35話
しばらく調合をしているとティアが目覚めた。ティアは周囲を急いで確認するとホッと安心したようだ。
「ティア」
俺が名前を呼ぶとティアはビクッと肩を震わせる。ちょっとショックだ。折角なので意味もなく頭を撫でておく。
「ティア、次の階層はアンデッドが多い。行けそうか?」
ティアに聞く。ティアの内心は解かっている上で聞いているのである意味残酷かもしれない。
「……行きたくない。でもご主人様を護らないと……」
か細い声で返してくる。余程駄目だったのだろうか。俺が戦闘では全く頼りないからかも知れないが、そこはスルーしておく。
「無理はするな。俺たちには頼りになる仲間が一杯居るだろう?出来ない事は出来ないと言って良いんだ」
使い魔と言えどもただ何でも無条件で聞く関係にはなりたいと思わない。死んでも復活するとは言え感情も傷みもあるのだ。
甘いと言われるかも知れない。だけど、俺の使い魔たちは仲間であると同時に家族でもある。
「そうよ。あたしなんて料理をしたら壊滅的だし、材料が無駄になるでしょ?適材適所ってやつよ」
タリスが援護をする。お前はもう少し料理を学べ。
「……ごめんなさい。やっぱり幽霊は無理……」
顔を伏せ、静かに答える。俺は何も言わず抱きしめ頭を撫でる。猫耳だとどうしても撫でたくなるのはどうしようもない。
「解かった。ならコクと一緒に留守番を頼むな」
さり気なくコクも留守番と宣言する。コクは自分を指差して僕も!?とか言っている。この際、パステルがこっそり説明しているのでスルーしておく。
そんな事を考えながら頭を撫で続ける。ティアがこっちを涙目で見ている。どうやらまた発情してしまったようだ。
「よ、よし、今日は解散。各自好きなように過ごしてくれ」
慌てながらそう皆に告げ、俺はティアを新たに作った訓練所に案内する。訓練所と言ってもただ広いだけの部屋であって何も無い石部屋な訳だが。
そこでしばらくティアとこっそり遊ぶ。訓練より先に別のことで使われる訓練所になってしまったようだ。
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翌日、探索の準備を終えると本日のミーティングを開始する。
「今日の探索場所は4階層の暗くてアンデッドが多い場所だ。通称アンデッド祭りとも言われている。今回は1階の探索をする。一応情報ではゾンビとゴーストしか出ないらしい」
掲示板に張り出されていた情報を伝える。どんな事が起こるか解からないのがこの迷宮だ。前回みたいな事もあるので、情報を全て鵜呑みにはしない。
「マップ全体は夜のように暗い。前の階層と同様カンテラは持って行ってくれ。あとは……ネクとタリスには神聖魔法を覚えてもらった。上手く利用してくれ」
そう伝えると、皆が驚いてネクを見る。そりゃアンデッドが神聖魔法を覚えたら正気を疑う。ネクは恥ずかしそうに両手で顔を隠し大きく体を左右に動かしている。何をしているんだこいつは。
「主様。精霊魔法に明かりを付ける魔法があるのですが使いますか?」
パステルが聞いてくる。精霊魔法便利すぎるだろ。そこでふと疑問に思う。
「ん?あるのなら使って欲しい。だが、そういう魔法があるのなら何で坑道では使わなかったんだ?」
カンテラ以外の光があるのであれば、あるのに越した事はない。敵からしてみたら光がなくてもこちらが見えるらしいので、明るいのには越した事がない。ドワーフやゴブリンも明かりなんて持っていなかった。
「光量が強すぎるのです。高い所に使えば広範囲を満遍なく照らしてくれますが、狭い所だと目に悪く、戦闘の妨害にしかなりません」
ただ便利というわけでもないらしい。その調整は出来ないのだろうか。出来てたらもうやってるか。
「なるほど、今回は便利そうだな、魔法の維持は問題ないのか?」
「問題ありません。魔力の維持は得意なので」
パステルが余裕だ、と思わせるような自信満々な表情で答える。やっぱり少しずつ削れていくタイプのようだ。
(魔力自動回復便利だな、欲しいけど固有なんだよなぁ・・・)
ふとそう思ってしまう。固有もちは貴重だ。今後も狙って行きたいと思う。
「となるとカンテラは必要ないのか?」
「いえ、私が倒されたり、光の範囲外に逃げる事もあるかもしれません。もしもの時の為につけていた方がいいでしょう」
そういうこともあるか。どうせカンテラは付けたらアイテムボックスに入れるまでずっと付きっ放しだ。ほっといてもいいだろう。
「ではそうしようか」
ミーティングを終了する。タリスがやたら黙っていたのはあの後ネクを弄くり倒していたらしい。仲良いなこいつら。
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コクとティアを留守番に残し、直通ゲートへと転移する。階段を降り4階層へ入った。
ネクとタリスが小屋の窓から外を見る。
「うわぁ……なにこれ」
タリスはアンデッドが犇めく空間を見て嫌悪の表情を見せる。ネクはニヤニヤしている。仲間のアンデッドが多いから喜んでいるんだろうか。
「こういう迷宮だ。パステル、外に出たら明かりの魔法を頼む」
既に拠点でカンテラの火を灯していたし、各人は腰に付けている。タリスは片手に持っているが。
パステルは解かりました。とだけ答える。そして俺たちは外へ出た。
(空気が冷たいな……凄く雰囲気が出ている)
ティアを連れて来なくて本当に良かったと考えながら周囲を見渡しながら生体と魔力感知をする。見事にゾンビとゴーストしかいない。
パステルの詠唱が終わり明かりの魔法を上空に使う。すると凄い光源で周りを照らし出す。
「これは凄いな……」
周囲が昼間と変わらないほどの明かりになる。同時にゾンビの腐敗した肌などが良く見えるようになってしまう。
(やばい、きもい)
タリスも凄く嫌そうな顔をしている。ゴーストもはっきり見えるようになった為、奇襲を受ける事もなさそうではある。
「さ、さて、探索を開始するぞ」
周囲を歩き回りマップを完成させていく。ゾンビは遅い、臭い、きもいの三拍子揃ったモンスターだった。腐敗臭に気をつければそこまで気をつけるモンスターではなさそうだ。
ゴーストは前の階と一緒だが、今回ははっきりと見える為全く脅威にはならない。
墓場や壊れた家屋や教会などを多く見かける。滅んだ村あたりをイメージして作られているのだろうか。明るいので怖い雰囲気は全くない。
戦闘面で一番驚いたのはネクだった。神聖魔法を誰よりも上手く駆使して戦っていた。魔法の真髄というか理を理解しているのだろうか。そのお陰で俺がゾンビを1体倒す頃には、ネクは5体も倒しているという神業を披露していた。
決して俺が弱いんじゃない、と思いたい。ちなみに、家屋や墓もあるので通常の魔法銀の鎚を使ってもらっている。作り物とは言え墓を壊しながら進みたいとは思わない。
ネクが生き生きしながら戦っているのを傍目に見ていると、これが本来の彼女の戦闘スタイルなのかもしれない。アンデッドが生き生きというもの変だが。前世は神官戦士説が濃厚である。
踏破率がほぼ100%近くになると壊れていない小屋を発見した。そこに入るといつものように階段を見つける。その階段を降りきり先の小屋に楔を設置する。
「今日はここまでにしよう。精神的に疲れたし」
ちょっと弱音を吐く。
(ゾンビの群れに対して無双するとか、どこの生物学的危害ゲーだよ)
ゲームなら見た目はともかく臭いはない。弱いにしても長時間その臭いを嗅がされるとどうしても気分が悪くなる。
「うん……」
タリスが肩を落とし元気なく答える。やはり辛かったのだろうか。
「そうですね。この臭いはちょっと……」
パステルも同意する。臭いを消す方法とかないのだろうか。ちなみにネクは凄く元気だ。鼻もないし嗅覚は関係ないのだろう。頼もしい。
そのまま羽を使用し拠点へと帰還する。
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拠点へと帰還するとこちらへティアが走ってきた。
「ご主人様おかえりなさい」
そのまま抱きついてくる。寂しかったのだろうか。タリスはやれやれご馳走様と呆れた顔で言っている。パステルはその光景を笑顔で見ている。ネクは何故かシャドーボクシングをしていた。暴れたりなかったのだろうか。相変わらず良く解からない。
頭を撫でながらただいま、と答え体を離す。これ以上やるとまたやばい。
その後しばらくするとコクが鍛冶場から出てきた。
「ウーツ鋼の武器が完成したよ。これが第一号の剣」
試作をずっとやっていたようだが、遂に完成したらしい。それをありがとう、と礼を言って受け取る。金属なのにまるで木目のようなラインが付いていて面白い。それを鑑定台に乗せてみる。
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ダマスカスの剣+10
効果
特徴的なデザインを持つウーツ鋼製の片手剣
製作者:コク
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良い品物のようだ。普通の武器でどこか安心する。タリスに聖属性を付与して貰って俺が装備する。
「コク、ありがとう。他のメンバーの装備も頼む」
お礼を言い、さりげなく量産を頼む。
「うん、解かった。あ、これ販売用の装備ね」
そう言うとアイテムボックスから大量の武器防具を出す。鋼や魔法銀製の装備のようだ。特殊な形状の武器はない。それを確認すると安心する。
(強すぎるとそれに振り回されそうで怖いんだよな。自分の実力以上の事をして調子に乗ってどこかで手痛いミスをしそうだし)
慎重派である。死なないのであれば突っ込んでどんどん傷つきながら進むのも手ではあるが、死の痛みや恐怖を自分から進んで受けるほどマゾでもない。
(それに、仲間の死ぬ所は見たくはない)
それが出来れば簡単に先行組みに入ることが出来るだろう。それでも数名から数十名しか先行組みが居ない事を考えると明白である。誰だって痛い目には合いたくはない。
コクの作った装備を出品していく。値段はそこそこで初心者にも買える価格にする。金稼ぎと言うよりは、進むのに苦労している人たちへの支援に近い。
(偽善なんだろうけど、掲示板とか見てしまうとどうしてもな)
全ての人間が順調に探索出来る訳ではない。俺だって全滅や大怪我を何度かした。仲間たちの励ましがなければ挫折していたかもしれない。
「さてと、今日の戦利品を鑑定するか」
気を取り直し鑑定をする。装備の面ではコクの活躍もあり、現在のドロップより遥かにいい物で揃えている。鑑定を続け魔法銀にランクアップした装備を売っていく。
「ん?なんだこれ」
変なものがあった。
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ナイトの証
効果
ファイターをナイトへランクアップ出来る。
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(何だろう?転職アイテムなのか?)
いくつか似たようなアイテムがある。それらを鑑定すると、ナイト、ウォーリア、ウィザード、プリーストと4種類あった。
(転職による分岐か。何が変わるのか情報を集めてみるか)
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【ランクアップは】転職スレ part2【戻れない】
155 名前:名無しさん
で、ランクアップは4種類で決定なのか?
156 名前:名無しさん
5階層に進んでいる奴らからの話でも4つしか出ていないってさ
157 名前:名無しさん
ランクアップしたら前の状態に戻せないからどうしても慎重になるよな
158 名前:名無しさん
んじゃ、まとめ
下位職から派生して2種類に分かれる
違いは職スキルくらいだが、結構効果が高いので慎重に
一度ランクアップすると前の下位職へは戻れない
下位の職スキルはそのまま得ている
ナイト
ファイターからの派生
どっちかと言えば防御寄りの職スキルを覚える
守護者の盾:敵からの攻撃が軽くなる。防ぎやすくなるって事だな
オーダー:仲間の戦意を奮い立たせる。気分を盛り上げるという感じ。実際指示を出しているわけではない
ウォーリア
ファイターからの派生
ナイトと真逆で攻撃寄り
武器重量無効化:武器の重量を気にしなくなる。慣れないと逆に辛そうだが、なれると凄い速度で振れる
腕力強化:力が強くなる。ドワーフのと同じで重複するみたいだ。武器重量無効化と合わせると攻撃力が凄く上がる
ウィザード
メイジからの派生
攻撃タイプ
攻撃魔法特性:攻撃魔法の拡大、威力強化。そのまんまだな。下位魔法でも範囲に出来るし、威力も大分上がる。味方への攻撃不可のスキルを付けると尚良し
魔の理:攻撃魔法の消費が減る。今までより一杯使えるようになる。攻撃魔法特性で魔力の消費がでかくなるからその分の軽減という感じ
プリースト
メイジからの派生
回復タイプ
回復魔法補正:回復魔法の効果増加。効果が増加するだけで範囲は変わらない。中位の魔法で上位、下位の魔法で中位並の効果になる為便利。
祈り:味方全体を回復させる。魔力の消費なしで出来るから便利だけど祈る恰好のままだから隙だらけ
こんな感じ
159 名前:名無しさん
まとめ乙
どの職がいいかな
160 名前:名無しさん
構成で選ぶべきだろうな
161 名前:名無しさん
ナイトが最強なのは確定的に明らか
162 名前:名無しさん
いや、最強とか話してないから
163 名前:名無しさん
ここから更に派生する可能性もあるんだし、どの職が一番良いとか言えないだろ
164 名前:名無しさん
構成のバランスで決める事にするわ
165 名前:名無しさん
俺らって転職できないの?
166 名前:名無しさん
出来ないな
プレイヤーのまま
167 名前:名無しさん
変わるとしたらプレイヤーから何に変わるんだろうな
168 名前:名無しさん
変態?
169 名前:名無しさん
ケモナー?
170 名前:名無しさん
性欲の権化?
171 名前:名無しさん
お前らその方向ばかりなのな




