18話
「装備はこれを使ってくれ」
ネクに防具をティアに武器と防具を渡す。
ネクがいつもの様に頷き、ティアは武器が2本ある事に首を傾げる。
「武器を2本って同時に使えないか?」
「使える……と思う」
そう言いながらロングソードを二本腰に佩く。
「探索は昨日の続きをする。ネクは俺と共に前衛。タリスは援護と周囲の警戒。ティアは無理せずに攻撃出来そうな時だけ出てくれ」
ネクとティアは頷き、タリスはほい、と返事をする。
「では行くぞ」
転移の石を使い楔まで瞬時に移動する。
例の山小屋だ。探索率は昨日の猫耳探しで半分以上終わっている。
山小屋を出て周囲を見渡す。特に敵の気配はないようだ。
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探索を続ける。途中、オオカミや獣人が多く出現したが問題なく切り捨てる。
ティアもたまに戦闘には参加するが、積極性は余りない。戦闘は苦手なようだ。
二刀流はシステム上の異常と言う訳でもなく当然のように出来ている。
(素早い動きで回避しながら二本の剣で戦うとかロマンだよね)
ティアの恐ろしいまでの回避率は遺憾なく発揮されカスリすらしない。
鎧とかいらないんじゃないか?と思うかもしれないが、万が一の為には必要だ。
そんな調子で戦いながら探索を続ける。
踏破率が100%近くになり、山小屋を発見できた。
山小屋に入ると階段がある。
(どうなっているんだろうな)
この疑問は、何度目になるか数えるのすら面倒になる。
階段を降り、扉を開けると
今度は森の中だった。
(今度は森かよ)
マップの名称が森と草原だった事を思い出す。階によって区切られていたらしい。
「視界が悪いな。奇襲に気をつけた方が良さそうだ。俺が前でネクは最後尾へ。タリスとティアは中間へ移動してくれ」
3人が頷く。エリアが変わればモンスターの種類も変わるだろう。警戒する事に越した事はない。
そのまま進んでいく。すると木々の間に蜘蛛の巣がかかっているのを発見する。
「嫌な予感がする。タリス、蜘蛛の巣を火で焼き払ってくれ」
「りょうかーい」
タリスは返事をすると火を纏った棒のようなものを蜘蛛の巣に向かって打ち出す。
蜘蛛の巣全体に火は燃え広がり焼けて崩れる。
(杞憂か?)
そう考えているとカサカサ音が聞こえて来る。そちらの方向を見ると巨大な蜘蛛が複数居た。
全長60cm程だろうか、かなりでかい。日本では見かけないような大きな蜘蛛である。正直気持ち悪い。
「ゲッ。ネクはそのまま警戒。タリス、ティア迎撃するぞ。火の魔法は引火に気を付けてな」
群れてはいるが、いきなり襲ってくる事はないようだ。攻撃を仕掛けたら解からないが。
俺とティアは剣を構え蜘蛛に向かって斬りかかる。それほど動きは早くないようだ。
盾で防ぎながら確実に斬りつける。1体に攻撃を仕掛けると蜘蛛は一斉にこちらへ向かってきた。
タリスは氷の棒を投げ付けている。火だけではないらしい。
(大して強くないな。攻撃力自体も高くないし気をつければ大丈夫そうだ)
そう考える。ある意味何かが起こるフラグとも言えなくはない。
しばらく戦っていると蜘蛛の1匹が突然液体を吐いて来た。
盾で防ぐが少し跳ねて右腕の布の服の部分に当たる。すると服に穴が開き直接肌に液体がかかる。
(溶解液かよ)
そんな事を思いながら戦いを継続する。そのまま戦っていると右腕の感覚が消えてくる。
(何だ?どこかにぶつけたのか?)
戦いながら違和感を覚える。徐々に腕の感覚がなくなり、剣を落としてしまう。
「マスター?」
タリスがこちらの異変に気が付いたようだ。
「すまん、良く解からないが、右腕の感覚がなくなった。後を頼む」
ネクとティアも気が付き頷く。最後の蜘蛛を倒すと3人がこちらに寄ってくる。
「ご主人様……」
ティアが心配そうな顔でこちらを見る。
「何だろうな、これ」
未だに感覚がない。肩は問題ないので腕を振っていると、突然腕がもぎれる。
「うおおおおお」
驚いた。感覚がない為、もぎれても痛みはないが血がどんどん流れる。泣きそうになる。
「ちょ、早く止血と回復薬を」
タリスが驚きながら言う。回復薬を取り出し飲む。この怪我に回復薬が効くのかどうかは解からない。
ちぎれた部分に布を当てて押さえる。
「とにかく戻るぞ」
3人は頷き、腕を回収し拠点へと転移の羽を使って帰還する。
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「早くベッドへ」
ティアが左腕を抱え俺をベッドまで連れて行かれ横になる。
表情に焦りが見える。タリスはどうしていいか解からずおろおろしているし、ネクは何故か祈る体勢で固まっている。
こういう時は意外と本人が一番冷静なのかもしれない。
ベッドに寝転がっているとすぐに血が止まる。どういう原理なんだろうか。
(感覚が戻ったらきつそうだな)
「ティア、ちぎれた腕を見せてくれないか?」
寝転がりながら言う。手伝ってもらいながら右腕の防具を外す。すると腕は紫色になっていた。
触ると凄く柔らかい。押すと切断部から血が出てくる。
「これは……もしかして腐っているのか?」
そういえば戦闘中に液体を腕に食らった。時間が経ってから効果が現れたと言う事は徐々に侵食されていたのだろう。
(体に受けなくて良かった……)
腕から体まで毒が回らないのは良く解からないが、いつもの解明できないこの迷宮の原理なのだろう。
手伝ってもらいながら鎧を外し、上半身の布の服をぬぐ、特に異常は見られない。
左手で自分の体を触りながら確認していると、ティアの顔が赤くなり、徐々に息を荒くする。
突然、ティアに口を塞がれる。口に舌を入れてくる。
「こんな時に発情すんな」
タリスがそう言い俺とティアを離す。ネクと協力しそのままティアを引きずり風呂の部屋へ向かう。
(まさか発情すると思わなかったな。次からネクかタリスに頼もう)
数分寝転がっているとネクだけが戻ってくる。そしてベッドの近くに来ると黙々と包帯を替える。
俺もなすがままに受け入れる。静かな時間が過ぎていく。
しばらくすると、タリスとティアが風呂場から出てきた。髪が濡れているのを見ると風呂に入っていたらしい。
「俺はこのまま寝る。夕飯は起こさなくて良い。勝手に食ってくれ」
と3人に告げる。
「解かったわ。安静にね」
タリスがそう言い。ネクとティアは頷く。それを確認すると目を閉じた。
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目を覚まし、時計を見ると6時くらいだった。右腕を確認すると、既に再生されていた。
(ベッドすげー)
痛みを感じる前に寝る事が出来たようだ。気分が悪いとかは特にない。
(次にあの液体を食らったらすぐに解毒薬を飲まないとな)
毒怖いです。
3人のベッドを見ると各々まだ寝ているようだ。
常に部屋は明るいから早く寝るという習性はない。
3人を起こさないよう静かにパソコンまで向かう。
戦利品の処理はどうしても静かに出来ないので、掲示板を見る。
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【2階層は】攻略スレ総合 part3 【異世界だった】
602 名前:名無しさん
火山がきつい
熱い、暑い
どうにかならないのか、これ
603 名前:名無しさん
薄着をする訳にもいかなしな
604 名前:名無しさん
そんな貴方にクーラード(ry
605 名前:名無しさん
そんなものはない
606 名前:名無しさん
魔法で氷を作るとか
607 名前:名無しさん
魔力が足りないだろ
608 名前:名無しさん
鍛冶とかでアイスアーマーとか作れないの?
609 名前:名無しさん
ああ、その手があったか
でもうちに鍛冶出来る奴がいねぇ・・・
610 名前:名無しさん
アイスアーマーというか鎧に付与で氷属性を付ける事は出来るぞ
だけど、火山だと火属性が多いから耐性が弱くなるけどな
611 名前:名無しさん
何と言う諸刃の刃
612 名前:名無しさん
マジで悩むな
水筒に水を入れて持っていっているんだけど20%踏破する前にすぐ切れる。
大量に持っていくにもDPがなぁ・・・
613 名前:名無しさん
セットじゃないのか
セット以外って高いよな
コップとかは10個まとめで100だけど、マグカップは1つ100とか
614 名前:名無しさん
100くらいは、と思う程度には安定して稼げてはいるんだがな
1階層攻略してた頃を思い出すと思わずケチってしまう
615 名前:名無しさん
そういえば、恐ろしい2階層ネタも随分減ったよな
熱いとかはそこまで恐怖を感じないし
溶岩に落ちたとかなら怖いが
616 名前:名無しさん
早い奴はもうボス戦を攻略とかやっているんじゃないか?
617 名前:名無しさん
もう2階層突破したって奴いたぞ
618 名前:名無しさん
はえーな
何が彼をそこまで駆り立てるのか
619 名前:名無しさん
ネタを提供しよう
毒を食らった
ほっといたら腕がもげた
620 名前:名無しさん
おぃ
621 名前:名無しさん
マジかよ
この世界の毒こえー
622 名前:名無しさん
解毒薬って1階層でも取れたよな
何で使わなかったんだ?
623 名前:名無しさん
毒だと気が付かなかったな
戦闘中だったし、感覚が麻痺して何だろうとは思ってた
624 名前:名無しさん
怪しいと思ったら即飲めって事か
気をつけないとならないな
625 名前:名無しさん
毒をもっていそうな敵って何だろうな
626 名前:名無しさん
俺が受けたのは蜘蛛が吐く液体だったな
627 名前:名無しさん
ゾンビとか
毒装備とか使ってくる人型種族が居そう
628 名前:名無しさん
でも美少女に噛まれて毒になるのならいいかも
629 名前:名無しさん
いや、噛み付いてくる時点でどうなんだよ
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パソコンの電源を落とす。
後ろを見ると3人とも丁度目が覚めたようだ。
3人とも心配そうな顔でこちらを見ている。
「大丈夫なの?」
代表でタリスが聞いてくる。ネクは喋れないし、ティアはどちらかといえば無口だしな。
「ああ、大丈夫だ。痛みも違和感もないよ」
異常は全くない。怪我人っぽく振舞っても仕方ないだろう。
「腕が再生されていたんだが、取れた方の腕はどうなったんだ?」
誰となしに聞く。
「……消えた」
ティアが一言だけ言う。
「消えたのか」
敵を倒した時みたいに粒子になって消えたんだろうか。もう俺自身、既に普通の人間じゃないのかもしれない。
「あの攻撃は毒かもしれないから、各自変な液体を掛けられたらすぐに解毒剤を飲むようにしよう。
1人でも欠けたら探索を続けられないから薬を使うのを躊躇わないようにな」
3人は頷く。手足ならまだしも頭や体に食らったら大惨事だ。仲間が腐るのを見たいとは思わない。
「それじゃ、今日は昨日の続きからだ。行こうか」
俺がいつものように締め括る。だが、3人は心配そうにこちらを見ている。
「マスター、本当に大丈夫なの?治ったとは言え腕を失ったのよ?」
タリスが聞いてくる。腕を回してみるが違和感もない。
「大丈夫だ。問題ない」
俺が答えると諦めたようだ。1日くらい引き止めたかったのかもしれない。だが、ベッドの機能は偉大である。
「では、行くぞ」
あ、戦利品の処理を忘れてた。




