3話
「さて、行くか。って、このパソコンはどうやって電源落とすんだ?
いやそもそも電気ってどうなっているんだろう?」
ある意味気にしても仕方ない事だろう、とは思いつつ気になってしまった。
まぁ、結果が解かるわけではないんだが。
重い腰を上げて迷宮に続く扉の前に移動する。
俺たちの戦いはこれからだ、と終わりになる訳ではない。
(やっぱり怖いよな……武器で戦うなんてやった事ないし……)
ビクビクしながら扉を開ける。 扉はあっさり開き、埃臭い臭いが辺りを充満する。
よし、と気合を入れて先の階段を下りていく。階段の下まで降りきった所で辺りを見回す。
明かりはしっかりとしているらしい。蛍光灯ほどではないが、それなりに明るい。
正面は通路になっていたが、結構奥まで見える。
念の為、腰に佩いていた剣を抜刀し通路を歩く。すると、すぐにT字路にぶつかる。
左右を見渡すと……
(何か居る!!)
左側の通路を見ると白い何かが見えた。あれは……骨か?
(確か先行した人の情報だと骨が居ると言っていたな)
先手必勝!!と行きたい所だが、足が竦んで中々1歩が出ない。
そうしていると骨がこちらに向いて近寄ってきた。
(よし!!)
何がよしなのか解からないが、気合を入れ覚悟を決める。盾を正面に構え、こちらからもゆっくり骨に向かう。
骨はゆっくりと歩きながらお互いの剣の範囲に入る。骨がゆっくりとした動作で剣を振ってくる。
ここは落ち着いて盾で受け流し、そのまま剣で反撃する。骨の頭部に当たり、骨は体勢を崩した。
(追い討ちをかける!!)
返す刀で骨を打つ。そのままこちらから見て前方に骨が倒れ粒子になって消滅した。
「ふぃ~~」
たった2回斬っただけである。それでもかなりの疲労を感じた。初めての命のやり取りだからと思いたい所だ。
しかし、スキルは凄い。ゆっくりとはいえ骨の剣を受け流す事は出来たし、それなりの重量がある剣で2連続で斬るなんて真似が出来た。
昨日まで体を鍛えている訳でもなく、剣を1度も握った事のない人が出来る動作ではない。
そんな事を考えていると、骨が粒子になって消えた所に宝箱が落ちていた。
(どこにこんなもん隠してたんだ?)
完全に質量保存の法則を無視している。
(確か、罠解除スキルとかあったよな。という事は、罠がかかっている可能性があるのか……?)
当然、罠解除など取っていない。だが、宝箱というのはそれだけで誘惑される。
(開けてしまうか?最初だし、そんな酷い罠はないだろう)
だよな?と誰になく問い掛ける。ある意味これってフラグなんじゃないかと苦笑しつつ覚悟を決めて開ける。
カチャ、ギギギギギィ
宝箱が開く。何も起こらない。罠はなかったのだろうか。宝箱を覗き込む。
中には剣が1本入っていた。
(これが戦利品なのか?)
どんな剣なのかさっぱり見た目では解からない。確かパソコンの所で鑑定が出来るんだったな、と思い出す。
(しかし、使いようのない剣を持ち歩くのは邪魔になるな)
アイテムボックスとかはないのだろうか?そう思った瞬間に正面の空間が割れ空洞が出来る。
(ここに入れろって事なのか?保管出来るならこの先必須だろうし試してみるか)
空間に剣を放り込む。だが空間は閉じない。もしかしたらともう1度アイテムボックスと念じる。
そうすると空間が閉じる。なんともゲームらしいと感じる。
「さて、この調子でどんどん戦うか。慣れないといけないしな」
わざと声に出して言う。もちろん自分自身を鼓舞するためだ。
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周辺を探索し、骨を狩り続ける。確か犬も居ると掲示板には書いてあった気がしたが未だに見かけない
二足歩行の犬なので、骨と違い生物である。余り戦いたいとは思わない。
と思っていると遠くに犬を見かける。フラグだったらしい。
(確か、血が一杯出るんだっけか……)
嫌だな、と思いながらも通過儀礼と諦め犬の方に歩いていく。何体か骨を倒す事で多少の自信は付いたようだ。
犬がこっちに気付き叫びながら走ってくる。
(やべぇ、こえぇ……)
無言で戦っていた骨とは違い、相手は生物である。当然声も挙げるだろう。その事を失念し気迫で負けていた。
だがそこは頼りになるスキル補正。犬の剣を楽に受け流し、反撃の機会を容易に作り出す。後は覚悟だけだ。
「ハッ!」
声を出しながら犬の頭を斬る。銅製の剣は斬るというよりも殴る方に近くドゴッという音を立てる。
犬がうずくまる。腕を後方に下げそのまま犬の胸を突き刺した。血が飛び散る。
犬は苦悶の表情でこちらを見て数秒後に粒子となって消滅した。
だが、二足歩行の生物を殺したという罪悪感が一切なかった。
(どういうことだろう?何故か今凄く冷静だ。血が飛び散るなんて恐怖を感じそうなのに何故か何とも思わない)
何か補正が働いているのだろうか。確かにこのまま迷宮を探索していく上で一々止まっていたら攻略が進まなくなるだろう。
(まぁ、良いか。良い方に捉えよう)
すぐに考える事を止める。基本的に俺は楽天家である。
宝箱を回収し、犬の討伐も視野に入れ”入口付近で”狩りを続ける。だって、複数相手は怖いもの。
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ピロリン
骨と犬を狩り続けてしばらくすると効果音が鳴った。
何事かと思って辺りを思わず見渡してしまった。
*スズキはレベルが上がった*
「レベルが上がったのか……
よし、良い機会だ。少し先に進んでみよう」
犬と骨を狩り続けるというルーチンワークに飽きてきていたというのも手伝い、先に進んで見ようと思った。
”思ってしまった”
立ち塞がる骨と犬を狩り続け、その時がやってきた。
それは、複数の敵との遭遇である
(曲がり角に骨が3体固まっている……)
ゆっくりと動く骨だ。3体居てもどうにかなるだろうと思い先手を撃つ。すぐさま1体を倒し2体目の攻撃を盾で受け流す。
3体目の攻撃はかわし、盾で防いだ2体目を攻撃しようとした所で背中が熱くなった。
「っつ」
2体目を斬りながら押し込む。蹴って2体目を横に飛ばすとそのまま体を反転させた。すると……
(更に3体増えてやがる……)
計5体である。曲がり角に隠れていたのだろうか。調子に乗って突っ込んで確認を怠ったせいである。
1Fと言えども迷宮。油断が命取りになる。
(幸いというか相手は骨。動きが遅い。5体とは言え囲まれなければどうにかなる)
先ほど蹴った骨に向かって強襲をかける。消滅を見届けたら近くにいる骨に攻撃。防御を考えない、とにかく早く倒す事が必要になる。
走りながら止まらずにそれでも確実に1手1手を打ち込む。そうしている内に動く骨は居なくなった。
「ハァハァ……もう無理」
息が切れる。全力で走りながらの戦闘である。今までの1対1での戦闘より遥かに体力を消耗する。
息を整え宝箱を開ける。罠はないようだ。
「ふぅ……。さすがに疲れたし帰るか」
マップを開く。どうやら結構遠くに進んでいたようだ。マップの半分以上が埋まっている。
2階が近いのかもしれないが、特にショートカットが出来るわけではないので、無理して次の階を探すほどでもない。
急ぎ足で、敵を確認しながら拠点へと帰った。