表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮と掲示板  作者: Bさん
オマケ
116/125

エン

 斧と盾がぶつかる音が鳴り響く。俺は盾を引き剣を上段から振り下ろす。相手は鉄板のような盾を自らとの間にドスンと下ろしてガードする。こうなってはどうやっても正面からの攻撃は届かない。別方向から攻撃をする為、一旦後ろへ下がろうとすると、相手は盾を捨てて斧で俺を突いてきた。


 斧の先には刃がある訳でもないので全く殺傷能力はない。だがその突きは俺の喉辺りを的確に捉え、元々下がろうとしてた方向への力が更に足される。俺はバランスを崩し尻餅をついてしまった。そして斧の刃が目の前に来る。


「負けか……あそこで盾を捨てるとは思わなかったなぁ……」


 どうやらこの模擬戦は俺の負けらしい。模擬戦と言えども今回はいつも戦闘で使っている装備を使用した実戦さながらの戦闘だ。魔法有りの完全な殺し合いとも取れる。仲間のコンディションなどで迷宮に入れない時は、感覚を鈍らせない為こういった戦闘をやる事がある。


 とは言え転倒した相手にトドメを刺すほど殺伐としたものではない。あくまで模擬戦なのである。


「ご主人様、相手は必ずしも思惑通りの行動をするとは限りません。油断はなさらぬようお願いいたします」


 確かにこれが1対1ではなく仲間を守らなければならない状況であったのならエンは盾を捨てなかっただろう。当たり前の事だが、その状況で優先すべき事が違う。それを失念していた。


「ああ、解かった。しかしエンは魔法も近接戦闘も凄いな」


 俺がそう言うとエンは角兜を脱ぎながら少し照れた表情をしている。エンの様な武人気質の人も褒められるのは嬉しいものなのだろうか。


「しかし、俺は1回戦で脱落かー悲しいのやらいつも通りなのやら」


 俺はそう呟くと今やっている模擬戦の内容を思い出す。今、俺たちはトーナメント戦をやっている。何でも1位になると出来ること限定で願いを聞いてくれるとか。勝って好き勝手やりたかったが、さすがにこのメンバーでは優勝なんて出来る気がしない。


「次は私とリムですね」


「うむ、ちゃんと見ておるのじゃぞ」


 パステルとリムが観客席から腰を上げる。適当に椅子を持ってきて戦闘に参加していないメンバーは端の方で見ている。


---------------------------

*エン視点*


 戦闘はつつがなく進み、次は決勝だ。私個人としては優勝賞品にはさほど興味は無いが、仲間達と全力で戦えるというのは嬉しく思う。決勝は私とネクらしい。ネクは連戦なので休憩を挟む。ご主人様の方を見ると戦闘中に力尽きたリムとパステルが膝枕をされていた。片足に1人ずつは重いだろうに。全くうらやま……けしからん。


 そして私とネクは無言で同時に席を立つ。やる気は十分ある。私たちは訓練場の中央へ向かうとお互いの方向を向く。そしてティアが「始め!」と開始の合図をする。


 距離がある為、牽制の為に古代魔法でいくつか氷の矢を作り出す。こんなので倒せるとは思っていない。ネクの吸収スキルもある。ネクはそれを難なく受けると神聖魔法を自分の武器に纏わせて攻撃してくる。付与魔法とは違い一時的な攻撃力アップだろう。


(アンデッドなのに神聖魔法とは全く規格外ですね)

 

 私は盾で受けるとそのまま盾を相手の方へ押し込む。巨大な盾なので受け流したりは出来ない。ならば、単純な話だ。そのまま突撃をすればいい。私は盾を前面に構えるとそのまま体ごとネクへぶつかりに行く。ネクは炎王の鎚に持ち替えそれを盾にぶつけてくる。凄い衝撃だ。私の突進はそれで止められてしまう。


「あれには混ざりたくないなー」


 ご主人様の声が聞こえる。だが、今はそんな事に構っている余裕はない。炎王の鎚は強いが大振りだ。見切れないことはない。確実に自分に当たらない様に盾にぶつけていく。そして私は盾を固定し、その影に隠れ魔法を詠唱する。


(ネクには攻撃魔法は効かない。精霊化したら魔法しか使えない。なら必要なのは自己強化魔法……そして絶対防御)


 私は風を身に纏い速度を上げる。そしてスキルの絶対防御を発動する。盾を捨て斧を片手にネクへと突っ込む。炎王の鎚はまだ属性を付与していない。ならばこの防御を破る事は出来ない。炎王の鎚で私を殴ってくるが、それを無視しネクへ斧を振りかぶる。ネクは盾でそれを受け流すが、武器が巨大すぎて反撃が出来ないようだ。私は連続で何度も斧で攻撃する。


 そして私はネクの盾を飛ばし、ネクの体に斧を当てようとするとネクは炎王の鎚を捨ていつもの鎚に持ち替えてそれで斧の軌道を逸らす。


(一筋縄ではいかないようですね)


 既に絶対防御の効果は切れている。両者盾もなく膠着している。この間合いなら炎王の鎚は振り回せないだろう。こちらも魔法の詠唱をする余裕もない。


(切り札を使いますか……)


 ネクが攻撃する為に1歩踏み出そうとする。その瞬間を狙い、凍結の斧の力を解放し地面を氷にする。ネクは踏ん張る為に足に力を入れてしまった事で地面を滑る。そして私はバランスを崩したネクの首に斧を軽く当てた。


 ネクは武器を離し降参のポーズをする。どうやら私の勝ちの様だ。この斧は対象を凍らせる効果があるが、ネクに直接使っても魔法扱いで吸収される。その為、地面に使い、バランスを崩させる為に使用した。


 普通の戦闘中にそんな事をしたら仲間が引っかかるかも知れないので使う事は出来ない。その為、今までこの斧の効果を皆に見せた事はなかった。少しずるいかも知れない。


 私とネクは観客席まで戻ると装備を全て外し布の服に戻る。そのまま椅子に座り休憩する。


「2人とも凄かったぞ。エン、優勝おめでとう。約束の報酬は何か良い?」


 ご主人様が聞いてくる。特に欲しいものがなかったので、何も考えていなかった。


「ありがとうございます。今は思い付かないので、後でお願いします」


 正直に答える。適当な事を言ってもご主人様に申し訳なく思ってしまう。後で良く考えて頼もう。


「そうか、なら後で言ってくれ。今回の模擬戦は終了だ。皆お疲れ様」


 ご主人様が模擬戦を締める。次は多数対多数の模擬戦をしたいものだ。



----------------------------------


使い魔専用スレ part13


688 名無しの上位精霊さん

ご主人様が何か願いを叶えると言ってきたのですが

何が良いのでしょうか?

皆さんの意見を教えてください


689 名無しのフェアリーさん

え?

食事と娯楽かなー


690 名無しの猫耳さん

ご主人様の愛が欲しい


691 名無しの犬耳さん

また抽象的なことを・・・

でも同意します


692 名無しのエルフさん

そういうのを願いとして頼むのはどうかと思いますよ

私は本ですかね


693 名無しのゴブリンさん

俺は嫁かな

使い魔は全員マスターの手付きだろうし

さっさと外の世界に出て欲しいよ


694 名無しのオークさん

俺は武器だな

さすがに未だに棍棒はどうかと思う


695 名無しのリザードマンさん

私は戦いがあればいい

しかし、オークの棍棒は酷いな

戦闘に出ていないのか?


696 名無しのオークさん

いや、出ているぞ

何故かこの棍棒を持つと凄く気分が高揚するんだ

気が付いたらドラゴンを叩き潰してた


697 名無しのコボルトさん

それって棍棒なのか?

何か特殊な装備じゃね?


698 名無しのオークさん

それは解からん

自動販売で買って来たとか言ってたな

でも、刃物の装備って憧れるだろ?


699 名無しのリザードマンさん

そこまで強い棍棒なのか

ならずっと大切に使え

主からの信頼の証みたいなものだぞ


700 名無しのオークさん

そう言われると新しい武器が欲しいとは言えないな

見た目はあれだが、性能がいいから我慢しよう


701 名無しのヴァンパイアさん

ワシは血が欲しいのぅ・・・

たまには思う存分飲んでみたいんじゃよ


702 名無しのフェアリーさん

いや、思う存分飲んだらマスターが死んじゃうから

さすがに願うのは難しいと思うわよ


703 名無しの上位精霊さん

なるほど

自分の身近な願いなんですね

参考になりました、ありがとうございます


-------------------------------


(身近な願いですか……娯楽や装備は充実していますし、食事にも不満はありません)


 私がコタツで悩んでいるとタリスがやってくる。


「どうしたの?」


「いえ、今回の賞品で悩んでいるのですが、思いつかなくて……」


 タリスが聞いてきたので私は悩んでいる事を伝える。


「なら、マスターに甘えさせてもらったら?エンはいつも真面目だからたまにはいいんじゃないかな」


 タリスがその様な事を言ってくる。私がご主人様に甘えるなんて思いつきもしなかった。


(リムやティアの様にご主人様に甘える……良いかも知れないですね)


 今までそういった事をした事がない。たまには良いのかもしれない。私は戦場、それも死地へ向かう気概を持ってご主人様のもとへ向かっていった。



 探し回るとご主人様は自室にいた。1人コタツに入って読書をしているようだ。私はご主人様の後ろに回るとそのまま抱きついた。ご主人様は驚いたようだが、私はそのまま続ける。


「今回の報酬ですが、ご主人様に甘えさせてください」


 そう耳元で囁く。するとご主人様は「解かった」と言うと私を膝の上に乗せて抱きしめながら頭を撫でてくれる。


(こ、これは恥ずかしいですね。他の人に見られたらと思うと恐ろしいです)


 とは言えそのまま離れるつもりはない。私はご主人様の胸に顔を埋めるとそのまま抱きつく。しばらくそうしていると物音がする。扉の方を見ると扉の隙間からネクがこちらを見てニヤニヤしている感情をぶつけてくる。


(あ、ああ、あああ)


 頭が混乱してくる。慌てて離れようとするが、ご主人様はきつく抱きしめているので離れる事が出来ない。そして私の思考は臨界を越えて停止した。


模擬戦ルール

・スキル、武器、魔法なんでもOK。

・ただし、装備は最初に宣告した物しか使ってはならない。

・致命傷、もしくは死亡、降参で勝敗を判定する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ネクのニヤニヤを久しぶりに見た気がします。 こういう場面では事欠かないですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ