58話
それから数日間、訓練所で鍛錬したり4、5階層で狩りをしながらスキルを上げた。このままではラスダンでは有効に使えないと判断したからだ。噂ではラスダンは雑魚からボスまで今までと桁違いに強いと言われている。極力仲間を死なせずに戦う為に準備はしておいた方がいいだろう。
俺たちはある程度までスキルを上げ、ラスダンに突入してみてもいいかな、というくらいまではスキルが上がった。そこでミーティングを開始する。
「モンスターに関して言えることはない。前情報なしの戦いになる。ダンジョンの形は先行して偵察したが、1階層の様な石造りの迷宮だった。だが、大部屋みたいなのもあったので大型のモンスターがいる可能性はあるから気をつけて欲しい。ラスダンは雑魚の出るエリアとボスの出るエリアの2階しかない。1階しか探索がない分、多様なモンスターが襲ってくる可能性がある。極力注意して進もう」
ここで一旦区切る。炎王の鎚が使えないのが残念なのだろうか、ネクが少ししょんぼりしている。
「では、探索メンバーを伝える。前衛は俺、ネク、ティア。後衛はパステル、リム、タリスで向かう。他のメンバーはコクの生産のサポートに回ってくれ」
クウは回復特化だ。回復魔法なら他のメンバーも使えるし、どんな敵が居るか解からないので火力が欲しい。エンは魔法攻撃する相手が居たら危険なので除外。コクはいつも通り生産してもらう。
「ミーティングはこれで終わりだ。何が起こるか解からない迷宮だから慎重に進むぞ」
そう伝え、水の引いた6階層のボス部屋へ移動し、そのまま階段を降りていく。先には懐かしい1階層のような迷路が広がっていた。マッピングがあるから迷う事はない。
「探知スキルが使える者は常に警戒を頼む。邪魔が入っているのか思ったより索敵範囲が広くないようだ」
以前偵察した時もそうだったが、今までは階の半分くらいまで敵の位置を把握できたのに今はほぼ周囲しか出来ない。探知のスキルレベルは下がっていないのでこの階はそういうモノなのだろう。最後を飾る迷宮として徹底していると思う。
俺たちは陣形を組むと探索を始める。最初は適当な方向だ。探索の方向に明確な目的がある訳ではない。しばらく進むと扉があった。凄く嫌な予感がする。探知スキルを使うと中にはオーガX2、オーガメイジX1とあった。
「……中にオーガが居る。前衛2と魔法1だ。前衛は俺とネクが行こう。他の皆はオーガメイジを速攻で倒してくれ」
魔法は厄介だ。ネクがそれに当たる方がダメージは少ないかもしれないが、ティアでは前衛を抑えられない。そうなると俺とネクが必然的に前衛を抑える役目になる。
「いくぞ」
それだけ言うと扉を開ける。そして俺とネクとティアは一気に飛び出し、各相手の前まで躍り出る。不意を撃たれたオーガは無防備な状態で斬られる。すぐに敵襲だと把握したようで、戦闘態勢に移る。
(やはりオーガは体力が多いな。この程度の攻撃では大したダメージにならない)
ネクの方も同様のようだ。ティアの方を見るとオーガメイジが可哀想になるくらいのフルボッコを受けていた。速度の速いアタッカーX1と火力特化の魔法X3での集中攻撃だ。息を付く間もないほどの感覚で剣と魔法を打ち込まれていた。
あの様子ならすぐに倒せるだろうと思い、自分の前の相手に専念する。オーガは体力と攻撃力は高いが、速度はそれ程でもない。以前嫌と言うほど殴りあった関係でもあり、その手口は完全に読めていた。
確実に攻撃を受け流し、斬りつける。あの頃の俺とは違う。オーガの巨大な棍棒も盾で受け流せるようになった。どうやら、そうしている間にオーガメイジもネクが相手をしていたオーガも倒されたようだ。アタッカー怖いです。
そのままターゲットを受けながら残ったオーガも倒した。出現した箱を開け戦利品をアイテムボックスへと放り込む。その間仲間たちの話し声が聞こえた。
「楽勝だったわねー以前戦った時は大変だったのよね」
「ん、思ったより楽だった」
タリスとティアの様だ。タリスは1階層で長時間かけて戦った過去と比べているのだろう。あれに比べればかなり楽ではあると思う。だが、俺は油断できないと思った。
今回はこちらの方が倍の人数だった。これが6対6であった場合、前衛のオーガを押さえ込む間に、オーガメイジの魔法も発動しただろう。そうなると被害も時間もかかったと思われる。今回がたまたま楽だった、そう考える事にする。
「さぁ、探索を開始しようか」
それだけ言うと仲間を引き連れ探索を始める。通路を歩いていると探知にスケルトン、スケルトンメイジ、スケルトンアーチャーが引っかかる。どうやら次は骨パーティらしい。1体1体は弱いと思うが数が多い。俺とネクが通路を塞いでその間に範囲魔法を撃ってもらう事にする。ティアは防御をすり抜けてきた矢を剣で切り落とす役目だ。
結果だけ言うと敵が哀れになる程だった。相手は何も出来ずに全滅した。哀れ。気を取り直して探索を続ける。通路でスケルトン系、ゴブリン系、オーク系に出逢ったが特に問題なく処理できた。どうやら危険なのは部屋らしい。部屋は後回しにし、通路のマップを埋めていく。部屋の前を通ると様々なモンスターが探知に引っかかっていた。オーガ、大蜘蛛、死神などのような今まで出ていたボスやドラゴンやミノタウロスまでいる。
まるで、ファンタジーのモンスターの展示場のようだった。雑魚連中を葬りながら通路の探索を続ける。大体通路は埋まったが、階段は見当たらなかった。どうやら部屋にあるらしい。
丁度良い時間にもなったので、俺たちは拠点へと戻る。楔は1階だから要らないだろうと設置はしない。
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拠点に戻ると特に変わった様子はなかった。待機メンバーはコクの生産の手伝いをしているのだろう。そのままパーティを解散すると、俺はパソコンへと向かい戦利品の処理を始める。
武具はウーツ鋼製品だった。どうやらオリハルコンは生産限定らしい。上げていて良かったと、腰に未だに佩いたままの片手剣を見ながら思う。武具はそのまま売却し、次はアイテムだ。
薬品類はずっと変わらずの回復薬、解毒薬、たまに毒薬という構成だ。未だに毒薬を使った事がないので大量に溜まっていると思う。
(毒をナイフに付けて投擲も悪くはなさそうだな。自分で手を切って毒にかかりそうではあるけど)
投げる寸前に付けられる様にそのうち調整しようと思いながら薬品は終了する。次は良く解からない道具類だ。札のような物を鑑定していくと転職用の証が殆どだ。その中で変なものを見つける。
(解呪の札?また新しいのが出たな)
効果を調べると呪いを解くとあった。今まで食らった呪いらしきものはドラゴンのアレだろう。これを揃えて戦えばドラゴンゾンビを倒せるかもしれない。集めておこう、と思って鑑定を続けていると後ろに気配を感じる。
後ろを向くとエンが何やらジェスチャーをしている。10代半ばくらいの女の子が体全体を使って何かを伝えようとする光景は何だか心が温かくなる。
(何を伝えようとしているのだろうか)
エンがこんなに必死に伝えようとする姿を今まで見た事はない。どうやらかなり重要な事らしい。何やら鑑定台に乗っている物を指差してくれ、と言っている様だ。
(指の先には……解呪の札?)
それを手に持ってみるとエンが何度も頷く。こんなものを霊体に使ったら成仏してしまうのではないだろうか?
「これが欲しいのか?」
エンに聞いてみると頷く。
(アンデッドに解呪の札を使ったら成仏しそうだ。大丈夫なのだろうか)
念のためコタツに居るネクに近付けてみると凄い勢いで離れた。後でタリス経由で聞いた話では、魔法無効だから効かない様だが、近づけるだけで凄く嫌な気分になるらしい。
それでも本人が欲しがるのなら仕方ない。渡そうと思う。
「渡そうと思うんだけど、手にもてるのか?」
聞いてみると胸元をはだけ、ここに貼れと言わんばかりに強調してくる。じっくり見ながら遠慮はせず貼る。すると、エンが光を発しだした。コタツのネクとタリスが驚いた顔でこちらを見る。
そして、光が止むと実体化したエンが立っていた。
「ご主人様ありがとう。呪いがやっと解けました」
エンが喋ってくる。どういうことなんだろうか。それを聞いてみると
「あっちこっち移動していたんですが、あの船でアンデッドの呪いを受けてしまったみたいで、動けなくなってしまったんです。本当に助かりました」
との事。バンシー?の理由はこれだったらしい。実体化したと言う事は防具もつけられるだろう。そうすれば盾役が1人増えるので、ネクの負担も減らせるだろう。
「お礼を何かしたいのですが……。ご主人様ですと、あれですよね?」
俺を何だと思っているのだろうか。否定はしないが。その夜から1人増えた。それだけ記載しておこう。
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翌日、準備を終えミーティングの時間になる。エンが実体化した事は既に伝えてあるが、正体に関しては不明だ。
「昨日、解呪を終えてエンが実体化したのは知っていると思うが、その種族が良く解からない名前だった。シェイドという名前に心当たりがあるものはいるか?」
皆に聞いてみる。パステルが手をあげ言ってきた。
「シェイドは闇の上位精霊ですね。闇は人前に殆ど姿を現しません。伝承では聞いた事がありましたが、まさか実在すると思いませんでした」
とパステルが言う。上位で珍しい精霊だったようだ。
「上位精霊か、タリスに続いて2人目だな。タリス、精霊で思い出したんだが、加護って誰かに付けられるのか?」
タリスに聞いてみる。タリスがあっと何かを思い出した表情をする。
「あ、ごめん。加護の事を忘れてた。マスターに付与するね」
そういうと俺に手をかざして何か呪文を唱える。聞き取れないのでその筋の言語なのかもしれない。
「はい、終わり。これでマスターに風属性によるダメージはなくなったわよ」
どうやらタリスの加護は風属性耐性らしい。
「あ、私もご主人様に加護を渡します」
エンが言い出す。エンチャンターにした覚えはないんだが、加護が使えるらしい。タリスと同様に手を差し出すと呪文を唱える。
「私の加護は闇属性です。これで精神操作や暗い場所でも見えたりするようになりますよ」
暗いところで見えるのは便利そうだ。精神操作は食らった事がないので良く解からない。
「2人ともありがとう。この加護は大切に使わせてもらうよ」
2人に礼を言う。そして、迷宮攻略のミーティングに入る。
「今回は部屋の中まで探索しようと思う。ドラゴンやミノタウロスといういかにも強そうな敵が居たので注意して欲しい。メンバーは昨日と同じだ」
これがボス戦ならクウを入れ替えたりする。今は雑魚戦なので長期戦は想定していない。
「行こうか」
そう締めると俺たちはラスダンまで向かう。入り口から部屋の中まで掃除をしながら進む。今の所は部屋にはオーガしか見当たらないしオーガは3体以下しか同時に出ないようだ。
そのまま探索を続けるとドラゴンが居る部屋が見つかった。
「中にドラゴンが1匹いる。血を浴びたら解呪の札の使用を忘れるなよ」
そう仲間に伝える。今まで戦った龍はドラゴンゾンビと水龍である。緊張するなというのは無理がある。
「開けるぞ」
そういって扉を蹴破る。体術全開で破壊する必要は無いが、気分だ。部屋の中心には高さ4m程のドラゴンにしては小柄な部類の爬虫類がいた。拍子抜けである。口元に火が見える、ブレスだろうか。
「散開しろ!」
そう掛け声かけると皆分散する。集まっていた所に火のブレスが吐きかけられる。どうやら予想通りのようだ。俺とネクとティアはドラゴンに接敵すると武器で切りつける。するとすんなり刃はドラゴンの鱗を貫通し皮膚を切る。
ドラゴンは叫び声を上げ、のた打ち回る。どうやらかなりのダメージに繋がったのかもしれない。転がりまわっている爬虫類に後衛組の追撃が入る。ティアは武器を両手剣に変えるとそのまま尻尾に振り下ろす。すると尻尾が簡単に切断される。
そして、ドラゴンは苦しみながら消滅する。
(おいおい……こんなもんかよ……)
本当に拍子抜けである。これが3,4体居ても勝てそうな気がする。ドラゴンという名前のただの爬虫類だった。どこか残念に思いながら箱を開け戦利品を回収していく。
探索を続け、今度はミノタウロスが居た。入ると巨大な斧を両手で持った頭だけ牛の牛人間が居た。俺たちは散開する。俺は正面に、他2人は左右に分かれる。そこから続けざまに攻撃を続ける。相手に休む暇も与えない。
ミノタウロスまであっさり倒してしまう。どうやらラストダンジョンも雑魚戦は簡単らしい。鮫のようにすり抜けられることも無いので気が楽である。
そのまま探索を続け部屋を荒らしていくと階段を見つける。階段を降り、ボス部屋の前に楔を設置する。どうやらこの先がラスボスらしい。
(ここまで色々とあった。戦士としても人間としても成長したかも知れない。その結果がこの先の戦闘で決まる)
と、恰好を付けてみる。だが、俺は……
ラスボス前にレベルをカンスト付近まで上げないと気がすまないゲーマーなのである。
本来ラストダンジョンで手に入るのはウーツ鋼までです。
オリハルコンを先に手に入れるとかなり楽になります。
強化もまた+5程度までです。6階層で本来の力が出せない状態で鍛えられた結果ですね。
プールで歩行をすると普通に歩くよりも色んな筋肉を使ってダイエット効果があるというアレだと思っておいて下さい。
当初の予定ではもっと雑魚戦でも苦戦させようと思いましたが
それはボスやユニーク戦でいいやと思いこんな形となりました。
ここから主人公によるレベル上げが始まります。時間も一気に進みます。
淡々と戦闘した、とか書いても面白くないのでその合間の出来事をどんどん書いていきます。
中にはユニークモンスターへのリベンジや対策なども入れるつもりです。




