聖女と骨
フィールドが開放された。だが、俺たちは世界征服や名声には興味なかった。その為、何をしたいか仲間たちに聞いた所、結果は諸国漫遊であった。
早い話が色んな技術を知りたい、美味しい物を食べたいなど欲望に忠実だ。だが、支配欲を持つ仲間は1人もいなかった。俺もこれ以上使い魔を増やす気もなかったし、征服した所で管理が出来そうにもないからこの意見に賛同した。
まず種族に関してよく解からなかったので、リムと共に世界を回り情勢を調べた。その間に人間とエルフの間を取り持ったり、攻めて来る魔族に協力して人間の町を滅ぼしたりあったが、大したことではないだろう。
人間の王国の都市部に近付くにつれ人間至上主義があるそうだ。そうじゃない場所は皆で旅をし、そういう所はリムやタリス、エンと回った。
そしてこれは途中で立ち寄ったある王国の王都での話である。
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「主っ。大きい教会があるのじゃ!!」
リムが嬉しそうに大きな建物を見て言う。
「教会なんてどこにもあったでしょー。それより何か食べ物探しましょ」
タリスが相変わらずの食欲を示す。平常運転だ。俺とエンは仕方ないなーという呆れの表情をしながら一緒に露店を回る。
そしてある程度満足したのかタリスがやっと黙った。リムは教会が気になるのかそっちをずっと気にしていた。
「ご主人様。教会に行きましょう。面白い話を聞けるかもしれませんし」
エンがリムを助けるように言う。教会なんて今まで腐るほど見た気がするが……。
「うむ、主。教会の歴史は素晴らしいものじゃぞ?」
リムがそう言う。教会の歴史にはヴァンパイア討伐もあった気がするが良いのだろうか。
「なら行くか。王都なら中も綺麗かも知れないしな」
俺たちが見た教会はどこも寂れていた。この世界の宗教はそこまで大きなものではないらしい。皆逞しいものだ。
俺たちが4人で教会まで歩いていると1体の銅像を発見した。少し錆びてはいるがしっかりと手入れがされている、そんな印象だ。
(女の子の銅像?見た感じ10歳くらいだよな。何でこんな子供に武器持たせているんだよ)
この世界を結構旅して回ったが、戦争があった所でも低くて14,5歳だった。昔はもっと酷かったのだろうか。そう思いながら銅像を見ていると1人の神官が近寄ってきた。
「この聖女様の銅像にご興味が?」
そんな事を聞いてくる。さすがに10歳くらいは俺の守備範囲ではない。よって興味はない。
「そうね。この聖女の話を聞かせてもらってもいいかしら?」
タリスがそう言った。いつもは食べ物以外に対して興味を持っていなかったのにどうしたのだろうか。リムとエンも不思議そうにしている。
「この聖女様は300年ほど前にこの街を命を賭けて守ってくださったのですよ。その時に魔王に大きな傷を与え、勇者が討伐する為の時間を稼いだと言われています」
そんな事を言ってくる。10歳くらいにしか見えないのだが……。聖女スゲー。ちなみに、今は既に魔王は復活していて頑張って世界征服を目指していたりする。
「へーその聖女って教会から嫌われていたんじゃないの?」
タリスがそんな事を言ってくる。まるでその人の事を知っているかのようだ。迷宮に篭っていたはずなのにどういうことだろうか。
「え?あ、はい。よくご存知ですね。当時生き残った聖女様のお仲間が必死になって認めさせたそうです」
神官は凄い冷や汗をかいている。もしかしたら教会の恥部に当たる所だったのかも知れない。俺はむしろそっちを聞いてみたい。
「ふーん、そっか。ありがとうね」
タリスは礼を言うと切り上げる。そして俺たちは宿を取り、その部屋から拠点へと戻った。
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その夜、ネクとタリスが部屋に篭って何かをしていた。さすがにプライベートなので覗いたりはしないが、2人だけになるとは珍しい。
昼間もタリスらしくなかったし、何かあの教会にあるのだろうか。
(まぁ、何かあるなら明日言ってくるだろ)
そして俺は眠った。
翌日、王都観光を続けようと準備をしているとタリスがやってきた。
「マスター、今日はネクも連れて行ってくれない?」
タリスがそんな事を言ってくる。アンデッドを街中に入れるのは危険だと思うが……。その考えを読んだのか、マスクをアイテムボックスから取り出す。
「全身に鎧を着込んでマスクを付ければアンデッドと解からないんじゃない?ローブを被れば完璧よ」
確かにそれだけ固めれば見た目だけでは解からないだろう。だが、そこまでして王都に入り込む理由とはなんだろうか。
「それはいいんだが、何で王都に?今までそんな事なかったよな」
そう聞くと、確信がないから今はちょっと、と言葉を濁された。
(こいつらならそんなに危険な事もしないだろ。たまにはいいか)
そう思い承諾する。ネクもタリスもとても喜んでいた。ネクが喜ぶとは珍しい事もあるもんだ。そして俺たちは拠点から出て宿へ出現する。
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宿の食堂で次にどこを観光するか話し合う。
「昨日の教会に行きたいのだけど、いいかしら?」
タリスが遠慮がちに言ってくる。珍しい。
「ん?いいけど……」
今朝のやり取りの続きなんだろうか。今日はタリスの意見に乗ってみよう。1週間くらい観光しててもいいし、急いで回る必要もない。
「うむ。今日は教会の中まで見て見たいぞ」
「はい、あれほど立派な建物なら中は素晴らしいのでしょうね」
リムとエンも乗って来る。異論はないようだ。
「それじゃ昨日の教会まで行こうか」
俺たちは宿から出ると教会へ向かって歩き出した。
教会の前まで行くと例の少女の銅像がある。ネクとタリスはそれをじっと見ている。2人はその銅像に関して何か知っているのだろうか。邪魔をするほど野暮ではない。
俺は教会の周辺にある花壇を見ていた。見たいのは花ではなく薬草だ。こういう教会の近くにはその土地の薬草があったりする。王都だけあって種類が多すぎるほどあった。珍しい。
リムとエンは教会を外から眺めて騒がしくはしゃいでいる。主にリムだが。ネクとタリスは満足したようだったので、教会の中へ向かう。
中を見るとそこまで凄くはなかった。見た目ではなく、あくまで利用する事を前提に考えられた建物だった。無駄がない。ネクの部屋をそのまま大きくした感じだ。
特に見る以外は何もないので俺は長椅子に座ってボーっと周囲を見ている。リムとエンは書物があるとか聞いたらしく、案内されて行った。ネクとタリスはいつの間にかどこかへ行っていた。1人でちょっと寂しい。
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*タリス視点*
あたしたちが教会に入るとネクが何かに気が付いた。何だろう?
ネクはあたしの服の袖を引っ張るとどこかへ誘導していく。
(この先って立ち入り禁止とかありそうよね)
勝手に入って良いのだろうか。ネクは一切迷わず堂々と進んでいく。まるで拠点を歩いている時のようだった。
しばらく歩いているとある部屋の前で立ち止まった。この部屋に何かあるのだろうか。部屋の扉を見ていると昨日の神官が慌てて寄って来る。見つかってしまったようだ。
「お二方、こんな所で何をしていらっしゃるのでしょうか。ここは立ち入り禁止ですよ」
そう言ってくる。やはり立ち入り禁止だったらしい。
「ごめんなさい。だけど、1つだけ聞かせて貰ってもいいかしら、この部屋って何なの?」
相手の承諾を得ずに一気に聞く。この人の良い神官ならきっと答えてくれるはず。
「ここですか?生前聖女様が暮らしていたという部屋ですが……当時のお仲間が結界で封印なされたとかで今は誰にも解けないのです」
そんな事を言ってくる。300年近くも続く結界なんて聞いたことすらない。
(あたしも結界を使えるけどもって8時間くらい。そう考えるとどれだけ魔力をつぎ込んだのかしらね)
そんな事を考えているとネクが片手を扉に向け、何か詠唱をしていた。何をしているのだろうか。詠唱が終了すると何かが割れる音が聞こえた。これは結界が解除された音に似ている。
ネクはそんなあたしの考えなんて関係ないと言わんばかりに扉のドアノブに触れ回して部屋に入る。300年の結界はこうしてネクの手によって簡単に崩れ去った。
神官の人が後ろで呆然としている。その姿をほっといて部屋に入る。部屋の中はとても質素だった。だけどとても生活感が漂う普通の部屋だ。300年も放って置いたのに埃すらなかった。
ネクは何か懐かしそうに部屋を見渡す。そして机の上にある手紙らしきものを見つける。ネクはその手紙を取り、宛名を見るととても驚いていた。そして封筒を開け中身を取り出し読み出す。
さすがにあたしでも盗み見るほど野暮ではない。その光景をのんびり見ている。ネクは読み終えると今までに見たことのないような感情を振り撒いている。ネクとは結構長く一緒に居るけど初めて見た。そんな感情だった。
ネクは大切そうに手紙を仕舞い、部屋から出て行く。あたしもそれに倣って教会の外へ向かう。外に出るとネクが空を見上げている。その視線の先に何を想い、何が映っているのだろうか。
ネクが前世で死んだ時、その死体は魔王が持ち去りました。
そこからどうやってアンデッドになり、迷宮を彷徨うようになったのか、その話は明らかにはされません。
結界術に関してはネクが生前仲間と一緒にやっていた研究でした。ネクの生きている時には完成していませんでしたが、仲間が完成させたようですね。なので解除の方法を知っていました。




