28話
昼になり、探索の準備を整え3階層2階へ移動する。
「あ、言い忘れたが、魔力感知を俺とタリスに、付与魔法をタリスに、神聖魔法をパステルに覚えさせたから」
昼までの休憩中に言えば良かった話である。ゴロゴロしてて忘れていた。
「え?あ、はい」
「おーこれかー生体感知みたいだね」
パステルとタリスが答える。
「付与魔法はまだ活躍する場は無いと思うが、アンデッド向けなら神聖魔法が良いと思う。治療魔法もあるらしいから、積極的に使ってくれ」
「解かりました。熟練度が上がれば昨日の主様の傷くらいなら治せるかもしれませんね」
どこまで出来るのかは不明である。だが、あるに越した事は無いだろう。魔力多いみたいだし。
「では、捕獲できそうなドワーフを探すぞ。タリスとパステルはゴーストを警戒してくれ」
「ほーい」
「はい」
2人が返事をする。感知スキルも特に問題ないようだ。探索を開始する。
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しばらくゴブリン、ドワーフ、ゴーストを倒しながら進む。ゴーストを見かけるとビクッと肩を震わせるティアが可愛い。
良さそうなドワーフ(女)を探していると何故かピッケルを持って採掘しているドワーフの女が1体だけで居た。魔力で生まれ、本能で戦うモンスターのやる事ではない。
(何をしているんだ?)
鉱石を取ったとしても鍛冶自体をする場所も本能もないはずである。
(よし、君に決めた!)
「あのドワーフを捕獲するぞ。このまま奇襲をかける。皆は周囲の警戒をしてくれ」
1体だから1人でもどうにかなる。奇襲をかけるのであれば少ない方が足音は小さい。こちらに背を向けているドワーフの元へ走る。そのまま一気に距離を詰め胴に剣で突く。
勢いに任せた一撃はドワーフの皮鎧を貫通し瀕死のダメージを与える。拘束アイテムを投げ付け、捕獲に成功する。
(相変わらずだけど、酷いもんだな)
恐らく何が起こったかすら理解出来なかっただろう。モンスター相手だからと言ってしまうのは簡単ではあるが、慣れたくはない気持ちはある。
(使い魔から見て今の俺はどんな感じなんだろうな)
「よし、成功した。帰還するぞ」
そう皆に告げ、羽を使用して帰還する。
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拠点に戻り、本日はもう探索は無い事を皆に告げる。
そのまま各々やりたい事をやるようだ。俺はそのまま牢屋へと向かう。
いつものように筒に拘束アイテムを入れる。すると150cm程だろうか、手足を拘束された小柄な少女が現れる。
少女はこちらをじっと見ているが、睨む事もない。
(怖くないのだろうか?)
今までに無い反応である。パステルとネクは当てにならないが、タリスとティアの時は震えてたり泣いていたりした。
そう困惑していると
「こんにちは」
笑顔で挨拶された。
「え?あ、はい。こんにちは)
こっちが戸惑ってしまう。
(どんな状況でもやる事は変わらない)
「俺の使い魔になってくれないか?」
落ち着きを取り戻し、定型文を伝える。
「いいよ」
笑顔で答えられる。
「えっ?いいの?」
あっさり条件も何もなく許可が出る。今までの交渉は何だったんだろうか。このドワーフが特殊なのかもしれない、と考えを締めくくる。そうしないと何となく悔しいじゃない。
ドワーフはニコニコしている。何がそんなに楽しいのだろうか。
「それじゃ、お言葉に甘えて”テイム”」
スキルを使用するとドワーフの情報が入り込んでくる。やはり珍しい個体だったらしい。
「よし、完了した。俺はスズキだ。宜しく頼む」
「スズキさんね。よろしく」
ドワーフの手足の拘束を外しながら紹介をする。拘束が外れるとドワーフを2,3回その場でジャンプし、調子を確認する。
「それじゃ、他の仲間を紹介するから付いて来てくれ」
「はーい」
元気良く返事をする。何と言うか拍子抜けである。
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牢屋から出るとコタツに皆座っていた。その場所までドワーフを連れて行く。
そういえば名前か・・・ドワーフ、ド、弩、クロスボウ、クロ、黒、コク。
相変わらずの連想である。
(コクでいいか)
「お前の名前はコクな」
頭が手を乗せるのに丁度良い位置だったので頭を撫でながら言う。俺は撫で癖でもあるんだろうか。
「コク・・・コク」
コクは自分の名前を何度も口にし、満面の笑みを浮かべた。
「さて、スケルトンがネク、フェアリーがタリス、獣人がティア、エルフがパステルだ。こいつはコク。皆よろしく頼むぞ」
紹介をする。
「今コクという名前を貰いました。ドワーフです。宜しくお願いします」
元気良く挨拶をする。
「さて、コク。お前は鍛冶は出来るか?」
鍛冶をして貰う為に捕獲したようなものである。できないと言われても正直困る
「え?鍛冶をしていいの?」
逆に聞かれる。鍛冶をやりたかったのだろうか。
「ああ、存分にやってもらう」
そう答えると、凄い笑顔でこちらに突進してきた。
「やったー。鍛冶をずっとやりたかったんだー」
俺を抱きしめながら言う。本来、女の子に抱きしめられるのなら嬉しいが……。
(ちょ、力強い。苦しい……)
かなりきつい。だが、男として女の子に抱きしめられてギブアップするのも情けないと思ってしまう。
実際は多種族の世界ではそんな考え自体起こりえないわけだが、俺が元居た世界は人間のみなのである。
「ああ、期待している……」
引きつった笑顔でこちらも答える。水面下で今までに無い恐ろしい戦いが始ま……らない。
「そろそろ鍛冶場の準備をするから離れてくれないか?」
早くもギブアップである。コクは名残惜しそうに離れる。俺はそのままパソコンへと逃げるように向かう。
(さて、鍛冶場を作る前にステータスを確認するか)
名前:コク
性別:女
種族:ドワーフLV1
職業:ファイター
種族適正
腕力強化:力が強くなる。
鍛冶、採掘ボーナス:鍛冶スキルと採掘スキルを使用すると通常より良い物になる。
職スキル
熟練度最適化、勇気
スキル
斧術LV1、採掘LV25、鍛冶LV20、料理LV10、調合LV10、彫金LV20、魔道具作成LV5、裁縫LV20
固有スキル
鍛冶神の申し子:鍛冶による製作品に大きなボーナスが付く。
生産特化:生産スキルを使うと獲得経験値が+50%される。ただし、戦闘での経験値が-50%になる。
装備
武器:なし
盾 :なし
頭 :なし
胴 :布の服
足 :なし
装飾:なし
(なんという生産特化……新しく付けるスキルが無い)
またもや固有スキル持ちである。戦闘向けではないようだ。
(人数が足りない間は入ってもらうとして、揃ったらサポートに移ってもらった方が良さそうだな)
戦闘時はこれを使えとコクに鋼のアクス、鋼の鎧、兜、グリーヴを渡す。
コクを仲間にするまでに獲得した戦利品を処分する。これで合計DPは60000になった。
鍛冶場(炉や金床など)がセットになった部屋は最低1000DPで買える様だ。
折角なので、10000DPを消費し上級セットを購入する。テレビが遠のく。
次に鉱石と皮があると良いかなと思い鉱石をLV4の2時間、皮をLV3で6時間を設定する。これで合計1500+300と700消費になる。
鉱石はLV4で銅、鉄、鋼、魔法銀、皮は兎、牛、リザードの皮になるようだ。
これで合計が12500DP消える。残り47500DPである。この階に来る前まで減ってしまった。
鍛冶場は空き部屋の隣に設置する。鉱石とかは無限箱置き場へ。
「鍛冶場を作ったぞ。見てくると良い」
そう皆に告げると移動する。鍛冶場の扉を開けると……
「これはまた……」
60畳の大部屋に炉や金床が何個も設置してある。コク1人で使うのには無駄が相当多い。
コクは信じられないのか俺と鍛冶場を交互に見ている。
「予想より大きかったようだ。キャンセルは出来ないから好きなだけ使ってくれ」
コクの頭を撫でながらそう伝える。
コクは俺に抱きつくと俺の方を向くと涙を流しながら礼を言ってくる。先程のように力強くない普通の抱擁である。
涙を流すほどの事なのだろうか、と疑問に思っていると
「ドワーフにとって作業場を貰うというのは1人前として認められた事らしいです」
パステルがそう言ってくる。相変わらず詳しいようで。
早い話が間借り出来る程度だと思っていたらやたらでかいのを貰ってしまったという事なのだろう。
コクの頭を撫で、そして告げる。
「コク、この鍛冶場に恥じないような鍛冶師になれ」
そう無理やり良い話にしようとする。何か面倒になってしまった。
「はい!!」
元気良く返事をする。騙されてくれたようだ。
タリスは全く、と呆れており、ネクは相変わらずニヤニヤしている。ティアは鍛冶には興味がないらしく、既にコタツへ戻っている。
今日も平常運転である。
何となくDPあるし良い部屋作るか→でか過ぎwwwww→ドワ子泣き始めた→どうしよう→種族のうんぬん→面倒くせぇ
これが主人公の気持ちです。何か努力して感謝されるのならまだしも誤解だったので、感謝を素直に受け止められなかったみたいです。
そもそも鍛冶場を作ったのは自分のためですしね。




