。すると使い魔スレがあった。
開いてみる。
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【目指せ】使い魔スレ part2【ハーレム】
222 名前:ケモナー
コボルトハーレム素晴らしいです
223 名前:名無しさん
おい、ケモナー自重しろ
224 名前:名無しさん
あれって性別解かるものなのか?
225 名前:名無しさん
たしか、捕獲すると個体として存在するようになるんだっけか
捕まえてみないと解からないとか面倒な
226 名前:名無しさん
犬じゃなければすぐ解かりそうなんだけどな
227 名前:ケモナー
男はそのまま解放に決まっているだろ
228 名前:名無しさん
いや、女でも犬じゃ・・・なぁ・・・
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(へ、変態がおる……)
さすがにあの犬を性的に見るのは難しいと思う。
世界は広いな、と再確認する。
過去のログを見ても突然強くなったという話はない。
スケルトンは囮くらいにしか使えないという認識のようだ。
(質問しないとな)
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311 名前:名無しさん
すみません
質問いいですか?
312 名前:名無しさん
お?なんだい?
313 名前:名無しさん
スケルトンを使い魔にしたのですがとても強いんです
ログを拝見した所、スケルトンがそんな強いという話はないのですが
そんな事があるのでしょうか?
314 名前:名無しさん
HAHAHA、スケルトンが強い?
そんな馬鹿な
315 名前:ケモナー
もしかして、変異種じゃないか?
最初からスキルとか持っていなかったか?
316 名前:名無しさん
あ、剣術、鎚術、盾術、軽業を持っていました
317 名前:名無しさん
なにそれ羨ましい
318 名前:ケモナー
俺も20体テイムして1体そんなのが居た
今では頼れる相棒だ
319 名前:名無しさん
ありがとうございました
珍しい個体なんですね
大切にしたいと思います。
320 名前:名無しさん
確率でレアかー
大変そうだな
321 名前:名無しさん
20体に1体とかそれだけでも5%か
そもそも大量にテイムして従属させるのも面倒だから
狙ってやるのはきつそうだな
使い魔にしないとステ見れないし
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(なるほど、レア種か)
後ろで直立不動のネクを見る。こっちを見てニヤリとした表情をした気がした。
骨だからさっぱり解からんけど。