62話
これはある日の夜の出来事である。
その日、俺はいつもの日課である探索を終えていつも通りベッドに入ったんだ。そして夜中、トイレに目が覚めたんだ。今考えるとトイレに行かずにそのまま寝てしまえばあんな惨事に出くわす事はなかった、そう思う。
とにかく俺は目が覚めトイレへと向かったんだ。用を足したその帰り、何やら訓練場の方から苦しそうな声が聞こえるじゃないか。誰かが訓練場で怪我でもして苦しんでいるんじゃないか、と慌てて向かったんだ。
近寄るに連れて何かが肌を叩く音、そして別の人物の叫び声が聞こえる。怖かった。その場から逃げ出そうと思った。だが俺は好奇心を優先してしまったんだ。俺は自分から引き返す最後のチャンスを捨ててしまったんだ。
恐る恐る訓練場の扉を少し開く。そこで俺の視界に入ってきた光景は!!
「アーッハッハッハ、もっと啼け○○。もっと×××しなさい!」
天使のような翼を持った人が四つん這いの人を罵倒しながら鞭で打っていた。最初、何をしているのかさっぱり解からなかった。解かりたくもなかった。俺はどうしてその場からすぐに逃げ出さなかったのだろうか。
そのまま呆然としてその光景をずっと見ている。危険だ。見つかったら俺もあの奇怪な儀式に参加させられてしまうかもしれない。足が震える。とても恐ろしい。だが同時に俺は激しく興奮をしていた。
見ていると気配を察したのか天使がこちらへとやってくる。見つかってしまった。もう逃げられない。
「あら、マスター?こんな夜更けにどうしたのかしら?」
いつも接しているはずだった天使はいつもと違う口調で話しかけてくる。あの優しい天使はどこへ行ってしまったのだろうか。ともかく無言で居るわけには行かない。
「あ、ああ。ちょっとトイレに起きたんだけど、声が聞こえて、どうしたんだろうと思ってね」
俺は激しく動揺しながら答える。天使はニヤリと口を歪め言ってくる。
「マスターも参加する?そうすればもっと愉しめそうなんだけどね?」
天使が悪魔のような誘惑をしてくる。とても興奮する。俺はその誘いを断れるほど精神が強くは無かった。
「そうだな……。参加させて貰おう」
俺は完全に誘惑に乗り、返事をしてしまう。天使は俺に馬上鞭のような短い鞭を渡してくる。俺はどうやって使うか知っている。そして四つん這いになっている人に向かい、鞭を振るう為に腕を振り上げる。
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「という夢を見たんだ」
俺はいつも通りコタツに入って寛ぎながら言う。
「またそれは変な夢を見たわねー」
タリスが蜜柑を食べながら答える。
「まぁ、夢だし、クウがそんな事をするわけないのにな」
普段のクウを見る限り、人を自分から好んで傷つけようなんて思いそうに無い。きっと見間違いだ。夢のはずだ。
「さてと、俺はそろそろ寝るよ」
俺はコタツから立ち上がるとそれだけ言って寝室へと向かう。
「あら?随分と早く寝るのね。疲れているの?」
タリスが言ってくる。どうしてだろうか、意識はしていなかったが、いつもより早い気がする。
「何だか寝足りなくてね。少し疲れているみたいだ」
疲労が取れない。毎日の夜の格闘のせいかもしれないので今日は休んで寝ようと思う。
「そう、お大事にね」
タリスからの声を背に受け、俺は眠る。夜の儀式の為に。
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これはある日の探索中の出来事である。
「数が多い!ネク、遊撃に回ってくれ、エンはそのまま正面を頼む」
ラスダンでのレベル上げ中に大量の敵がいる部屋に入り込んでしまった。入る前は敵は3体しか確認されなかったが、入った直後それが100体を越える数に膨れ上がった。
ネクにはいつも苦労をかける。そのまま炎王の鎚に持ち変えると突撃していった。俺とエンは後衛を護る為に盾を構えて正面へと出る。今回は回復役であるクウが居ない為長期戦は辛い。
俺とエンは攻撃を防ぎ、後衛の範囲魔法を待つ。こちらから攻撃に出てしまうと護りを突破されてしまうだろう。それ程の数であった。中にはオーガやミノタウロスまで混ざっているので始末に負えない。
後衛組の範囲魔法が炸裂し、前線に居たオークやゴブリンなどが消滅する。敵の半数が消滅した事で、ホッと気を抜いてしまう。戦場ではそれが命取りとなることを忘れていた。
ミノタウロスが粒子が飛び交い消滅している光景を突き破って突進してくる。そして巨大な斧を俺に向けて振り下ろしてきた。俺は回避を試みるものの既に遅く頭から真っ二つになるのを防げた程度だ。左肩から切られ切断されてしまう。
「!!」
言葉に出来ない痛みが走る。エンは即座に俺の前に進み出るとミノタウロスと対峙する。俺はパステルに連れられ後衛組の元へと下げられる。タリスとパステルが回復魔法を使い、俺は剣を投げ捨て回復薬を飲む。
「すまん、助かった」
左腕を失った状態だが、止血は成功し今すぐ死ぬと言う事はなくなった。だが、傷が開いても危険だ。このまま戦闘を続けるのは無理だろう。後ろで大人しく仲間たちの戦闘風景をタリスに魔力の譲渡をしながら見る。
どうやら雑魚は消滅し、後はミノタウロスが3体、ドラゴンが2体のようだ。小型とはいえドラゴン2体を同時に相手をしているネクが凄い。どうしたらあんなに強くなるのだろうか。
エンはミノタウロス3体を前にしても全く引かずに防御をしている。どうやら現状はこう着状態に陥ってしまったようだ。足手まといになってしまった悔しさを噛み締める。パステルは俺の回復を維持、リムとタリスはミノタウロスに向けて魔法を使っているがどうにもすぐに倒せる雰囲気が無い。
(参ったな、先に俺の体力が尽きそうだ)
血は止まっても痛みで脂汗が止まらない。このままでは先は長くないだろう。それを把握したのか、エンは持っていた斧と盾を投げ捨てる。
(何をする気だ?)
そして自分の体を半透明へと変えた。”精霊化”。存在だけは聞いていた。上位精霊である種族は全員持っているらしい。精神体となることで一切の物理攻撃、防御を遮断すると言われている。
ミノタウロスはエンを攻撃するが全てすり抜ける。このままではこちらに向かってくると思いきや、エンが魔法で牽制し進ませない。詠唱を一切せずに中位の魔法を発動させるとそれを維持し俺たちへの炎の壁を作り敵と分かつ。
無詠唱の魔法を連発して使い、一切の物理攻撃を通さない。そうやってミノタウロスを殲滅していく姿はまるで小型の要塞の様だった。
ネクもドラゴン2体を倒して戻ってくる。俺たちはそのまま拠点へと帰還する。
「ネク、エンありがとう。途中で退場してしまってすまなかった」
ベッドに寝転がりながら2人に礼を言う。ネクはいつものように気にすんなという感情を向けてくる。何と言うか頭が上がらない。エンはこちらの怪我を心配そうに見てくる。
「ご主人様、怪我は大丈夫ですか?」
エンが心配しながら聞いてくる。
「ああ、このまま寝ていれば回復できると思う。相変わらず凄いベッドだよな」
コクがベッドの機能を解明して見せると以前言っていたのを思い出す、どうなったのだろうか。
「しかし、あの精霊化って凄いよな。詠唱をしないで魔法を使える上に攻撃は素通りだし」
あの光景を思い出し、称賛する。エンは困ったような顔をこちらに向けはにかむ。
「そう便利なスキルでもないんですよ。1週間に1度しか使えませんし、最初から最後まで使える程効果時間も長くありません」
どうやら万能なスキルではないようだ。残念に思うが、切り札として十分利用価値はあるだろう。
「そうか、それでもいいスキルだな。使い所は任せる。無理が無い程度に有効活用して欲しい」
今回のようにピンチになった時に使うと便利だろう。ピンチになった原因が俺で申し訳無いが。
「はい、その様にさせて頂きます。あ、私もベッドにご添い寝させて頂きますね」
そう言ってベッドに入って来て俺の右腕に抱きつく。怪我をしていても容赦はないようだ。さり気なくネクも入ってきていたりする。女が隣に寝ているのに手を出せないのは残念だが、怪我の治療の為に今は何もせず眠ろう。腕がじゅくじゅく鳴っていて何か怖いし。
まぁ、その主人公も変態ですから。
詳しく書くと倫理に違反する事になるので割合します。




