32話
翌朝、朝食を終え探索の準備を整える。
その際に昨日のあの鎚はボス戦専用と伝える。コクは不満そうだったが、理由を説明すると納得してくれた。今後は普通の武器を作ってくれる事を祈る。
4階へ石を使って移動する。今回からゴーレムが現れると思われるが、対処法は昨日伝えた通りだ。今回コクは防具の製作の為留守番をする。
探索を続け、途中ドワーフやゴーストを蹴散らしながらしばらく進むと、少し正面にゴーレムが魔力感知で引っかかった。
「あの部屋にゴーレムとゴーストが居るようだ。ゴーレムは魔法主体で、ゴーストはティアとネク頼む」
そう告げ、ゴーレムの居る場所まで歩いてく。そこは少し広い部屋になっており、その中央に2mほどのゴーレムと数体のゴーストが居た。
前衛組みは敵のもとまで駆け出し、攻撃を仕掛ける。俺の剣がゴーレムに当たっても傷1つ付かない。どうやら剣は全く効かない様だ。防御に専念する。
ゴーストは攻撃さえ当たればそれほど体力が多いわけではないのであっさり片が付き、ネクとティアはこちらに参戦する。とは言え、剣が通らない為ティアは何も出来ない。
反面、ハンマーは多少効いているようだ。
(最初のゴーレムと対峙するのはネクに任せた方が良かったか……)
自分の失敗を恥じる。大して差はないから問題はなさそうだが。
ゴーレムの攻撃を受け流しながら後衛に行かないように抑え込む。徐々にダメージは蓄積されているようで、弱っていく。そこでふと気が付いた。
(ゴーレムの顔の所にレンズの様な目が付いている……あれを突いて割ったらどうなるんだ?)
ゴーレムの動きは遅い為、攻撃を仕掛ける事自体は難しくはない。折角なので、その選択肢を選んでみた。
ゴーレムのレンズに剣が突き刺さりレンズを割る。するとすぐに粒子になって消滅した。
「あれ?弱点だったのか?」
俺が唖然としていると
「そうみたいですね。魔法を撃つより大きなダメージを与えられるようです」
パステルも賛同する。それを聞き、後ろでティアが自分の出番がある事を喜んでいるようだ。
「それじゃ、積極的に狙ってみよう。無理だけはするなよ?」
「……解かってる」
ティアの方を見ながら釘を刺す。突拍子もない事をするからな、この子は。
その後、問題なく探索を続け5階への階段を見つけた。それを降りると恒例のボス部屋の様だ。ボスの部屋の手前の小部屋に楔を設置する。
「さて、今日の探索はここまでだ。明日はボス戦だから英気を養ってくれ」
そう仲間たちに伝え拠点へと帰還した。
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拠点に戻るとコクが出迎えてくれた。全員分の防具は完成したらしい。タリス用の皮製の鎧も作ったようだ。
全員が装備を確認し、サイズ調整も終える。タリスの様に特殊な装備でもなければ勝手にサイズが調整される訳だが。
コクは今日の鍛冶は満足したらしく、風呂掃除を買って出た。ティアに料理を任せ、俺は調合をする。そろそろ新しい薬草が欲しい気がしなくもない。
ネクとタリスは相変わらずテレビを見ている。パステルは寝室を整えに行った様だ。
調合を終え、ネクとタリスとテレビを見る。何故かメイド喫茶の場面が目に入った。何をみているのやら。
ネクが凄い集中しながら手で盾の裏の木の部分に何かを墨で書いている。よく見るとメイド服のデザインだった。
(作る気か。いいぞもっとやれ)
とは言え、本来自分や仲間を護る盾の裏にそんな事を書いて良いのだろうか。
(そういえば、紙がなかったな。トイレットペーパーはトイレにずっと配置されているけど)
パソコンへ向かい、戦利品を処分しながら雑貨に紙がないか見てみる。調理器具、食事用の食器もなかったことを思い出す。
(今まで全部鋼のナイフを使っていたんだよな。折角だから揃えるか)
お玉や菜箸のような調理器具、普通の箸やフォーク、ナイフ、大小様々な皿などの食器を揃える。
6人分のマグカップや紅茶のティーバック、後はノートや筆記用具を人数分よりも余裕を持って揃える。
(これだけで今日の稼ぎ全部とか笑えない……本当に雑貨類は高いようだ)
1万近くの稼ぎだったが、全部使ってしまったようだ。もう以前から残している1万だけしかない。
現れた雑貨をコタツへと運ぶ。ネクとタリスが何事かと見てくる。
「後で皆が揃ったら説明するから、待ってくれ」
そう2人に言うと、すぐさま興味を失ったかのようにテレビへと視線を戻す。
調理器具や食器を持ってキッチンルーム(仮)へ持っていく。仮なだけに食器をしまう棚なんてない。
ティアが料理をしていた。後ろから襲いたい衝動を抑え、流し台とセットになっていた水切りの所に食器を全部セットしていく。
「ご主人様、これはなに?」
ティアが聞いてくる。
「これは料理を手助けする道具だよ。好きなように工夫して使ってくれ」
詳細な使い方を説明するより自分で見つけた方がいいだろう。そんなに複雑な代物はない。ちなみに包丁はない。鋼のナイフが切れ味良すぎる上に刃が欠けないので。
邪魔をしない(発情をしない)内にキッチンルーム(仮)から出る。運んでからアイテムボックス使えば良かったんじゃないか、と気が付く。正に後の祭りだ
風呂掃除が終わったようなので風呂に入る。俺と料理をしているティア以外は全員で入っているようだ。交代で俺も風呂に向かう。そこにはラッキースケベなどありはしない。
風呂から出ると丁度料理が終わったのかティアがキッチンルームから料理を持って出てくる。それと同時に夕飯になる。
夕飯を終え皆で食休みをしている所で筆記用具と紅茶とマグカップを出す。それらの説明をするとパステルがお湯を沸かしに行く。どうやらもう飲みたい様だ。
紅茶は無限箱ではないため高めの消耗品だ。紅茶の作法など知りもしないので、作り方は適当である。
それでもこの世界の住人からしてみたら珍しいらしく美味しそうに飲んでいた。ちなみに砂糖はない。醤油とかみりんを取っていてないと言うのもあれだ。
(ファンタジーの世界では砂糖が貴重品だったりするしいいか)
元より甘いものが好きではないし、煮物などを作る方法を良く知らないので、急いで取る必要を感じない。
ノートは主にネクとコクが喜んでくれた。作り手として思い出したときにメモを残す必要があるのだろう。相変わらずネクは骨なので表情ではわからないが。
こうしてボス戦の決戦前夜は過ぎていく。
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翌日、ボス戦の準備を整える。
「情報では、ボスは4mくらいの大きさの普通のゴーレムらしい。とは言っても2階層での話だから3階層では異なる部分が出るかもしれない。警戒して挑もう」
俺が全員に掲示板で得た情報を伝える。全部信用できないとしても傾向は解かるだろう。
「4mもあると攻撃出来ない……」
ティアが呟く。今までティアはゴーレム戦では目を狙っていた。4mもあると剣は届かないだろう。俺だって届かない。
「俺は防御に専念して、ティアは回復薬やポーションを皆に配ったり飲ませたり頼む。俺とネクは交代で盾役だな」
ティアの頭を撫でながら言う。正直、今回ティアの役目はない。防御や回避に失敗した俺やネクを助ける役目がある程度だ。
「ネクはこの鎚を使ってくれ。味方は巻き込まないようにな」
そう言って炎王の鎚を渡す。相変わらずの存在感だ。ネクはそれを頭上にかざす。やる気が十分なのを見せたかったのだろうけど、天井は4mもないので天井に鎚がぶつかる。
ネクが慌てるが、この部屋は頑丈な様でその程度では傷すら付かないようだ。その光景を見ながら思う。
(俺たちは2m以内の身長だから特に問題は無いけど、ドラゴンやゴーレムみたいな巨大な種族を仲間にしたら不便そうだな)
「コクも余り出来る事はないかもしれないが、ティアと一緒にサポートを頼む。今回タリスとパステルは主力だから、頼むぞ)
3人が返事をする。それを聞いてミーティングを締める。
「さぁ行くぞ」
そう言い放ち、転移の石を使ってボス部屋の前へ転移した。
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ボス部屋の扉を開けると、天井が見えないほど高く、奥行きも見る限りでは奥まで見えないほどの大きさの部屋に出た。
魔力探知を使うとその部屋の中心辺りにゴーレムがいるようだ。名前はミスリルゴーレムとあった。
「ここからでは見えないが、部屋の中心にミスリルゴーレムがいるらしい。タリスとパステルは少し下がって付いてきてくれ」
そう指示を出し、ゆっくりと慎重に進んでいく。少し歩くとそのボスが姿を現した。
(ちょ、でけぇ……)
高さは10mを越えているだろうか。相手の顔を見るには相当見上げないとならない。
(これじゃ目を狙うのは無理そうだな)
「ネク行くぞ」
同じ盾役のネクに声を掛けて進む。この巨体から繰り出す攻撃だ。盾なんかで防いだら飛ばされるだろう。受け流す事自体難しそうだ。
ネクは3mもある武器だった為結構遠くからハンマーで殴り続ける。物凄い音を立てている。
(すげー威力だな。間違って当たったら即死しそうだ)
ゴーレムの攻撃より遥かに危険を感じる。ゴーレム自体は類に漏れず動きは遅い。ただ腕がでかいので余裕を持って回避しないと間に合わないようだ。
踏み潰されないように股下を通ったりして剣で斬りながら戦う。
ティアとコクは後衛のマジックポーションを出して飲ませたりしてサポートをしている。ティアに抱えられ無理やりポーションを飲まされるタリスが哀れである。
そうしている内にゴーレムはどんどん傷が付いていく。タリスやパステルの攻撃はもちろん、ネクも負けていない。
魔法と打撃でどんどん傷が増えていく。もう少しで倒れそうだな、と思った時それが起こった。
突然ゴーレムの動きが止まったかと思うと、物凄い速さで動き出した。
「これは……暴走なのか?」
今までのように誰かを狙うような攻撃をせず、暴れまわっている。その際の攻撃の速度はかなり速く地面に何度も腕が当たっている。
「これは近寄れないな。タリスとパステルは遠くから魔法を撃ってくれ」
指示を出し攻撃をして貰う。すると突然こっちにゴーレムが走ってきた。その速度は時速80kmを越えていたかもしれない。初速度がないのでいきなり近寄ったようにも見える。
(これはかわせない)
どうしようもなく剣を投げ捨て盾を両手で構える。回避しようにもゴーレムがかなりでかい為避け切れない。踏み潰されるのと体当たりされるのどっちかいいかの差である。
突っ込んできたゴーレムの腕に当たると俺は吹き飛ばされる。4,5mの高さまで飛びそのまま壁に後頭部をぶつける。幸いなのか解からないが、コクの作ってくれた兜のお陰で生きては居る。
盾は飛んでいるときに落としたようだ。後頭部を強くぶつけた為頭がぐわんぐわん言っている。目の前は霞む。両腕の骨も折れているらしく変な方向に曲がっている。
ティアがこちらに走ってくる。
「ご主人様!大丈夫?」
ティアが心配そうに聞いてくる。
「ああ、何とか生きてる……」
何とか返事をする。皆は大丈夫だろうか。
「皆は無事か?すまないが良く見えないんだ」
そうティアに問い掛ける。目が霞んだままである。回復薬をティアから貰って飲むが中々回復しない。
「……」
ボスの方をみるティアの顔が険しい。何が起こっているのだろうか。
数分だろうか、しばらくするとティアが突然俺の体を持ち上げ、投げ飛ばす。その後何かが折れるような嫌な音が鳴る。
見えないのが幸いだったのかもしれない。すぐに俺の意識は途絶えた。
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※グロい表現があります。ご注意下さい(今までの中で一番酷いかもしれません)
タリス視点
マスターがゴーレムに飛ばされた。凄い高さまで上がって壁にぶつかって落ちた。
あたしはそれを呆然と眺めていた。
ネクは怒ったようにハンマーでゴーレムを殴りつける。パステルは精霊を召喚して直接攻撃を与えている。
この2人はマスターが居なくても冷静に対処して戦おうとする。ネクは前世が、パステルは1人で居た頃の経験なのだろうか。
あたしもようやく正気に戻って攻撃に参加する。私たちは消えていないし、マスターへはティアが走って向かったから大丈夫だろう。
そうであれば重要なのは早くボスを倒してこの戦闘を終えることだ。そうすればマスターを拠点まで連れて帰ってすぐに治療が出来る。
数分そのまま戦っていると突然ゴーレムの目の部分から細い線のような光がこちらに向かってくる。
パステルがそれにいち早く気が付き、光が到着する前にあたしをその光の範囲外へ押した。
コクとパステルをその光が包む。肉の焼けるような臭いがして中でコクとパステルの叫び声が聞こえる。
あたしは恐怖に顔を歪めながらその声を聞く。すぐに光の粒が2体分目の前に現れる。光の線が消えるとそこにはもう誰もいなかった。
ネクまでその声が聞こえたかどうかは解からない。ずっと攻撃を続けている。もう防御も何もない。
ゴーレムが素早く腕を振るとネクにぶつかりネクの体が崩れた。ネクまで倒され消えた。
(次はあたしの番かな……)
もう倒す事も出来ない。仲間も半分倒された。諦めて攻撃を止めてしまう。
そんなあたしをゴーレムは無視するとマスターが飛んでいった方向へ走り出した。
(っ!!)
恐怖と諦めでマスターが居るのを忘れていた。すぐに気が付きマスターの方へ全力で飛んでいく。
ティアがマスターを支えていた。ゴーレムの接近に気が付いたティアがマスターを投げ飛ばしその突進の範囲外へと逃がす。
その直後ティアはゴーレムに踏み潰された。骨が砕ける嫌な音と共にゴーレムの下からは血が広がる。
ゴーレムは足を上げマスターの方を向いた。ゴーレムの足の下には既にティアはいなかった。
(ああ……)
あたしは仲間が次々と殺されていくのを見せられ涙を流しながら、マスターがゴーレムの手によって潰される瞬間をテレビの映像を見ているのと同じように漠然と見ていた。
薬品は飲んで瓶を捨てると勝手に消滅します。調合をする際に薬草をすって潰し、すり鉢に水を入れるといつの間にかその量に合った瓶が現れています。
主人公も最初は驚いていましたが、そんなもんなんだ、と無理やり納得して気にしないことにしているようです。
変な所でご都合主義ですね。わざわざ瓶の描写をするのが面倒だからという訳ではありません。本当ですよ?
残酷な表現ってこれくらいはOKですよね?
パーティの全滅の際、主人公は真っ先に倒されます。それは残酷な表現の大場面と通常時分ける為でもあります。
どうしても苦手な人は多いでしょうし、それ以外を楽しんでいる方には申し訳ないので分けています。
無くせば良いじゃないか、と仰るかも知れませんがどうしてもそういう世界観として捨てることは出来ません。
物語を深く知る為、仲間たちとの絆を確認する為にもそういった表現は不可欠だと思っています。




