エピローグ
迷宮と掲示板のラストエピソードとなります。
*スズキ視点*
翌朝、皆を起こさないように寝室から出る。そのままパソコンへと直行し起動させる。メニュー画面が表示されると同時にメールが来た。
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スズキ君、お久しぶりです。
あの後どうやら子供を多くもうけたみたいですね。
私もあの後2人目が出来まして、とても幸せな時間を過ごしています。
子供は無邪気でいいですね。たまに予想外のことをして焦る事はありますが。
さて、今回の質問ですが、お答えするか悩みました。
しかし、アンデッドまで孕ませたいというスズキ君の欲望に感服し答えるとしましょう。
方法は3つあります。
1つ目は、成仏し転生させて別の生命として生まれ変わる事です。
これだと記憶もなくなりますし、どの世界に転生するかはわかりません。
余りお勧めは出来ないですね。
2つ目は、1つ目を少し変えまして、貴方の使い魔の子供として生まれ変わらせる方法です。
ただ、本来その子供に入るはずだった魂は入る器がないため消滅してしまいます。
子供を殺して器を奪う感じになりますね。
使い魔の方々の事を考えるとこれもお勧めは出来ません。
そして最後ですが、そのまま人として再生させる事です。
この方法なら生前の姿になれる為、誰かを犠牲にする事もどっかに行ってしまう事もありません。
ここまで聞くと最後の方法が気になるでしょう?
なので、それだけ書くことにします。
やり方は簡単です。スキルの蘇生術を使えばそれで終了です。
そのスキルは数が少なく迷宮でも殆ど手に入らないでしょう。
他ならぬスズキ君ですし、毎回面白い事をしてくれたので無料で差し上げます。
これで彼女たちを幸せにしてあげて下さい。
あ、そういえばこれを使う際に1つ注意があります。
これを使うと戦士としてのネクさんは完全に死にます。
早い話が戦う能力が一切消えますし、今後同じような戦い方をしたとしてもスケルトンで居た頃より遥かに弱くなります。
レベルを上げても同様ですね。下手したらスズキ君より弱いでしょう。
これは、蘇生術の代償になります。素質を媒体に肉体を再生させます。
ネクさんの場合はその類稀なる戦闘センスを代償にする事になります。
ちゃんと事前に説明してトラブルの無きよう頑張ってください。
同時に使い魔の契約も解除されますので、再契約を忘れないように。
では、これでさせて頂きます。
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そんなメールと鑑定台に1つのスクロールが置かれていた。これが蘇生術のスキルなのだろう。
(素質を失う、か)
考えてみたらネクは才能の塊だった。スケルトンなのにブラックドラゴン戦でも全く引かずに戦った。俺の迷宮攻略も最初から最後まで一緒に居てくれた。
(ネクにとってどちらが幸せなんだろうな……)
俺には解からない。人になったら俺がするのかどうかは解からないが、幸せになる為に精一杯サポートをするつもりだ。
そう考えているうちに皆が起きてくる。俺はスクロールを懐に隠すと仲間や子供たちに挨拶をする。
「ネク、タリスちょっといいか?」
俺はネクとタリスに声をかける。今朝の件に関してどうするか悩んだが、こういうのは決めるのは本人の意思だ。
「ん?いいわよ。ティア、タチアナをお願い」
タリスはタチアナをティアに預けるとネクと共にこちらに向かってくる。俺たちはネクの部屋へと向かった。蘇生を行うのであれば、あそこほど合った場所はない。
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*ネク視点*
私とタリスはスズキの後について行き、私の部屋に入る。もしかしたら昨日の夜の事がばれたのかもしれない。スズキは祭壇の前で私たちの方へ向きを変える。
「ネク、人間に……生身に戻りたいと思うか?」
スズキはそう言ってくる。私は最初何を言っているのか解からなかった。
(人間に戻る?)
その意味を理解して私は肩を震わせる。もしかしたらその手段が見つかったのだろうか。そうだったら……とても嬉しく思う。
「ネク、ノートを使ったら?」
タリスが言ってくる。何となくタリス以外には筆談が出来るのを隠していた。今はそれ所ではないだろう。
『人間になる方法が見つかったの?』
それだけを書く。震えて字が汚くなったのは申し訳なく思うが、読めるだろう。スズキはそれを見て驚いた表情をするが、すぐに戻す。
「ああ、見つかった」
スズキはそれだけ言ってくる。私は鉛筆を落とさない様にしっかり持ち、ノートにゆっくりとそれでいてしっかりと書く。
『戻りたい』
ただ一言だけ。私にはそれ以上言えることはない。それを読むとスズキは「そうか」と一言だけ言う。そして懐から1枚のスクロールを取り出す。
「それを行う前に説明しなければならない事がある。このスキルは蘇生術と言うらしい。アンデッドも生前の姿に戻す事が出来ると管理者は言っている。だが……」
スズキはそこまで言うと一旦止める。何か言いにくい事なのだろうか。タリスと顔を見合わせてしまう。
「この蘇生術は対象の才能を代償にして肉体を作るらしい。ネクの場合は、その戦闘技能、センスを全てだそうだ」
スズキはそう言ってくる。その言葉を頭の中で良く考えてみる。戦闘技能やセンスを失うという事は……私に残るのは裁縫くらいだ。恐らく私の使い魔としての存在意義が全て消える。
そして私は恐ろしくなる。戦闘が出来なくなった私に存在する理由があるのだろうか。この世界を生きていく力があるのだろうか。何よりスズキの使い魔として居ても良いのだろうか。
それらが頭の中でぐるぐるとまとまらずに駆け巡る。
(考えがまとまらない……)
私がそうしていると、タリスがスズキから奪うようにスクロールを取る。そしてすぐにそれを覚える。
「ネク、何を迷っているの?迷って自分で答えが出ない問題なら、相手に聞いてしまいなさい」
まるで子供を叱る親だ。私はノートに悩みを何度も書いては消して、納得がいく文章になるまで何度も書き直す。スズキとタリスはその様子を静かに待っていた。
『戦闘が出来なくなっても私はここに居ていいの?私はスズキの使い魔として残っていていいの?』
それだけ書く。子供みたいな文章になってしまったが、動揺していたからと思って欲しい。私が思っていた以上に私にとってのこの居場所は大きなものになっていたようだ。
「ああ、もちろんだ。使い魔で居たいというならずっと一緒に居よう。約束する」
スズキがそう返事をしてくる。それなら、私が迷う事はもう何も無い。私は皆と一緒に居たい。人間になってもずっと一緒に居たいと思う。
『私を人間に戻して下さい』
落ち着いて一言、私はそれだけを書く。それを見たスズキは笑顔で私の頭を撫でる。もう言葉は要らない。
「はいはい、イチャイチャしてないでさっさと始めるわよ」
タリスは嫉妬をしたのかそんな事を言ってくる。まだスケルトンなのだから許して欲しいと思う。スズキは私のもとから離れ様子を見ている。タリスは私に手をかざすと何かを呟く、そして私は光に包まれた。
次に私が目を開けるとスズキとタリスがこちらを心配そうに見ていた。私は上半身を起こし2人を見る。
「ネク、大丈夫か?」
スズキが声をかけてくる。私は倒れてしまったのだろうか。長椅子に寝かされ私の体にはタオルがかかっていた。私は自分の体を触って確認する。以前の時の様に先程のあれは夢なのかも知れない。
(肌の感触がある……)
私は人間に戻っていた。スズキはそうしている私の頭を撫でてくる。髪の毛を撫でられる感触がある。それで私は実感した。
(人間に……戻れた……)
涙が出てくる。7年近くスケルトンとして過ごしてきた。ずっとスケルトンのままだと思っていた。
(戻れたんだ)
体は10歳だったあの頃と変わらない。そう、とても貧相な体だ。スズキはスケルトンの時私が使っていた服をアイテムボックスから取り出すと渡してくる。そして目を逸らす。
(そうか、これからは裸に気をつけないと)
スケルトンなら裸だろうが関係ない。誰も欲情した目で見てくる訳が無い。私はさっさと服と下着を着用する。凄く久しぶりの感覚だ。
椅子から立ち上がろうとするとよろけてしまう。タリスが慌てて私を支える。
「ネク、これからは怪我には気を付けないと駄目よ」
タリスが私をちゃんと立ち上がらせて言ってくる。
(少しぶつけただけで怪我をしてしまうんだ……)
そう、当たり前の事だ。だけど、その当たり前の事がなかった。私はそれを嬉しく思う。
「うん、タリスありがとう」
私はタリスにお礼を言う。タリスは一瞬驚いた表情をするとすぐに笑顔に戻り、私を抱きしめる。
(そっか、今声が出たんだ)
スケルトンで居た時も声を出していた気では居た。ただ声帯がないので、声として発する事はなかったのだろう。
「そろそろ俺にも頭を撫でさせてくれないかね」
スズキがこちらを見て言ってくる。相変わらずの撫で好きだ。
「いやよ。今日はあたしがネクを独り占めするんだから」
タリスはそんな事を言って私を離そうとしない。困ったものだ。
「うーん、1つだけ今のうちにやらないといけない事があるからそれだけ頼む」
スズキはそんな事を言ってくる。私には心当たりが無い。
(何だろう?)
そう考えているとすぐにスズキが口を開く。
「蘇生術を使うと使い魔としての契約が切れてしまうらしいんだ。再契約を結びたい」
どうやら今の私は使い魔ではないらしい。もう少し歳を取ってから使い魔になりたかったが、何が起こるか解からない。戦闘が出来ない以上死んでも復活出来る使い魔に戻った方が安全だ。
「解かったよ。その方が安全だろうしね」
私は承諾する。スズキはテイムと言ったが何も起こらない。どうしたのだろうか。
「何だろうな。最初から順序でやらないと駄目なのかね」
スズキにも良く解からないらしい。私たちは牢屋へ向かい、牢屋に入る。当然、鍵は開けたままだ。
「それじゃ、始めるぞ」
スズキは咳払いをしてそう言ってくる。もの凄い茶番だ。
「俺に従ってくれないかな?」
スズキがそう声をかけてくる。私はそれに対して首を振る。
「え?なら、俺たちと一緒に戦う事かい?」
スズキは一瞬不思議そうな顔をすると乗って来る。私は首を横に振る。
「それなら自由が欲しいのかな?」
懐かしいやり取りだ。スズキが覚えてくれて嬉しい。私はそれも首を振って拒否する。
「なら食事だ。これで合っているだろ?」
私がスケルトンの時はここで頷いた。あの頃はちょっと違う意味だったが、ここで縦に頷いたら私が食いしん坊キャラみたいだ。それも首を振って拒否する。
「う……なら何だ?俺か?」
思いつかないのかスズキは適当に答える。私はその答えに対して首を縦に振る。それを見たスズキは笑顔になり、テイムと唱える。私はスズキのモノとなった感覚が全身に伝わる。
「お前の名前はネクだ。宜しく頼むぞ」
スズキはそこまで定型文らしく、言ってくる。
「はい、マスター!!」
私は返事をするとスズキに抱きついた。
管理者の手紙の方法1と2にするかも悩みました。
1にして探す旅に出る終わり方もありなんじゃないかと
ただ、物語として続きの無い完全な終わりにしたかったので3つ目を選ばせて貰いました。
物語としてありがちな終わり方になってしまったと思いますが、綺麗な終わらせ方なんですよね。
これにて迷宮と掲示板のオマケを含めた物語の終了になります。
3週間近くの長い時間、お付き合いありがとうございました。
次回作、迷宮と掲示板(R-18版)にご期待下さい。
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* + うそです
n ∧_∧ n
+ (ヨ(* ´∀`)E)
Y Y *