33話
頬を何かが叩いている。その感触で目を覚ます。目の前には泣いているタリスが見えた。
「ますたぁ……」
タリスが泣き声で俺を呼ぶ。
「ここは……拠点か。全滅してしまったか」
体を起こすとタリスが泣きながら抱きついてきた。その頭を撫でながら周りを見渡す。
(タリス以外は倒されてしまったのか……タリスには嫌な光景を見せたな)
優しく抱きしめ返し頭を撫で続ける。しばらくそうしているとネクが目を覚ました。
ネクはこちらを見るとホッとした感情を示し、こちらへと歩いてきた。
「すまなかったな……」
ネクは首を振るとどうしようもないと肩を竦めるジェスチャーをする。
「ネク、皆をここに寝かせるのは可哀想だから畳まで運ばないか?」
そう提案するとネクは頷きコクを持ち上げる
(ちゃっかり一番軽いのを持ちやがった)
ティアを抱き上げる。未だにタリスは俺の上半身にしがみついている。そのままにしておこう。
そしてティアを畳に寝かせ、同様にパステルも寝かせる。そして俺は鎧を脱ぎコタツへ入る。
鎧を脱いでいる間くらい離れて欲しかったが、タリスに全然離れようとしない。
離れるように言っても拒否された。ネクに助けを求めるように視線を向けても諦めろとしか返って来ない。
そのまま寛いでいると3人が起きてきたようだ。皆俺の姿を確認すると安心したのか、コタツに入ってくる。
「対策は明日にして、今日はゆっくりしよう」
疲労や怪我は無いが、皆疲れ果てた、そんな表情をしている。
テレビをつけ、仲間たちとのんびりした時間を過ごしていく。コクも今日は鍛冶をしないようだ。
風呂掃除をしようとしてもタリスは離れない。ネクが仕方ないなーという感情をこちらに向けて風呂掃除に向かう。
「ティア、すまないけど食事は任せた」
「……解かった」
いつも任せているのに何がすまないのか解からないが、ティアはタリスに羨ましそうな視線を向けて料理をしに向かう。
コクとパステルと共にテレビをぼーっと見ながら過ごす。タリスはいつの間にか泣きつかれて寝てしまったようだ。
夕飯を食べ、風呂に入る。6人はさすがに狭かったが、皆で一緒に寝た。全滅の余韻か皆離れたくないようだ。
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翌朝目が覚めるとタリスが目の前に居た。おはようと声を掛けると真っ赤な顔をした。今何をしようとしてたのかタリスの名誉の為確認はせずにスルーしておく。
上半身を起こそうとしても無理だった。両腕にはティアとパステルがしがみついている。胸がもっとあれば至高の感触だったかもしれないが、2人ともその辺りは……これ以上言えない。
2人ともかなりの力で抑えているため抜く事も出来ない。
ため息をするとタリスが声を殺して笑っていた。ネクも既に起きていたらしく、微笑ましいようなそんな感情を発している。
コクはマイペースにその辺で転がっている。
しばらくティアとパステルが起きるのを待っている。既にタリスとネクは部屋から出ており、朝食の準備に向かっている。
(起きないな。どうするか)
腕は動かない手は下腹の辺り・・・これ以上いけない
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ひと悶着があったが、2人を起こし朝食へと向かう。
「遅かったわね」
タリスが言ってくる。色々とあったんです。ちなみにコクはまだ寝ているので、ネクが起こしに行く。起きてきたコクの顔が真っ赤だった。
(見ていたな、こいつ)
何があったとは言わない。言えない。
そのまま朝食を済ませ、探索の為のミーティングを開始する。
「さて、今回最後のゴーレムの暴走までは順調だったが、暴走後あっさり全滅してしまった。俺は意識が朦朧としていたから、何があったか解からないんだが、何か変な攻撃はしてきたか?」
仲間たちに聞く。するとパステルが
「光の線による攻撃をしてきました。熱線みたいですね」
(レーザーかよ。よけられるのか?)
「それって避けられた?」
質問をする。光の速度とか言われたらまず無理だろう。
「無理ですね。ゴーレムの目が光ったら一瞬で来ます」
やはり光速だったらしい。避けようがない。
「てことは、暴走させる前に倒さないと駄目なのか……今回の様に地道にダメージを蓄積させていくのは無理なようだな」
難しい。正攻法では戦えないようだ。
「1ついい?」
コクが聞いてくる。戦闘に口を出すのは珍しい。何かあるのか?と聞き返す。
「うん、あのゴーレムはミスリルで出来ていたよね?ミスリルって爆薬を使うと結構簡単に破壊出来るんだ」
何となく解かった。
「爆発させて足を折るんだな?そうすれば暴走して走ってくることも正面しか向けないゴーレムからレーザーを食らう事もなくなる)
理解し、その先に続く。それならいけそうだが、爆薬なんてあるのか?
「うん、そうなんだけど、火薬ってあるかな?」
正直火薬の作り方なんて知らない。
「ちょっとパソコンで雑貨を見てみるわ」
そう答えパソコンへ向かう。そして雑貨の項目に火薬がないか探してみる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ダイナマイト
効果
起爆装置付き☆ 1人様1点まで
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(oi misu おい。良いのかこれ。☆じゃねーよ)
しかも100DPである。こんな危険物を売るなよ。でも買う。買って即アイテムボックスに入れる。こわいもん。
耳栓は人間用のしかなく、猫耳やエルフ耳、フェアリー向けの小型のものはなかった。ドワーフも人間用が使えそうなので2セット買う。
(骨用とかないよな?)
そもそもスケルントンは音を聞いているのだろうか。その辺りの仕様はさっぱりわからない。
「予想以上のものがあった。俺の世界のものなんだが、音と振動がすごいから俺とコクだけで行こうと思う。多分他のメンバーが行くと危険だと思うし、これで失敗したらレベルを上げて挑もう」
そう告げる。他のメンバーは付いてきたがったが、さすがに許可は出来ない。耳栓を1セットコクに渡す。
「これ耳栓な、絶対必要になると思うから付けてくれ」
「はい。でも、そんなに凄い爆薬なの?」
ドワーフだけあって鉱山採掘に関係する爆薬に興味があるのだろう。
「ああ、凄いぞ。こんな事に使いたくなかったが……」
普通こんな危険物を使いたいなどとは思わない。
(ゴーレムの足を破壊できたら炎王の鎚で遠くから殴ろう)
そう考えながらボス部屋の前に移動する。ボス部屋に入りコクは扉の付近で待機し、耳栓を付ける様に指示する。
俺も耳栓を付け、ボスの方に近寄る。起爆装置を置きそれに繋がったダイナマイト本体を慎重に持ち起爆装置とボスの中間地点に置く。
ボスはこちらに気が付いたようで、俺は一気に起爆装置まで逃げる。そしてボスがダイナマイトの上まで来た瞬間に起爆させる。
凄まじい爆音と振動が部屋を襲う。その音と振動に気が付いたコクが走ってこちらに向かってくる。音は一瞬だった。俺が耳栓を外すとコクも外す。
「あーあーあー未だに耳がおかしいな」
耳栓を外しても何かおかしい。耳栓程度では駄目だったのだろうか。
「凄い音だったねーゴーレムを確認しにいこうか」
コクは爆音になれているのか問題は無さそうだ。ゴーレムの姿を確認しに行くと……ゴーレムの下半身が消えてた。
上半身だけになったゴーレムは暴走しているのか腕を振り回している。まるで駄々っ子みたいだ。
「これは酷いな……」
思わず呟く。これでいいのか?迷宮管理者。
呆然と見ているとコクが何故かピッケルを取り出した。すると腕の届かないゴーレムの上半身へと向かう。そしてそのまま振り下ろす。その1撃で少量が削れた。
「ミスリルって結構色んなものに使えるんだよねー」
(こいつはひでぇ……)
俺たちを全滅させたゴーレムさんは哀れ鉱物へとなりましたとさ
*3階層のボスが倒れました。4階層が開放されます。またこの拠点からこの部屋への直通ゲートが開放されます。また4階層からユニークモンスターが出現します。*
どうやら倒したようだ。哀れなゴーレムに黙祷を捧げる。そしてコクと共に勝利の凱旋をした。聞きなれないメッセージはスルーしながら。
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拠点に戻ると心配していた仲間たちが一斉にこちらへ来る。
「ど、どうだった?」
タリスがおどおどしながら聞いてくる。
「ああ、ゴーレムが哀れだったよ……」
目を逸らしながら正直に答える。
「ミスリル一杯取れたから家具とか食器作ろー」
コクは元気一杯でそう言う。
「まぁ、ともかくボスは倒した。明日から4階層を攻略だ。今日はゆっくり休もう」
そう伝え、今日は解散した。
タリスのサイズである60cmは大体生まれて数ヶ月くらいの赤ちゃんくらいのサイズです。
見た目は成人した人型なのでもう少し小さなイメージはありますね。
 




