64話
こうしている間に1年の時間が経過していた。その間にレベルは160~180まで上がっている。一気に上げ過ぎだろうと思うかもしれない。同意しよう上げ過ぎた。
以前言った通り俺はゲームクリア前にひたすら作業を繰り返しカンストまで上げてからクリアする派だ。ラスボスが弱いとかぶっちゃけどうでもいい。やり込むのが好きなんだ。
その後にクリア後の要素があったりして、それが簡単になってちょっと悔しくなったりする事もよくあった。だが、それでもクリア前にやり込むのは止めない。
そういう精神で延々とレベル上げをやっていた訳だが、まだカンストには至っていない。正直もう同じ場所を繰り返しループするのにはもう飽きた。クリアしようと思う。
現状で迷宮をクリアした人は2000名くらいいる。これが多いのか少ないのかは解からない。そもそも何人ここに居るのかすら解からないのである。進捗を見る限り1万人以上は居そうな感じではあるが……。
「さて、そろそろ迷宮の踏破をしようと思う。今日はボス戦の様子見だが、クリア出来そうならしてしまうつもりだ。ボスが解からないから行き当たりばったりになるかもしれない。皆よろしく頼む」
いつもの朝のミーティング時に宣言する。皆やっとか、とホッとした顔をする。そんなにレベル上げは嫌だったのだろうか。
「メンバーはボス戦の万全を期して前衛は俺、ネク、エン、後衛はクウ、リム、パステルで行こうと思う。この構成ならどんな相手でも対処しやすいと思われる」
メイン盾1、サブ盾も出来るアタッカー1、物理アタッカー1、回復1、魔法アタッカー1、サポート兼魔法アタッカー1である。
「ティアとタリス、コクは最終ボスに連れて行けないのは申し訳ないと思う。今回は様子見だ。堅実な戦闘で色々なパターンを調べたい」
そこまで伝えると仲間たちは頷く。理解をしてくれたようだ。
「では、ラスボスへ行こう。最終決戦だ」
皆は”おー”と声を出して賛同する。俺たちはラストダンジョンのボス部屋前に移動し、ボス部屋の扉を開ける。
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部屋に入り、探知スキルを使う。部屋の中心に1体だけモンスターが居た。名前はゲートキーパー。先の世界へ続く門を守る門番らしい。
俺たちは抜刀し、ゆっくり確実に部屋の中心へと向かう。そこには1人の騎士が佇んでいた。全長2m程度の背は高い人と大差ないレベルだ。その騎士は俺たちを確認するとゆっくり背負っていた両手剣を抜き放ち構える。
(小型のモンスター1人では炎王の鎚は封じられたな……)
騎士はその場で突然剣を振る。すると何かがこちらへ飛んできた。前衛の3人は全員盾を構えその衝撃に備える。盾にその何かが当たるととてつもない重さがかかる。
(守護の盾スキルがあってこの重さか。レベル差はないと思ったほうがいいな)
あの変な所で意地の悪い管理人である。レベルをこちらに合わせてきても何も不思議はない。
「行くぞ!」
俺は合図を出す。エンは正面から、俺とネクは左右から騎士の元へ走る。エンは盾を構え騎士の両手剣を防ぐ、その間に俺とネクは騎士に向けて一撃を放つ。だが、何か膜の様なものに阻まれる。
(これは……ヴァーチャーズ戦でもあった防御か。だが、攻撃していればその内突破できる)
俺とネクはひたすらその膜を突破する為に攻撃を繰り返す。リムとパステルの魔法も常時飛んでくる。エンとクウが居るとターゲットは安定するのでたまに来る攻撃に気をつければ済むから楽だ。
そうして少し余裕のある戦闘をしていると突然それが現れた。全長は2mほど、ライオンの頭とヤギの頭。そして尻尾に蛇の体を持つ四速歩行のモンスター、キメラだ。
「キメラを先に倒す、エンとクウはそのまま騎士を抑えろ。それ以外のメンバーは全員でキメラを叩くぞ」
そう指示を出すとすぐに対応し始める。俺は走ってくるキメラのライオンの頭を盾で殴る。少し怯んだ所に今度は剣を突き入れる。皮膚は硬いようで剣先の少ししか刺さらない。ネクは後ろから蛇に向かって鎚を振るっている。
バックステップで下がると後衛とキメラの間に陣取る。走るモンスターだ。邪魔をしないと後衛に向かって一気に詰め寄るだろう。突進してくるが俺は1歩も下がらず受け流しもしない。ここから先には絶対に通さない。その意気込みでやっている。
ヤギが何か魔法の詠唱をしている。どうやらあの頭は別々に思考を持って行動しているようだ。
「ネク!ヤギの頭を狙え。魔法を使われると危険だ」
尻尾の蛇を狙っていたネクに指示を出す。と同時に魔法が完成したのか俺の身が炎に包まれる。熱い、痛い、まるで皮膚が焼けるというより溶ける様だ。だが、俺は膝を付かない。
魔法はすぐに止まった。どうやらパステルが妨害する魔法を使ったようだ。同時に回復魔法が飛んでくる。回復薬を飲む余裕はない。ネクはキメラの背によじ登り直接ヤギの頭を鎚で叩く。迫ってくる蛇の頭は盾で受け流す。不安定な背の上で凄く器用だ。
リムも魔法の対象をヤギに移したらしく、ヤギの頭が燃えている。これなら魔法を使う余裕はないだろう。俺は盾を構え絶対に通さないようにキメラの進路を妨害した。
そうして攻撃しているうちにネクがヤギの頭を遂に潰した。脳髄が飛び散る眺めはグロいが、これで魔法の脅威は消えた。そのままネクは飛び降り尻尾の蛇へ攻撃対象を戻す。
キメラは1つの頭が潰された痛みでのた打ち回る。チャンスとばかりにライオンの両目に剣を突き入れ潰す。どうやら目の辺りは柔らかいようで簡単に刃が通る。
ならばやる事は1つだ。そのまま剣を深く差し込み脳まで突き入れる。ライオンの顔全体から血が吹き出る。どうやらネクも蛇を叩き潰したようだ。
これで倒れたようでキメラが消滅するが、警戒は解かない。勝って兜の緒を締めろと言う言葉は余りに有名である。エンの方向を見るとどうやらしっかりと耐えてくれていたようだ。所々治療しきれない傷が目立つがまだ健在だ。
俺とネクはそのままスタミナポーションと回復薬を飲み参戦する。膜を破る作業に戻る。騎士もただ何も出来ずに立っているわけではない。突然周囲に回転するように剣を回す。咄嗟の行動に俺とネクは盾を構える事が出来ずに食らってしまった。
その衝撃に俺たちは吹き飛ばされるが、死んだわけではない。傷を見ると見事にオリハルコンの鎧は切り裂かれ血が出ていた。
(コクの鎧じゃなかったら死んでたかもな)
この場に居ない鍛冶師に感謝をすると回復薬を飲み少しでも治療する。そして戦線に復帰する。回復魔法も飛んでくるので痛みは殆どない。あったとしてもこのハイになった状態では気にもしないだろう。
そして膜を攻撃し続ける。再度同様の攻撃があったが、それはもう見切ったとばかりに全員防ぐ。盾にはかなりの衝撃が走るが防げないほどではない。
遂に刃が膜を貫通する。ヴァーチャーズにやったのと同じように兜と鎧の間に剣を突き入れそのまま横に剣を薙ぐ。すると騎士の兜が取れて飛ぶ。だが騎士の頭の場所をみると……。
(あれ?中に誰もいませんよ?)
どうやらそういうモンスターらしい。リビングアーマーとか昔ゲームで見た覚えがある。その系統なのだろう。また戦闘は終わらない。
(どうすればこの騎士を倒せるんだ……)
首を飛ばしても攻撃の手は一切止まず、同様に続けている。
(そうか!以前のように核となる部分があるかもしれない)
「ネク!核を探せ」
それだけ言うとハッとしてすぐに気が付く。アンデッドなだけに核の存在の重要性を知っているのかもしれない。防御の膜は既にないので鎧の隙間からどんどん刃を突き入れて見るが全く反応がない。核はどこにあるのだろうか。
ネクが自分の盾に鎚をぶつける。何かの合図だろうか。もしかしたら核の場所が解かったのかもしれない。
(それでも攻撃をしないという事はそのままでは狙えない場所……心臓か!!)
胸の部分は隙間も剣も通らない。頭がないから上からは刺し入れることは出来るかもしれない。だが、剣を振り回している相手によじ登るのは危険だ。
(上から?空を飛ぶ?風の魔法とタリスの加護で……)
完全な思いつきだ。出来るかどうかすら解からない。だが試してみようと思う。俺は自分の周囲に古代魔法で風を纏う。タリスの加護の影響かかなり強い。そのまま上空に飛び上がる。
(うおおおおお、高すぎたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)
2mどころではない。10m以上の高さに飛び上がってしまった。とは言え騎士の真上だ。俺は盾を投げ捨て剣を構える。
(このまま上から串刺しにしてやる)
そう思って落下をし始める。騎士は気が付いたのか剣を上に構える。
(うお、やべぇ。このままじゃこっちが串刺しにされる!!)
相変わらずの後先を考えない行動である。仲間もそれを知ってたのかネクは騎士の体によじ登ると剣に体当たりをして剣にしがみ付く。エンはその状態から剣の根元を斧で殴り剣にこもる力を分散させる。上に構えていた剣はその力を失い横に倒れていく。
そして俺は騎士の鎧の中に剣と共に頭もずっぽり入り込む。傍から見たら凄く間抜けな光景だろう。何せ鎧から体が逆さに直立して出ている感じである。仲間たちはこれからどうしていいか悩んでいるようだ。だが幸いにも核は貫通させた。
騎士はそのまま消滅していく。俺は顔面から地面に激突した。
(いてぇ……)
兜があるので直接地面に当たった訳ではないのが救いだ。仲間たちが駆け寄ってくる。メッセージが来るまでは何が起こるか解からない。なので警戒は解かないでおく。
*おめでとうございます。貴方は迷宮を全てクリアしました。直通ゲートを開放し、次の世界に向かう扉が出現します。*
メッセージが流れる。どうやら終了のようだ。仲間たちに終わったから警戒を解くように告げる。皆疲れているだろうが、喜び笑顔になる。
「喜ぶのは帰って待機メンバーと合流してからにしよう。今日は宴会だ」
そう伝え投げた盾を回収し直通ゲートへ向かう。勝利の凱旋だ。
ラスボスはこれで終了です。次はエピローグになります。
膜を破る為に剣で突き入れるとか何かエロいですね。
Q.上空から剣を投げて鎧の中に入れればよかったのではないですか?
A.体ごと突撃した方が恰好良いからこっちを選びました。




