39話
俺たちは今4階層の4階にいる。ゾンビがいなくなった分臭いも大分マシになっている。
(稼ぐとしたらこの階かな?)
1~3階は敵は弱いが臭いが強烈で長時間狩りたいとは思わない。この階を除いたら3階層まで戻るしかなくなる。
スケルトンナイトやレイスなどを葬りながら探索を続ける。踏破率も9割を越え問題なく進めている。
(確かドラゴンゾンビとかいうユニークモンスターが居ると聞いたんだが、どこにいるんだろうか)
その強さは4階層を挑んでいるレベルでは歯が立たないと言われている。ただ、ドラゴンをこの目で見てみたいとは思う。
生体、魔力感知をしてもそんなモンスターは引っかからない。
(うーん、どういう事なんだろう?)
掲示板の方にもドラゴンゾンビのようなユニークモンスターがどうやって現れるかなどの情報はなかった。どちらかと言えば気が付いたら見かけた、である。
「リム、ドラゴンゾンビの情報って聞いたことないか?」
この階層出身のリムに聞いてみる。何か知っているかもしれない。
「聞いた事ないのぅ……そもそも4階に降りた事なんぞなかったわ」
2階には移動したのに4階はなかったらしい。生まれてどれくらいなのかは解からないから何とも言えないが。
「そうか、居ると言われていたのに見かけないからどうなのかと思ってね」
何か条件でもあるのだろうか、全く手がかりすらない。全ての地域の探索を終える。
階段を降りボス部屋の前に楔を設置する。ここで万が一全滅して未鑑定品が消滅するのはもったいないと思い一旦拠点に戻る。
「ご主人様!!」
いつもの様にティアが出迎えてくる。猫と言うより犬のようだ。
「すまない、ティア。今日はもう1度迷宮の探索をする予定だ」
そう答えるとティアがしょんぼりする。丁度撫でやすい位置に頭が来たので撫でておく。
「では、行って来るぞ」
そう告げ、仲間たちともう1度4階の探索を開始する。
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どれくらいだろうか、ボス戦前のレベル上げと言わんばかりに周りのアンデッドを倒しまくる。その時に突然それは起きた。
「マスター!!」
突然タリスが叫ぶ。何事だと思い、正面のヴァンパイアを切り伏せ戦闘を終わらせてから後衛の方を見る。そこには何やら霧のようなものに巻き込まれるタリス、パステル、リムの姿があった。
その霧の出所を見るとドラゴンの頭があった。
「ドラゴン……」
目を大きく開け凝視しながら、思わず呟く。ドラゴンとは言え、黒く所々が腐って異様な臭いを放っている。霧のようなものに包まれた後衛3人が粒子になって消滅した。
パーティはもうネクと俺しかいない。こんな状況では戦いにすらならないだろう。ネクは自分に任せて逃げろと意志を伝えてくるが、ネクが頑張って耐えても時間稼ぎにすらならないだろう。
後衛の3人を瞬時に倒すほどの攻撃力だ。当たったら即死してもおかしくない。
ユニークモンスターからは逃げられない。プレイヤー間で恐れと共に言われている言葉だ。早い話が羽で逃げる事ができない為、走って範囲外に行かないとならない。殆どのユニークモンスターが巨大だったり速度が速かったりするのでまず無理である。そこからそう言われる様になった。
「ネク、一矢報いてやろう……」
ネクは少し考え頷いた。もうこの戦いは負けること前提である。逃げ切れる保障も全くない。ならば、戦闘の中で潔く散ろう。
ネクは炎王の鎚を取り出し装備する。全力の姿勢だ。
俺とネクは散開し別々の方向からドラゴンに向かって走る。俺よりも早く攻撃の間合いに入ったネクがドラゴンゾンビに攻撃をしかけるのが見える。
炎を纏った鎚はドラゴンに当たると炎の勢いを増す。アンデッドだから痛みはないのだろう。ドラゴンは気にせずネクの方を向き攻撃を仕掛けようとする。
俺はチャンスとばかりにドラゴンの後ろ足辺りを切り付ける。硬い鱗がある訳でもなく、すんなり刃は通った。刃の勢いは相手の骨までめり込み止まる。
(ダメージは通りそうだ。いけるか?)
どの程度の体力があるかは解からないが、確かな手応えを感じた。だが、それは甘い考えだとその後すぐ知る。
数回きりつけ確実にダメージを与えていると剣を持つ腕に異常が見られる。どんどん感覚が麻痺して行く。
(これは毒か?食らわなくても毒素でも撒き散らしているのだろうか)
そう考えながら解毒薬を飲む。だが、症状が回復しない。これ以上は危険と思いドラゴンから距離を取り、解毒薬を飲んでみるが回復しない。
(毒ではないのか?なんだろう)
思ったより冷静である。自分の腕が紫色に腐食していく光景を見ながら、原因と対処法を考えているとドラゴンがこちらを向く。
どうやらネクは既に倒され拠点へ戻されたようだ。攻撃出来ない、逃げられない、耐えられない。
(詰んだ……)
痛みなく殺してくれる事を祈り俺の意識は闇へと沈んだ。
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ハッと目が覚める。
「無理ゲー……」
思わず呟く。死んだのだから当然だが、気分は最悪だ。どうやらここは石畳の上ではなく、寝室のベッドのようだ。周りを見渡すと他の仲間も寝ていた。ティアとコクが運んでくれたのだろうか。
倒された仲間たちが寝ている先にティアとコクがベッドの上に座りこちらを見ていた。
「ご主人様……」
ティアが心配したような怒った様な目でこちらを見ている。どうやら心配を掛けたようだ。ティアがそのまま四つん這いでこちらに寄ってくる。胸があったら絶景だったかもしれない。
俺が上半身を起こすとティアが抱きついてきた。コクはそれを微妙な顔で見ている。真似するか、我慢するか葛藤しているのかもしれない。
抱きついてくるティアの頭を撫でながらティアとコクに心配掛けた旨を伝え謝る。
「今日はこれで休もう。俺は食事を取れるような気分じゃないから後から起きた仲間と一緒に食べてくれ」
先程までドラゴンゾンビの腐臭を間近で嗅いでいたのだ。未だに鼻に残り食事を食べられるような気分じゃない。
ベッドの枕元にある時計を見ると18時過ぎのようだ。結構探索をしていたらしい。
ティアに離れてもらいベッドに寝転がる。何故かティアとコクも一緒になって寝転がりだらだらした時間を過ごす。
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翌日目が覚める。昨日はあのまま転がっていたら寝てしまったらしい。時間は7時頃だった。
まだ皆寝ているようだ。静かにベッドから出るとパソコンへ向かう。
昨日の戦利品とコクの装備の売上を確認する。中に変な薬品を見つけた。
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若返りの薬
効果
飲むと5歳若返る。18歳未満にはならない。永続
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(え?マジで?)
思わず説明を2度見てしまう。人類の夢である若返りがここでは普通にあるらしい。他の薬品を鑑定するとそれらが一杯出てきた。それでいいのか?
死なない、老いない(手動)とは凄い迷宮である。折角なので俺は18歳(+125ヶ月)だが2本飲ませてもらう。元々老け顔だったので、そこまで変わらないと思うが、最近動きに体が付いて行かないと思っていた所だ。遠慮はしない。
(おおおお)
肉体的な差はそこまでないが、気持ち肌が良くなった気がする。気のせいかも知れないが。
一杯あるのだから他の使い魔に使うかどうか悩んだが、以前聞いた話ではエルフも獣人も18歳になる前に体は出来上がるらしい。そしてそこから老化が殆ど見えなくなる。
コクとリムはこれ以上若くしてどうするんだ、という具合である。使い魔にした時点で老化もないから、この薬は俺専用になりそうだ。自動販売で売ってもいいけど、これだけ沢山出るのでは価値は低いだろう。
そうしてDPを貯金に回す。精力草が出来ていたので調合し薬品に変える。そうしている内に皆起きてきたようだ。
「おはよう」
皆に朝の挨拶をする。皆がこっちを向き驚いた表情になる。どうしたのだろうか。
「ご主人様……だよね?」
ティアがよく解からない事を聞いてくる。若返りでそんなに変わってしまったのだろうか。
「そうだが、どうしたんだ?」
10年前と大差なかった気がしたんだが、毎日見ていた皆からしたら結構変わってしまっているのだろうか。
「凄く若くなってるわよ」
タリスが答える。前の時点でそんなに歳を取っていなかったように見えたが、凄く老けていたようだ。
「そうか、若返る薬が手に入ったから飲んでみたんだが……変か?」
そう聞くと皆が答えてくる。言い方は違えど皆若い方がいい、だそうだ。
(そんなもんかね。渋いのにも憧れるんだがなー)
「あ、主?成長する薬が手に入ったら欲しいのじゃが……」
リムがそんな事を言ってくる。それを(ロリ体型)捨てるなんてとんでもない。却下した。
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朝の準備を終え、ミーティングを開始する。議題は昨日のドラゴンゾンビとボス戦だ。
「ドラゴンゾンビなんだが、あれは無理。毒ではない腐敗攻撃と広範囲の腐敗ブレスとか対処しようがない」
実際戦ったネクも頷く。どう考えても戦いようがないし、ボスと違って強制的に戦わされるものでもないからスルーした方がいい。
戦闘時の様子を後衛の3人にそれらを伝えるとすぐに納得してくれた。誰だって無駄死にはしたくない。
「ボス戦はローブを着た幽霊タイプのモンスターらしい。暗黒魔法のみを使ってくるとの事」
通称死神。浮いていて魔法を使ってくるだけだ。
「暗黒魔法であれば、神聖魔法の耐性強化で行けますね」
パステルが言う。掲示板の攻略の定番もそうなっていた。
「それ以外の対処法はないようだ。ネクは炎王の鎚で攻撃、タリスとパステルは神聖魔法。リムは古代魔法だな。俺は……応援でもしてる」
浮いているから正直やる事が全くない。弓も魔法も使い物にならないのである。
(本当に仲間を増やす事も考えないとな)
フルメンバーでボスに合わせて戦えば、より安全で楽な戦闘が出来るだろう。
(増やすなら獣人かエルフ辺りかなーでもエルフは変態だと困るしなぁ……出来るなら大きな胸に包まれたいんだよな)
そうなると獣人とエルフ、ドワーフは却下である。ヴァンパイアはリムの顔を立てる為に遠慮する。
(そうするとエンジェルくらいか……遭遇出来るかどうかは解からないけど)
未だ見ぬ胸に思いを馳せる。絶対仲間の前では言えない。
(そのためにもさっさと4階層をクリアしないとな)
そう心に決める。さぁ、ボス戦だ。
順調だと何かが起こる、というより何かをしたくなる今日この頃です。
パターン化されて探索部分に刺激がないんですよね。
このパーティの毎日のパターンは
8時頃起床→10時探索開始→15~18時頃帰還→帰還後から21時頃まで夕飯とか雑務とか→21時~0時頃自由時間→0時頃~就寝
拠点は常に明かりが灯っているのでファンタジーらしくはない日程です。食事は箱の都合で1日2食です。
※容姿の評価には個人差があります。




