24話
翌日目が覚める。豪華なベッドの寝心地は最高だった。更に上のベッドもあるようだが、どうなってしまうのだろうか。
上半身を寝惚けながら起こす。左右を見るとティアとパステル、少し奥にパステルの隣にタリス、ティアの隣にネクが寝ていた。
(いくらベッドのサイズがでかいからって全員は狭いだろ……)
やはり寝心地が気になってしまったのか、全員集合である。ネク以外は気持ち良さそうに寝ているのが解かる。ネクはさっぱり解からない。骨だし。
左右が埋まっているので、移動が出来ない。さすがに踏んでいくわけにはいかないし、そもそも掛け布団を捲ったら皆が起きそうだ。
スルスルと抜け出すわけにも行かず、しばらく皆の寝顔を見続ける。
(平和だなぁ……このまま探索をせずに皆と一緒に生活をするのも良いかも知れない。そういえば、何で俺はこの迷宮を攻略しているんだろうか)
元々戦闘もしたことのない普通の一般人である。死なないとは言え、わざわざ苦しむ危険を犯してまで探索する明確な理由がない。
(何でだろうな。皆と一緒に探索し迷宮を攻略していくのが楽しかったのかもしれない。ただ何もせずにずっと怯え続けるのが嫌だったのかもしれない。
だけど、探索のお陰でみんなと出会えた。これは確かだ。もしかしたら、まだ見ぬ仲間が居るかも知れない。そう考えると攻略を辞められないな。)
結論付ける。まだ探索は続けよう。ティアの猫耳の付いた頭を撫でながら考える。耳を撫でるとくすぐったいのかビクビク動く。何となく面白い。
ティアの目が開く。起こしてしまった様だ。何故かこちらに抱きつき、そのままキスをされる。
「おはよう」
無理やり剥がして挨拶をする。
「……おはようございます」
少しムッとした表情で返ってくる。他の皆が何時起きるか解からないし、アレ以上は危険だ。ティアの頭を撫で慰める。
ティアがしばらく俺の腕の中で撫でられていると、タリスが起きたようだ。
「おはよう」
「おはよー」
挨拶を交わす。そのままタリスは飛びながら部屋を出て行く。顔を洗いに行ったのだろうか。そろそろ皆を起こそうかと思いネクに手を伸ばそうとする。
触れる寸前にネクが上体を起こす。そしてニヤリとした感情を向けてくる。
(こいつ、起きていやがった……!!)
相変わらず良く解からん行動をする奴だ。パステルの体を揺すり起こす。
「ん、んん……」
やばいです。色っぽいです。胸は余り無いが。
そう思いながらじっと見ているとティアがパステルの体を大きく揺する。
「な、何事ですか!?」
パステルが慌てて起きる。
「何でもないよ。おはよう」
苦笑しながら挨拶をする。
「そうですか。おはようございます」
そんな光景をネクが優しそうな慈愛のこもった笑顔で見ていた。そんな気がする。骨だからよく解からんけど。
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朝食、探索前の準備やパステルへ装備の譲渡(鋼シリーズの杖、弓、矢、防具)を終えるとミーティングを開始する。
「今回の探索はボス戦になる。今回のボスは大蜘蛛だ。ボスの部屋には蜘蛛の巣が大量に張ってある。最初の糸以外にもボスが随時追加してくるらしい。この糸は火によって燃やす事が出来る。
なので、燃やすのは魔法を使えるタリスとパステルが担当してくれ。ただし、パステルは初の戦闘という事もある。無理は絶対するな」
「あいよー」
「解かりました」
タリスとパステルが返事をする。
「次に大蜘蛛はその体から子蜘蛛を量産するらしい。その処理はティアが頼む。俺たちの中で一番素早くて機転が利くのはティアだしな」
「……はい」
「俺とネクは極力ダメージを食らわないように大蜘蛛に専念だ」
ネクが頷く。
「糸に引っかかったら必ず仲間を呼んで助けてもらえ、体液や攻撃を食らったら毒かどうか解からなくても良いから解毒薬を飲む事。一人も欠けずに倒すぞ」
「はい」
皆が返事をする、ネクはハンマーを頭上に構える。皆のやる気は十分だ。
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ボスの部屋の前に転移し、ボス部屋の扉を開けて入る。ボスの部屋は全体に白い糸が張り詰められていたが、ボスが見当たらない。
生体感知を使う。敵の位置は……上だ。
「上から来るぞ!気をつけろ!!」
天井から大蜘蛛が降りてくる。全長3mを越える大蜘蛛だ。正直キモイ。
「ネク、俺たちで皆を護る。行くぞ」
ネクとともにボスの前へ出る。タリスとパステルは火の魔法を詠唱開始する。糸の焼却が目的なので敵の位置に魔法を撃つ必要はない。その為、遠くに範囲の広い中位の魔法を使った方が効率いい。
子蜘蛛はまだ現れない。俺とネクが盾で防ぎながら少しずつ蜘蛛に傷を付けていく。ティアは蜘蛛の右側に陣取り両手の剣で蜘蛛を大胆に斬っていく。
魔法の詠唱が完成し、奥のほうから徐々に糸が燃やされていく。攻撃を多少食らうが、回復薬と解毒薬を毎回使用し、確実に回復する。今の所は順調だ。
斬っている内にティアが蜘蛛の足を1本切断すると蜘蛛が体勢を崩す。チャンスとばかりに俺とネクはそれぞれ蜘蛛の複眼を1つずつ潰す。
目を潰すと蜘蛛は苦しがり、糸の上を激しく動き回る。その姿を無理に追わずに盾を構えたまま見ている。しばらく暴れると今度は子蜘蛛を腹から出し始めた。
「ティア、頼む!!」
「はい」
ティアは短く返事をすると子蜘蛛を斬り始める。子蜘蛛から離れた大蜘蛛を盾で邪魔しながら剣で斬る。ティアが子蜘蛛を倒しきるとまた大蜘蛛への攻撃に参加し始めた。
魔法組も少しずつだが、確実に蜘蛛の巣を燃やしている。蜘蛛の足を数本切断し、順調にダメージを与えていく。油断もしない、確実にダメージを与えていった。
そう攻撃していく内に蜘蛛の足を半分切断する。蜘蛛の動きはかなり鈍くなっている。それだけにこちらから攻撃出来る回数はどんどん増えていく。
しばらく攻撃を続けていくと蜘蛛の動きが更に遅くなっていく。もう少しだろうか。そこでその攻撃は来た。
大蜘蛛は大量の糸を俺に向かって吹いてくる。避ける間もなく蜘蛛の糸に全身を囚われる。タリスが咄嗟に下位魔法を使い大蜘蛛と俺の間の糸を燃やす。これで蜘蛛に引き寄せられる可能性は消えた。
だが、蜘蛛の攻撃はこれだけではなかった。今までに無かったほどの子蜘蛛を腹から出し始めた。その蜘蛛は全てこちらに向かってくる。
「ネク、こっちには来るな。盾としてみんなを護れ!ティア、頼む」
盾役が2人居なくなってしまっては、前線が崩壊する。ティアは子蜘蛛から俺を護るように攻撃を繰り返すが、数が多すぎる為数体こちらへ突破してくる。それをタリスとパステルが下位魔法で焼いているがそれでも間に合わない。
数体の蜘蛛が糸の合間から俺の体を食いちぎる。俺は動けない以上歯を食いしばって耐えるしかない。腕も動かないので回復薬は飲めない。痛みで目の前が白くなる。
ネクは防御を捨てて早く倒そうと必死に殴り続けている。タリスはこちらの蜘蛛を1体1体倒している。パステルは火の精霊を召喚し大蜘蛛に攻撃をする。ティアは傷付きながら子蜘蛛の数をどんどん減らしていく。
俺はひたすら意識を失わないよう耐え続ける。
そんな事をしばらく続けていると遂に大蜘蛛は倒れた。全員満身創痍である。俺はあっちこっち食われ血塗れ、ネクとティアは毒を治す余裕すらなく攻撃し続けた為、ネクは片手が、ティアは両手と片足が腐敗していた。
五体満足なのはタリスとパステルだが、魔力を多く使った為力なく座っている。
蜘蛛の糸が消え、回復薬を取り出し回復する。少なくとも俺は両手両足は無事だ。剣を杖代わりにかろうじて立っていたティアを支え回復薬を飲ませて血を止める。
*2階層のボスが倒れました。3階層が開放されます。またこの拠点からこの部屋への直通ゲートが開放されます。*
事務的なメッセージが流れる。どうやら戻ってもいいらしい。やっぱり宝箱はない。
「ネク、タリス、パステル。辛いだろうが、落とした武器を全てアイテムボックスに入れてくれ」
ティアを支えながら言う。装備を回収し、全員で直通ゲートへ入り帰還する。
勝てたことは嬉しいが、喜べるほどの気力は無かった。
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拠点に帰ると、真っ先にティアを抱えながらベッドへと行き、寝かせる。
「ティア、頑張ったな」
頭を撫で、触れるだけのキスをする。気障だと思うが、ティアに取ってはこれが一番の薬だろう。
片腕をなくしたネクもついて来る。
「ネク盾役ありがとうな。お陰で勝てた」
ベッドにゆっくり横になるネクの頭を撫でながら言う。スケルトンには痛みはないのだろうが、片腕をなくした姿は痛々しい。撫でていると嬉しそうな感情を示す。
大部屋のコタツでぐったりしているタリスとパステルを確認する。
「タリス、サポートをありがとう。助かった」
「はいよー」
本当に疲れているのか、返事はおざなりだ。ゆっくりさせてあげよう。
「パステル、初戦闘なのに凄く活躍してくれた。ありがとう。ゆっくり休んでくれ」
「私にはもったいないお言葉です。主様もお怪我をなされていましたが、大丈夫ですか?」
「体中痛いけど、そこまで深刻じゃないよ」
本当は物凄く痛い。何せ体中食いちぎられたのだ。こうして歩いているだけで気を失いそうだ。だが、皆のマスターとしてせめて出来る事をしたいと思う。
「食事を食べられそうなら好きに食べてくれ。俺とティアとネクは寝ていると思うから、多分食べないと思う」
「解かりました。どうかお体をご自愛下さい」
「ひゃっほーい。にくを独り占めだー」
パステルとタリスの声を背に受け、ベッドに入と、すぐ睡魔がやってきた。
ネクの感情を向けるという感覚ですが、そんな気がするという程度です。
確信があるようなものではありませんが、単純な感情なので解かり易く伝わります。
探索前の準備を具体的に書くと
・消耗品の在庫管理
・装備品の状態確認
・軽い準備運動
・無限箱が溢れていないかの確認
・皆の体調確認
こんな感じになります。




